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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルセレクト・197『俺が こんなに可愛いわけがない・1』

2020-02-01 06:18:31 | ライトノベルセレクト

ライトノベルセレクト・197
『俺が こんなに可愛いわけがない・1』


 

 由香里が可愛いのは分かっただろうから、今日からタイトルが変わるぜ。

 いえ、変わりますので、どうぞよろしく。

 今日は、由香里に付き添って、Hホールのロケに行った。
『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』の中のピノキオホールと、コンクールの本選の撮影をやるので、広告を打ってエキストラの募集もやっていた。
 市内の高校四校にも、募集の案内が来ていた。

 断っておくけど、市内には五つの高校がある……。

 勘のいい人にはわかるだろ。いや、でしょ? 我がH高校は、その評判から、エキストラの案内は来ていなかった。むろんネットで流されている一般募集で出られないこともないが、所属のところに「H高校」と打ち込むと、それだけでハネられるという噂だった。合格者には、ネットアドレスで「合格証」が送られてくる。俺……あたしは由香里の従姉で、ヤンキーの演技指導もしたし、マネージャーに顔も通っているので、なにも言われずに、堂々と付き添いで出かけた。

「え、君が、あの時会った従姉さん!?」

 マネージャーも他のスタッフも驚いていた。この業界の人たちのヒラメキは大したもので、あたしを由香里の側に置いて、少し由香里のことを嫌がっている女子高生という設定になった。あたしが側に居た方が、由香里が安心して演技が出来るからだ。

 そして、本番直前に気が付いた。翔太にボコボコにされたMが真後ろに来ていた。

「よう、薫。それ衣装? メイク? すごいイメチェンじゃん。あ、こないだはどうもね」
「それは、もういいから。それよりエキストラなんだから、あんまし目立たないようにね」
「わかってるよ」

 最初は、雰囲気を掴むためと、そのものを撮るために、劇中劇の『すみれの花さくころ』が、そのまま上演された。プロだから当たり前なんだろうけど。切ないファンタジーに感動した。で、ラストは助監督の田子さんの指示だけではない、ごく自然な拍手が起こった。

「はい、みなさん、大変けっこうでした。これからカット毎のシーン取りになります。その都度初めて観たような感動くださいね。では、由香と裕也が感動するところをやります。一回リハーサルやりますんで、よろしく」
 観客席の由香役のさくらさんと勝呂さんのところに薄いライトが当たりレフ板やマイクを持ったスタッフが周りを固め、二台のカメラが付いた。あれだけの人に囲まれながら、よく自然な演技ができるもんだと感心した。むろん劇中劇にも。すみれと幽霊のかおるが仲良くなって、新聞の号外で紙ヒコーキを折って大川に飛ばしにいく。紙ヒコーキは風に乗って見えなくなるところまで飛んでいく。

 そして、かおるの体が透けて、消え始める。

すみれ: かおるちゃん……。
かおる: これって、成仏するともいうのよ。だから、そんなに悲しむようなことじゃない……。
すみれ: いやだよそんなの。かおるちゃんがこのまま消えてしまうなんて!
かおる: 大丈夫だよ、すみれちゃんにも会えたし……。
すみれ: いや! そんなのいやだ! ぜったいいやだ!
かおる: すみれちゃん……。
すみれ: ね、あたしに憑依って! あたしに取り憑いて!あたし宝塚うけるからさ!
かおる: だめだよそれは。そうしないって決めたんだから。
すみれ: あたし、素質あるんでしょ? あたし宝塚に入りたいんだからさ。ね、お願い!


 指示されていなくても、泣けるシーンだ。観客席には再び感動の波が押し寄せてきた。

 そして、もう三カ所ほど部分撮りして、午前の部が終わった。あたしは劇中劇の感動もあって、本当に女の子らしい薫……奇しくも劇中劇の役と同じ名前。そんなかおるに成れたと思っていた。

 でも、なかなか「俺」は「あたし」にはさせてもらえなかった……。

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・27「和解のシュチュエーション」

2020-02-01 06:09:52 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)27
「和解のシュチュエーション」                   


 
 演劇部は、部室棟から締め出されそうだ。

 部室に湧いた害虫をバルサンしたところ、害虫たちは他の部室に移動して大繁殖してしまったのだ。

 
「「「「「「「「「「演劇部は出ていけ!」」」」」」」」」」

 演劇部排斥の声が部室棟に満ち満ちた!

