大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アーケード・16・花子編《月参りの代理》

2018-03-13 18:32:37 | 小説

・16・花子編
《月参りの代理》



 国府寺の住職が亡くなった。

 国府寺は奈良時代から続く華願宗で、この宗派は自分では葬儀はしない。葬儀は昔から浄土真宗のお寺が請け負う。
 慣例に従って、西慶寺の住職と副住職が昨夜の通夜から出向いている。

 住職の泰淳はわたし(花子)の父であり、副住職の諦観は兄である。

 国府寺の葬儀のため、この日の月参りはわたしが務める。
 今日のお参りは商店街の鎧屋と室井精肉店だ。
「ハナちゃん、お世話になるね」
 玄関から入ると、くだけた言葉だけれど、小父さんが慇懃にご挨拶される。
 ちなみに玄関から入るのは、今日のわたしは西慶寺の僧侶だから。いつもはお店の入り口から気楽に入る。緩やかだけれど、商店街では、昔からのけじめがキチンとしている。

 仏間兼リビングの12畳には小父さんと小母さん、こうちゃん、こざねちゃん、お弟子のきららさんが神妙に並んでいる。

 幼なじみのこうちゃんとこざねちゃんが神妙にしているのには未だに慣れない。
 初めて月参りに来た時は、わたしの衣姿がおかしくって、こざねちゃんが吹き出して小父さんに叱られてしまった。なかなか使い分けは難しい。

 でも、仏壇の前に座ってお蝋燭とお線香を点けるあたりから様になってくる。

 他の宗派は、香炉にお蝋燭を真っ直ぐ立てるけど、浄土真宗では高炉の大きさに合わせて、2つか3つに折って寝かせる。
 特に教義上の意味は無い。単に火の用心のため。中学に入ってお参りの作法をあれこれ教えられたけど、この火の用心のためというのには笑ってしまった。
 お務めそのものはカタチなので慣れればノープロブレム。
 困るのというか緊張するのは、そのあとのお話し。お参りなので基本的には法話なんだけど、わたしみたいな女子高生坊主が法話だなんてとんでもない。
 世間話というか、檀家さんの生活や関心に合わせた話をする。

「来年は大祖父さまの37回忌ですね」

「きちんと、お寺でやるつもりだよ」
 この返事には、すこし狼狽えた。別に催促したつもりはない。法事も37回忌になると月参りのついでにやるのが普通で、寺の本堂で本格的に営まれることは珍しい。
「祖父さんは、旗絡めの事故で亡くなったからね、旗絡めのためにもきちんとやっておきたんだよ」
 わたしは息をのんだ。
 旗絡めとは、秋に行われる馬揃えで、かつて行われていた勇壮な行事だ。勇壮なために事故が起こることが多く、怪我人が出るのは当たり前で、何年かに一度は死者まで出る。鎧屋の先々代は37年前の事故で亡くなっている。
 旗絡め自身も12年前に廃止になっている。小中学校では旗絡めを模した騎馬戦が行われているが、東京などから転居してきた新住民の人たちからは「組体操同様に危険だ」と言われ、このジュニア版もいつまで行われるか分からない。
 そう言う状況の中での小父さんの言葉に、静かだけどクッキリした想いを感じた。

 次の室井精肉店では、もっと気楽にできた。

「ハナちゃん、噂になってないかい?」
 小父さんの一言でピンときた。りょうちゃんが分かりやすくビクッとしたから。
「あ、国府女学院の……?」
 居並んだご家族が、いっせいにため息をつき、その視線がりょうちゃんに集まった。
「いや、もう終わっちゃった話だからね!」
 りょうちゃんが焦る。
「だいじょうぶですよ。その……りょうちゃんは商店街のマスコットですから」
「マ、マスコット?」
「ハハハ、遼太郎はマスコットか!?」
 兄の潮五郎さんが笑う。
「いっそ、商店街のイメージキャラクターにして着ぐるみにでもなっちまえばいいのに」
 小母さんが煽る。
「でもさ、商店街のイメージって言えば、ハナちゃんたちのアーケーズだろ?」
「おちゃらけキャラがあってもいいんじゃないかなあ」
「そうよ、着ぐるみにすれば可愛くなっちゃうわよ」
「じゃ、こんどの理事会にかけてみるか?」
「そうだ、原案用に写メを撮っておこう!」
「ちょ、ちょっと勘弁してよ!」

