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【映画】『サンザシの樹の下で』を観る 核がらみ???

2011-08-22 03:11:37 | 映画評論
 チャン・イーモウという監督に注目したのは1987年の『紅いコーリャン( 紅高梁 )』以来でした。その後、『活きる (活着) 』(1994)、『あの子を探して (一個都不能少)』 (1997)、『初恋のきた道 (我的父親母親) 』(1999)、『至福のとき (幸福時光 )』(2000)などの作品を、変貌する中国の時代背景をもったリアルな映像として堪能してきました。

 そのチャン・イーモウが、ハリウッドに絡め取られ、大スペクタルを撮り始めたのは今世紀に入ってからでした。『HERO (英雄 )』(2002)や『LOVERS (十面埋伏)』 (2004)などがそれで、CGやワイヤー・ワークをふんだんに駆使した華美な映像は、「え、これがチャン・イーモウ?」と少なからずの驚きを与えたものでした。

         

 その当否はいいますまい。映画監督が様々な経験をつむことは悪いことではありません。
 そのチャン・イーモウが、久々に中国の大地に根ざした映画に復帰したというのがこの『サンザシの樹の下で』(2010)です。
 路線としては『初恋のきた道 』の純愛ものになるのでしょうが、それが悲劇に終わる点では幾分違います。時代背景はともに文革ということなのですが、その抑圧の体制が若い二人の恋をストイックに留めるということに利用され、その悲劇性を盛り上げる一助にしか過ぎないのではないかというきらいがあります。

 それを抜きにしたら、こうした悲劇は日本のTVドラマなどで古くから使い古されてきた手法で余り新味はないといえます。

          

 しかし、しかしです、この映画にはうっかりすると見逃してしまいがちなキー・ポイントがあるのです。それは白血病で死に至る(ゴメンナサイ、この部分ネタバレです)ヒーローなのですが、彼が所属していたのは農村の川辺にある「地質調査隊」なのです。
 で、この地質調査隊、なにを調査しているのかが具体的には出てきません。「そうか、あいつもそれにやられたのかも」とつぶやく他の隊員のコメントが重要です。
 また、このヒーローが解放軍の病院にほぼフリー・パスなのもひとつの鍵です。

 この映画はそこを見落とさない限り明らかに、この「地質調査隊」がウラニウムの発掘に関わり、彼がその過程で被曝したことを示唆しています。これはほんとうにしっかり見ていないと見過ごしてしまうポイントなのです。
 傍証として、文革の間、あらゆる学問や研究は停滞を余儀なくされるのですが、核開発に関連する事業は着々と進行していたことを示しています。

            

 チャン・イーモウは、単なる純愛悲劇の背後に、とんでもない問題を抱え込んだともいえます。これは彼もはっきり意識して描いていることです。にもかかわらず、それが誰にもわかるように明示されなかったのは、チャン・イーモウの自主規制なのか、当局の検閲なのか、私たちには明らかではありません。
 しかし、日本がフクシマで苦しんでいるとき、それを先取りする形で放射能被害を嗅ぎ当てていたとしたら、チャン・イーモウ、なかなかのものだといえます。

 主演の女優さん(チョウ・ドンユイ)、清楚で可愛いですね。『初恋のきた道 』のチャン・ツィイーもそうでしたが、チャン・イーモウ監督、女優さんを見出すのが巧いですね。コン・リーもそうかな。彼女とは個人的な関係もあったようですが・・・(おっと、俗に流れてしまった)。

 いろいろな意味を含めて一見すべきでしょうね。
 「地質調査隊」のくだり、決して見逃さないでね。

コメント (15)
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