大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アーケード・13・芽衣編《え……なに?》

2018-03-10 17:08:13 | 小説

・13・芽衣編
《え……なに?》



「佐伯が連絡してきたよ」

 どこの佐伯さんだと思った。
「ほら、生徒会顧問の佐伯先生だよ」
 こうちゃんがトイレから出てきて、おせんべいに手を出しながら言った。
「ちょっと、手洗わなきゃ!」
「あ、掃除してただけだから」
「そう言う問題じゃ……え、佐伯先生が写ってたの?」
「そうだよ、佐伯先生は、うちの卒業生」
「で、僕や結衣ちゃんとも同期。いっしょに生徒会やってたんだよ。甲、ちゃんと手洗ってきなさい」
「はいはい」
 こうちゃんは、食べかけのおせんべいを咥えて洗面に戻った。
「メイちゃん、あの写真見て気が付かなかったのかい?」
「お母さんのことは、すぐに分かりました。なんだか、あたしそっくりなんで、ビックリして……」
「その右隣が佐伯なんだよ」
「えー、そうだったんですか!?」
「ハハハ、影の薄い生徒だったからな。で、左隣は誰だと思う?」
「え……えと、男の子だってことしか」
「それは残念……」
 おじさんは、バリッとおせんべいを噛み砕いた。
「あれ、うちの親父だよ」
 洗面から戻ってきて、こうちゃんが答えた。
「えー、おじさんが!?」
「そうだよ、真面目な文化部長さ。あ、そうだ……」
 おじさんは、リビングの棚をゴソゴソしはじめた。
「え、その棚って、そんな仕掛けになってるんですか?」
 棚の3段目がズリっと動くと、奥に引き出しが現れた。
「あ、この棚の仕掛けはナイショだからね。特にうちのカミさんには……あった、これだ」
 
 おじさんが取りだしたもの。その一番上には佐伯先生が見せてくれたのと同じ写真が額に入っていた。

「……ほんとだ、おじさんも佐伯先生も面影がありますね」
 おじさんはニヤニヤしている。気づくと、あたしの後ろで、こうちゃんもニヤニヤしていた。
「フフフ……もう一人いるんだけど、気づかないか、メイちゃん?」
「えー、もう一人って……」
「真ん中の……坊主頭」
「え……?」

 30秒ほど見つめて、ビビッときた!

「こ、これって、お父さん!?」
「ピンポーン!!」
「いや、いや、アハハハハ!」
 なぜかおじさんが照れ笑いしだした。
「これさ、芽衣のお母さん口説いてさ、ムクツケキ男子生徒たちが計画的に集団立候補したんだって!」
「そう、だから女子は結衣ちゃん一人だけなんだ」
「そ、そうなんだ」
 あたしは自分のことのようにドキドキしてきた。
「もう昔の話だけど、みんな結衣ちゃんを狙っていたんだ。一番熱心だったのは佐伯だ」
「え、佐伯先生が!?」
「みんなで立候補しようって言いだしたのも佐伯だったしね」
「ど、どうしよう……」
「どうしたんだ、芽衣?」
「佐伯先生の授業、まともに受けられないよ」
「あ、それはあるな。芽衣、お母さんとよく似てるからな」
「ハハハ、もう昔の話さ。割り切ってなきゃ、佐伯も写真見せたりしないさ」
「そ、そうですね。やだ、あたしったら自意識過剰だ」
「いちばん醒めてたのが泰介、メイちゃんのお父さんだったけど、けっきょく泰介が射止めちゃうんだからな。世の中分からんなあ」
「そうだったんだ……」
 
 それから、おじさんたちとお母さんの青春時代の話になって、立会演説の原稿の話はできなかった。

 家までのアーケードをこうちゃんが送ってくれた。
「実は、親父も芽衣のお母さん狙ってたんだぞ」
「え、うそ!?」
「けっきょく振られたんだけどな。それでよかったんだよな」
「え、あ、うん」
 おじさんの気持ちを思うと、ひどくあいまいな返事になってしまった。
「分かってんのか芽衣? もし、親父とお母さんがくっついていたら、オレも芽衣も存在しないことになっちゃうんだぞ」
「え、あ、そそそ、そだね!」

 世の中って、きわどい偶然の上に成り立っているのだと思った。

「そうだ、これ」
「え……なに?」
 こうちゃんは封筒を差し出した。
「え、え、え、これって……」
「バカ、なに赤くなってるんだよ。これ、芽衣のお母さんが立会演説で喋った元原稿、コピーだけどな。記念に親父もらったんだって。貸してやるから参考にしなよ」
「あ、ありがとう」

