大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・23『芋清ふっかつ!』

2018-03-19 13:40:23 | 小説3

通学道中膝栗毛・23

『芋清ふっかつ!        

 

 

 改札を出て一瞬迷ってタタラを踏んだ、夏鈴もわたしも。

 

 アハハハ

 

 そろって迷ったのがおかしくて笑い出す。

 わたしたちの年頃って、すぐに笑っちゃう。いわゆる箸が転んでもおかしい年ごろ。

「で、どっち通って帰る?」

「う~んと、商店街にしよっか」

 風光る季節、たんなる下校中でも、ついあれこれ寄り道したくなる。

 おりしも気象庁から東京の桜の開花宣言が出された。電車の吊革につかまっていても、窓外の春霞の中、わずかに咲きだした桜が目についた。

 だから、改札出たら神社と公園に寄ってほころび始めた桜を愛でてみようかという気持ちになったんだ。

 でも、エスカレーター下りて改札に向かっていると、商店街の方角から焼き芋の匂い。それで、どっちにしようかという迷いがタタラを踏ませたんだ。

「とりあえず焼き芋だね!」

 そう決めると、ふたりでスキップしながら商店街を目指した。

 焼き芋屋さんは商店街入って五軒目くらいのところにある間口一間ほどの小さなお店。屋号は『芋清』冬場は焼き芋、春からはたこ焼き、夏になると冷やし飴と冷やしコーヒーが加わる。お爺さんとお婆さんでやっていて繁盛というほどではないけど、そこそこにお客さんは付いている。

 その焼き芋屋さんが正月の松が取れたころから閉まっていた。

――暫らく休みます――の張り紙がずっとしてあって、ひょっとしたら、もうお店を畳むのかなあと心配していた。

 その焼き芋の匂いがしたものだから、スキップにもなるわけよ。

「おいちゃん、ひとつください」

 お爺さんだけど「おいちゃん」と呼ぶのは常連客のしきたりだ。

「今日はお祝いだから、サービスしとくよ」

「わあ、ありがとう。駅で匂いがしだしたらたまらなくなっちゃった」

「へへ、じゃ、食べやすいように分けてあげるね、おい、婆さん」

「はいよ」

 お婆ちゃんが手際よく大きいのを二つに切ってくれて、別々に持たせてくれる。

 二人でハフハフ頬張りながら商店街を帰り道。

「お客さんの相手してる時の笑顔がいいよね、焼き芋屋さん」

「うん、いちど病院の待合で見かけたんだけど、ちょっと暗かったもんね」

「そりゃ、病院でニコニコしてる人ってあんまりいないと思うよ」

 それには応えないで、鈴夏はつづけた。

「ああいう笑顔がピュアでもできなきゃね」

「ピュア?」

 名詞を副詞と取り違えて鈴夏が?顔になる。

「やだ、新しいバイト先でしょ」

「あ、ああ。わたしも栞もメイドさんだもんね!」

「うん、そのピュアのマニュアル。とりあえず笑顔と元気な挨拶って書いてたよね」

「よし、がんばるか!」

 

 プルルルル プルルルル

 

 唇をアヒルみたくして息を吐きだしながら震わせる。マニュアルに示されていた滑舌訓練法なんだ。

 他にも舌を上あごに触れるようにして震わせるトゥルルルル~ってのもある。一人でやってるとバカみたいなんだけど、芋清で元気が出てきたんで期せずしてやってしまう。

「ちょっと、焼き芋吹き出してるよ!」

「あ、あはは、いっけなーい!」

 そういう鈴夏のホッペにも焼き芋の皮がくっついていて、笑ってしまうわたしでした。

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・4[麗の前哨戦]

2018-03-19 06:31:40 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト・エタニティー症候群・4
[麗の前哨戦]



※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。


『すみれの花さくころ』の稽古は楽しかった。

 正確には演技することが楽しかった。麗は、自分でもこの頃、自分自身が変わってきたように感じていた。人ともよく喋るし、部活もするようになった。流行のアイドルの歌などにも関心を持つようになった。
 でも、麗は思った。本当の自分は別のところにある。あるんだけど思い出せない……で、思い出さない方が幸せなのかもしれないと。

「文化祭で、この芝居は無理よ」

 麗は、三人の部員にズカッと言った。部長の宮里が不服そうに言う。
「だって、演劇部が文化祭で芝居やらなきゃ、存在意味がないじゃん」
「固定概念に囚われちゃいけないと思うの。芝居って、せんじ詰めれば自分以外の何者かにメタモルフォーゼ……あ、変身て意味。変身してエモーション……情念とか感動を観客と共有することだと思うの」
「……かな」
「だったら、歌っても踊っても同じことだと思う。文化祭って、いくつも模擬店とか出し物とかのイベントがあるじゃない。そんな中で50分も観客縛りつけておくのは無理だし、演劇部が、ますますオタクの部活だと思われてしまうんじゃない?」
「うん、立花さんの言うことにも一理あるよな」
 副部長(と言ってもたった二人の正規部員だけど)の山崎が応じる。
「それにさ、美奈穂さんがギター上手いのに、挿入曲の伴奏だけじゃもったいないわよ」
「あ、あたしは単なる助っ人だから」
「使えるものは先輩でも猫の手でも使います!」

 で、麗の勢いで決まってしまった。AKBのメドレーをやって、ラストに『すみれの花さくころ』のテーマ曲『お別れだけどさよならじゃない』で締めくくって、コンクールの観客動員にも結び付ける。

「でも、人数しょぼくない?」「衣装とかは?」宮里の疑問ももっともだ。でも、麗の答えは「任せてちょうだい」だった。

 人数は、もう一つの部活の茶道部に頼んだ。
「お茶には、わびさびの他にハレの感覚も必要だと思うの。お茶の家元さんなんか意外に若いころはロックとかやってたりするのよ。例えば……」
 これで、茶道部16人をその気にさせた。
 衣装はネットで当たってみた。過去にAKBのレパをやった大学のサークルやグループを探しては問い合わせてみた。三件目でヒットした。
3年前の学園祭でAKBのヘビロテをやった大学のサークルが衣装をそのまま残していたのだ。ちょっと一昔っぽいけど、一番AKBっぽい。

 レパは4つ。『会いたかった』『ヘビロテ』『フォーチュンクッキー』そして『お別れだけどさよならじゃない』

 麗は、一晩でAKBの三曲のカンコピをやった。あたまに「率先垂範」というむつかしい4文字が浮かんだ。

 練習場は近所のダンス教室のスタジオを格安で借りた。借り賃は顧問を拝み倒し、また稽古風景をメイキングにしてYouTubeで流し、ダンス教室のPRもすることで折り合いがついた。
「やっぱ、ナリからだね!」
 みんなAKBもどきのコスを着てダンス教室の鏡の前に立つと、俄然テンションが上がってきた。その様子を山崎クンに撮らせてYouTubeに流した。AKB、女子高生、文化祭、本番までのメイキングというタグ付けで、初日のアクセスが300件を超えた。

 麗の前哨戦が始まった……。

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