 
「こら、グローバルクラブの害虫退治やってる場合やないなあ」
 啓介は、害虫たちに蝕まれていくグローバルクラブに痛ましい目を向けながらノーパソを閉じた。

「オワーーーーー!!」

 はずみでノーパソから1000匹ほどのダニとシラミが噴き出てきたような気がして、千歳と須磨はのけ反った。
「あ、これはノーパソに溜まってたホコリやさかい……」
 害虫退治はやったが、掃除までは行き届かない演劇部である。
「ちょっと話つけてくるから、2人はここに……長引くようやったら先に帰ってくれてええさかい」
 そう言うと、テーブルを「バン!」と叩いて、啓介は立ち上がった。
 演劇部を糾弾する声が、すぐそこまでに迫っている。
「啓介くん……」
「啓介せんぱーい……」
 千歳と須磨は、絞首刑をうける囚人を見送るような声音で啓介を見送った。

「え…………」

 廊下に出て驚いた。部室棟の住人達は、演劇部とは離れた廊下の西の外れ、それも背中を向けてざわめいている。
「ん……あれは?」
 人ごみの向こうで、形の良い両手がハタハタと動いているのが見える。近づいてみると、両手の間に見慣れた顔が演説している。

「だぁから~! これは演劇部だけの問題じゃないの! 害虫が湧くというのは、この部室棟全ての問題なの!」
「そやろけど、現に、演劇部だけがバルサン焚いて迷惑こうむってるのは事実やねんから!」
「せや、まずは、演劇部の責任や!」
「それとも、生徒会が先頭に立って、どないかしてくれるんか!?」
 並み居る住人達を、小柄な瀬戸内美晴が制している。敵ながらアッパレなもんだと、啓介は感じてしまった。
「ちょっと、いまの言葉プレイバック!」
 一瞬静かになった。美晴が初めて反撃的な言葉を発したのだ。
「……いや、せやから、生徒会がどないかしてくれるんか……て?」
 美晴の反撃に、発言者はたじろいでいる。

「間違ってるわよ。そうでしょ、部活って自律的なものよね? 生徒の自治活動のカナメだと思う、思うよね? だったら、なんで部活同士はテンでバラバラなの? こんな古い木造の建物で、それもジトジトの梅雨時。虫が湧いても当然じゃない。でもって、いちばんたくさん湧いちゃったのが演劇部。おそらく南側に生け垣が密生してるんで、いちばん湧きやすかったんでしょ。で、演劇部は自分たちの力で駆除をした。間違ってないわよね? ただ一点、ほかの部と協調できていなかったこと。それは他の部も同じでしょ。だったら、みんなで相談して、いかに、この部室棟から害虫を駆除するかって話にならなきゃおかしいでしょ。演劇部を糾弾したって、害虫問題は解決しない。イラついてスケープゴート作ったってしかたないじゃやん!!」

 住人たちは沈黙してしまった。

「で、ここから建設的に考えたいの。害虫退治はやみくもにやっても効果は薄いわ。まず、部室棟全体の調査が必要。その上で効果的な対策を練りましょ」
「せやけど……そんな専門的な調査は、俺らだけではでけへんで」
「なんのための生徒会だと思ってんのよ! そういうグローバルな仕事をやるためにこそ生徒会があるのよ! 今週中にも専門の方に入ってもらって調査をやります! その結果をふまえて、みんなで考えましょ、力になるから」
 美晴が見まわすと、住人たちは、互いの顔を見合わせながら頷いた。
「じゃ、最後に握手して」

「「「「「「「「「「え……?」」」」」」」」」」

 住人たちは戸惑った。
「なに言ってんの。みんなで演劇部の部長つるしあげたんでしょ。害虫問題を実質的に提起したのは小山内君なんだから、握手くらいはしときなさいよ。これからは、なにごとも連帯してやってかなきゃならないんだから」

 なんだか映画のラストシーンのような和解のシュチュエーションになってしまった……。
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不思議の国のアリス・19『アリスの落語観賞 胸ラブラブ』

2020-02-01 05:59:16 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・19
『アリスの落語観賞 胸ラブラブ』
   


 その夜、ロッカー整理で得たお宝は置いておき、本を読んだ。

 志忠屋で借りてきた『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』である。
 
 難しい漢字は読めないので、千代子のオバアチャンに頼んだが、ものの十分で眠ってしまいアウト。
 困っていると、千代子が助けてくれた。
「ウチ、テレビ見てるよって、分からんとこあったら聞いて」
 そう言って千代子は、テレビの歌謡番組に集中した。アリスは器用な子で、人が話していようと、テレビが点いていようが、読書に集中できる。ただ一度アリスの集中を破ったのは、来日して間もなく頃の地震だけであった。それと可能性としては、ロシアに落ちたような隕石が落ちたらだめだろうなあと思った。