 あたしは、20何年前のお母さんに助けられることになった……。
 

※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・17『巻き爪・2』

2018-03-10 16:54:25 | 小説3

通学道中膝栗毛・17

『巻き爪・2』        

 

 

 巻き爪になるのは自然の摂理……なんだそうだ。

 

 この身もふたもない答えは皮膚科のお医者さん。

 三度目の正直、鈴夏に付き添ってもらった学校帰り、通学路の二つ向こうにある鈴木医院。

 診察室まで付き合うという鈴夏に「子どもじゃないんだから」と言ったけど、看護師さんに呼ばれたわたしは、インフルエンザの注射をされる小学生の心境だった。

「じゃ、靴下脱いで足を見せて」

 そう言われた時は――しまった、足洗ってくるんだった!――足上げたらスカートヤバイ!――とか閃いてしまってプチパニック。鈴木先生は中年の女医さんだけど、やっぱ恥ずかしい。

 緊張しまくってると看護師さんが膝に毛布を掛けてくれる。ちょっと安心。

「歩き方が悪いのね、普通に歩いてると足の裏全体に力がかかるのよ。むろん指にもね。指が地面を押すことで丸まってしまおうとする爪に下からの圧力がかかって、爪は平たくなるの」

「え、あ、そうですか?」

「今日はいつもの通学靴?」

「は、はい」

「ちょっと見せてもらうわね」

 そういうと、先生は看護師さんに靴を取りに行かせた。

「ドタ靴ですみません」

 学校帰りでもあるし、まさか靴を見られるとは思ってなかったので入学以来のくたびれローファーだ。

「ああ、やっぱりね」

 靴底というのは一種の恥部なんだということを実感してドキドキする。きっと顔が赤くなってるよおおおお。

 そんな患者の気持ちには忖度しないで、先生は淡々と言う。

「ほら、先の方は減ってないでしょ。指に力が入ってない証拠……踵の縁方は正常ね、X脚でもO脚でもない……でも、ちょっときついんじゃない?」

「あ、えと、買ってしばらくは。いまは馴染んでますけど」

「それは無意識に足の方が慣らしちゃったのね、でもって、指先が堪えちゃって地面を踏まなくなったのね」

「あ、じゃ買い直します。もう二年近く履いてますし」

「それがいいわね、買う時は夕方にしなさいね」

「え、なんでですか?」

 次の休みに朝から買い物に行くスケジュールが浮かびかけていたので、ちょっと面食らう。

「朝と夕方じゃ足のサイズが違うのよ、夕方は足がむくんじゃうから。それから、できたら下駄も買って」

「下駄ですか!?」

 声が裏返ってしまう。外まで聞こえたんだろう鈴夏がクスクス笑う声がする。

「お友だち?」

「あ、はい、帰り道いっしょなもんで」

「いいお友だちね」

「で、下駄ですか?」

「昔の人には巻き爪ってないのよ、下駄とか草履とかでしょ。あれって鼻緒を指で挟むでしょ、すると自然に爪先に力が入って地面を噛むように歩くの」

「へーそうなんですか!」

 また鈴夏のクスクス笑い。

 

 治療というよりはアドバイスうけてお終い。

 わたしが最後だったみたいで、先生は待合まで出てきた。でもってクスクス笑いが顔に貼りついている鈴夏に言った。

 

「あなたも足見せてくれる?」

「え、え、わたしもですか!?」

 あっという間に診察というか観察を終えて、先生は提案した。

「あなたは異常なし……身長も同じくらいだし、田中さーーーん」

 看護師さんを呼ぶと何やら指示、やがて看護師さんは何やら二つ持ってきた。

「これあげるから、二人で歩数の比べっこしてごらんなさい。分かれるところまで測ったら電話して」

「「あ、はあ」」

 

 でもって、スカートの胴回りの縁に万歩計を装着。鈴木医院からいつもの分かれ道まで計測した。

 鈴夏が2551歩、わたしが3021歩……なんで? 同じ距離を歩いたのに!?

「栞って短足なんじゃない?」

「んなことないわよ!」

 ムキになって足に長さを比べる。同じ長さだ、あたりまえだけど。同じような背丈だもんね。

 結果を電話で報告すると、先生の答えはこうだった。

――小山内さん、脚を庇って歩くから歩幅が狭くなるのよ。靴買い替えて、しばらく計測続けてごらんなさい――

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