 商店街の連休は賑やかになりそうだ……。
 

※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・18『下駄は履いてる?』

2018-03-13 11:08:22 | 小説3

通学道中膝栗毛・18

『下駄は履いてる?』        

 

 

 そう言えば朝に買ったんだ。

 

 合格発表があって三度目の登校日、新入生の物販と制服の引き渡し。

 二度目の登校で採寸した制服は、ちょっと大きかった。三年間着るものだから少し大きめなんだろうけど、中学の時とは違うんだ、ジャストフィットしたのが着たいと思うのが乙女心。

 だいたい、うちの学校は厳密には私服だ。1970年ごろの学園紛争で制服を廃止したんだ。

 でも旧制女学校からのセーラー服には人気があって、廃止後も女子の大半は制服を注文している。

 その制服が中学一年生のようにダボダボでは凹んでしまう。

「大丈夫よ、ヒロちゃん(お母さんの妹)に補整してもらうから」

 お母さんが胸を叩いた。ヒロ叔母さんはブティックに勤めていて洋服の手直しなんてお手の物なのだ。

「ま、それならいいや」

 制服の次が教科書と副読本なんだけど行列がすごいので、ベンチに腰かけて一息つく。

 ベンチの後ろは植え込みになっていて、梅を中心に季節の花が満開になっている。意識しなかったけど、ベンチに掛けると花の香りはむせ返るほどで、新入生のわたしをワクワクさせる。

 花というのは、あけすけに言うと植物の生殖器で、その香りというのはフェロモンだ。

 このフェロモンにあてられたのか、お母さんが「靴も買おう!」と言い出した。

「いいよ、ただのローファーなんだから、靴屋さんで買った方が……」

 安いよ……と言おうとした時にはベンチを立ち上がったお母さん。

「はい、市販のものとは微妙に色が違います。ほとんど黒なんですが、ブラウンが入っていまして、ほら、日にかざしますと……」

 上品なこげ茶になって、とてもシックで制服によくマッチしている。

 そして市販品の倍ちかい価格のローファーを買って、こいつが、わたしの足を巻き爪にしたんだ。

 そういうことを帰ってから思い出した。

 

 新しいローファーは市販品。

 

 駅一つ向こうの量販店で下駄と一緒に買った。デザインは微妙に違うんだけど色合いは元のローファーにソックリだ。

 ラッキーと思ったんだけど、ブラックだけでも四種類あり「デフォルトで、大きなお店なら、たいてい置いてますよ」と店員さん。やっぱ、花のフェロモンと靴屋さんの商魂に載せられたと思い知る。

 靴を新しくしても万歩計の数字は、あまり変わらない。

「うん、歩き方に問題があるからすぐにはね……下駄は履いてる?」

 鈴木先生はカルテを書きながら横顔で聞く。

「あ、いちおう買ったんですけど」

 買ってはみたけど、夏祭りでもなければ履く機会がないのでブツは下駄箱の中で眠っている。それを見透かしたように鈴木先生は回転いすを回して向き合った。

「浴衣でなくてもいいのよ、普段着で下駄履いてもちっともおかしくないよ。そーだ……」

 先生がパソコンをチャカチャカすると、濃紺のスカートに白のブラウスの元気そうな女の子が現れた。

「ほら、イカシテルでしょ!」

 

 その少女の名前は……じゃりン子チエとあった。

 

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