 序章と第一章では、何度も千代子に聞かなければ分からなかったが、二章以降は、覚えた字が多く、わりにスラスラ読めた。
 アリスは、主人公のまどかに共感した。
 コンクールの本選直前、作品が上演できなくなる。主役を務める先輩が倒れたのだ。


「選択肢一、残念だけど今年は棄権する」
 そりゃそうでしょうね。みんなうつむいた……そして、先生の次の言葉に驚いた。
「選択肢二、誰かが潤香の代役をやる」
 みんなは息を呑んだ……わたし(まどか)はカッと体が熱くなった。
「ハハ、無理よね。ごめん、変なこと言っちゃって。ヤマちゃん、地区代表の福井先生に棄権するって、言っといて。トラックは定刻に来るから、段取り通り。戻れたら戻ってくるけど、柚木先生、あとをお願いします」
「はい、分かりました」
 副顧問の柚木先生の言葉でスイッチが入ったように、山埼先輩とマリ先生が動き出し、ほかのみんなは肩を落とした……で。

「わたし、やります!」クチバシッテしまった……。

 
 アリスも息を呑んだ。こういう軽はずみな「ヤリマス精神」はアリスの中にもある。日本への交換留学生もそうだ。たいてい一カ月程度の短期留学で、実質観光にくるような者がほとんどだけど、アリスは本腰を入れて、半年の本格的な留学にきている。大阪の知識は大阪弁といっしょに、お隣のTANAKAさんのオバアチャンに習ってきたが、聞くと見るとでは大違い。なんせ、アリスがTANAKAさんのオバアチャンから教えられた大阪は半世紀以上昔のそれであった。

「その後ね、コンクールで惜しくも二等賞、ほんで、クラブの倉庫が焼けたり、潤香先輩が倒れた責任とって貴崎先生が……」
「なんで、千代子が知ってんのんよ!?」
「あ……ゆうべ、こそっと読んでしもた」
「もう、あとストーリーは言うたらあかんよってにな!」
 ハラハラドキドキの二時間半で読み切った。ラストは、アメリカ人でも大納得のミッションコンプリート。でも、主人公まどかとBFの忠友クンのラブロマンスは、千代子と東クンのそれのようにまどろっこしかった。しかし、この本に触発されたら、千代子のそれもハッピーエンドになるに違いない。
 文節が短くテンポもいいので、楽しく読むことができた。

 そして、いよいよ明くる日の天満天神繁盛亭の落語観賞の日がやってきた。

 ちょっと残念だったのは、パンフを読み違えていたこと。
 演目の『七度狐』と『地獄八景亡者戯』は日替わりで、その日は『七度狐』であった。前座に桂小文演ずる短編の『世帯念佛』が入る。
『世帯念佛』は長屋のオッサンが、習慣化したお念仏を唱えながら、カミサンなどにグチを言ったり叱ったり。アメリカでも居るよな、こんなオッチャンと思った。
 二つ目の桂米国にはびっくりした。名前の通りのアメリカ人であった。枕の話で自己紹介していたが、カンザス出身のニイチャンだった。小津安二郎監督の映画が好きで、日本に居つき、どこをどう間違ったか落語家になってしまった。
「カンザスからオズの魔法使いを追いかけてきたら、こないなってしまいました」
 アリスには分かり易い大阪弁で語ってくれた。『七度狐』はTANAKAさんのオバアチャンの家でCDで聞かせてもらっていたので、内容は知っていたが、喜六と清八が七度も狐に騙されるところは、やっぱライブで聞かなければ面白さは分からない。
「ベチョタレ雑炊サイコー!」だった。
 ダメモトで米国さんに会えないか受付で聞いてみたら、こころよく楽屋に通された。

「あんた、ほんまにケッタイなアメリカ人やなあ!」
 と、もっとケッタイなアメリカ人である米国さんに言われた。
「ウチ、やっと自分と同じ大阪弁喋る人に会えました」
「それがアメリカ人同士いうのもおもしろいなあ」
 千代子がおもしろがった。
「大阪弁は、大事にせんと、無くなりまっせ」
 米国さんが、真顔で言った。
「大阪弁は、今や全国区とちがいますのん?」
「あんなテレビで流れてるような大阪弁は、大阪弁のほん一部」
「ほん……?」
「ほんまと、ほんのの両方の意味」
 アリスには理解できたが、千代子は今イチな顔をしていた。

 それから、米国さんは、大阪弁と落語について熱く面白く語ってくれた。
「ほん、ちょっと昔、河内のオッチャンらは、淀川の水飲んで腹だぶだぶは、よろがわのみる飲んで腹らぶらぶ。て言うてましてんでえ」
 この話に、アリスはビビっときた。

――胸ラブラブ……ええ表現やなあ――
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