大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アーケード・20・あやめ編《え 赤いカーネーション?》

2018-03-22 20:04:49 | 小説

・20・あやめ編
《え いカーネーション?》


※ 順番が跳んだので、19回のあとに来る分です。

 


「え、赤いカーネーション?」

 思わず聞き返してしまった。
 お客さんが、どんな花を買おうと、けして聞き返したりはしない。花屋の仁義だ。
 でも、めいちゃんは商店街の幼なじみなんで、思わず口に出てしまった。

 めいちゃんのお母さんは、めいちゃんを生んですぐに亡くなっている。
 だから、めいちゃんが母の日に買っていくのは決まって白いカーネーションだ。
 めいちゃんにはこだわりがある。めいちゃんちは喫茶ロンドン。で、あたしは、お店に飾る花を週一回デリバリーしている。
 だから母の日のカーネーションだってデリバリーの注文の中に入れておけばいいんだけど、めいちゃんは、母の日の朝に自分で買いに来る。
「ああやって、結衣ちゃん(亡くなったお母さん)との絆を大切にしてるのよ」
 お母さんはしみじみと言う。あたしも、そのしみじみで納得していた。

 それが、今日は「赤いカーネーションお願い」だったので、反射的に聞き返してしまった。

「あ……えと、お客さんに頼まれたの。う、うちのは当然白だから、白もお願いね」
「あ、そか。どうも、毎度ありがとうございます」
 普段の接客モードに戻って、赤と白のカーネーションをめいちゃんに渡した。

 ほんとうなら、これで済んでいた。

「あーちゃん、配達お願い、これね」
 お昼ご飯にしようと思ったら、お母さんに頼まれた。お父さんはお姉ちゃんを連れて結婚式場の配達にいっているので、あたししかない。
「うん、分かった」
 冷凍庫から取り出したばかりの大盛りナポリタンを戻して、伝票と白いカーネーションの花束を受け取った。

 お母さんの手前、営業用の笑顔で受け取ったけど、原チャのハンドルを握るあたしは仏頂面だ。

 なんせ配達先は清龍墓苑、つまり相賀市の墓地。でもって配達依頼人は相賀第一中学の水野教頭。入学式の飾り花で意地悪されたし、お礼に持たされた相賀カボチャでは、その重さのために行き倒れになって薮井医院でお尻にブットイ注射をされるはめになった。
「ああ、こっちこっち」
 水野先生は、ハンカチで禿げあがった頭を拭きながら、三列向こうのお墓から手を上げた。
「毎度ありがとうございます。ご注文のカーネーションです」
 さすがに営業用のスマイルでお花と代金の受け渡し。水野先生は、そのままお墓に活けて手を合わせたので、行きがかり上、あたしも手を合わす。
「そのまま、二列向こうのお墓を見てごらん」
 先生が、小さな声で呟いた。
「え…………あ?」
 二列向こうには、めいちゃんが赤いカーネーションを活けて手を合わせているのが見えた。
「百地くん、なにかあるんだよ。自然な形で声かけてあげてくれないか」
 水野先生は在学中から苦手だったけど、ときどき、こういう鋭いところがある。

「やあ、めいちゃん」

 声を掛けるところまでは自然にできたが、次の言葉を掛けようとして――グーーー――と盛大にお腹が鳴った。

 で、大笑いになって、めいちゃんの喫茶ロンドンで、冷凍ものではない特製ナポリタンをゴチになった。
「そんなにタバスコかけちゃ口から火が出るよ」
 あたしは辛好きなので、こうなっちゃう。
「辛い方がテンション上がるのよ」
 そう言うと、ハハハと笑いながら、めいちゃんは、いきなり話の核心を吐き出した。

「あたし、お母さんは生きていると思うようにしたの。ううん、生きていることに気づいたの」

 めいちゃんは、おだやかにパスタをフォークに絡めていった……。

 ※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・26『夏鈴の危機一髪』

2018-03-22 15:46:01 | 小説3

通学道中膝栗毛・26

『夏鈴の危機一髪        

 

 

 角を曲がって夏鈴の家が見えてくる。

 

 見慣れない車が停まっている。それも二台。

 セダンって言うんだっけ、タクシーみたく四つドアがあって、若干モッサリした左ハンドルの外車。

 ナンバープレートが青色なのと相まって、ちょっと違和感。思わず倉庫の前、電柱の陰に入って立ち止まってしまった。

 

 夏鈴…………?

 

 玄関のドアが開いて夏鈴が出てくる、前と後ろに外人の男女が付いている。後ろの車から運転手が出てきてドアを開ける。

 丁重に扱われているようだけど、夏鈴の表情に精彩がない。

 お母さんが遠慮するようにドアから姿を現す。ハンカチを握ったままの手を胸の前に組んで……なにかを堪えているような。

 お母さんが、なにか言いかけて夏鈴が振り返る。男が穏やかに、でもキッパリと遮って乗車を促す。

 夏鈴、嫌がってる!?

 

 このまま車に乗せちゃダメだ!

 

 フルリと首をめぐらすと倉庫のシャッターが半分開いている。そうだ、入ったところに!

 シャッターを潜ると、思いついたソレを押した!

 

 ジリリリリリリリリ!!

 

 猛然と非常ベルが鳴って、倉庫の非常灯がオレンジ色に光る、倉庫の前の非常灯も点滅しているはずだ。

 倉庫の奥と前に人が集まる気配、わたしは横のドアから出て、隣の家の裏を周って夏鈴の家の前に出る。

 みんな倉庫の方を向いている。チャンスだ!

 そっと車に近寄ってドアに手をかける。中の夏鈴が目を剥いている。

「早く、こっち!」

 同時にドアを開けて親友の手を掴むと、道を反対側に駆ける!

 英語ではない外国語の叫びがして数人が追いかけてくる、真っ直ぐ走っていてはたちまち追いつかれる!

 横っ飛びに路地に入る、犬が出入りできる生け垣の隙間、庭を横切って物置の陰と塀の隙間を通って……それからは子どもの頃の勘。あちこちの路地や猫道まで通って商店街の裏手に出てくる。

 ハーハーハーハー……

 さすがに息が切れ、二人そろってしゃがみ込む。

 商店街の裏手だけど、日本の夜は身を隠せるほどには暗くはならない。

「あ、あの人たちプロだから……」

「追いつかれる?」

「うん、時間の問題かも……」

 背中の戸が開く音がする。どこかのお店が裏戸を開けたんだ、万事休す!

「おや、あんたたちは?」

 月夜に輝く禿げ頭は……芋清のおいちゃんだった! 

 

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