イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

続・何度も言うよ

2007-10-17 00:00:53 | テレビ番組

愛の迷宮』を、主婦という“客層”にカウントされていなくても消費して楽しめるかどうかは、光男(保阪尚希さん)という人物の読解にかかっています。

新妻・文香(宮本真希さん)に「おまえと結婚したのは、家柄がいいから、親父(横内正さん)が気に入っているからだ」と言い放ち、「跡継ぎの男の子を産むのがおまえの務めだ」と排卵日に子作りを強要して、それこそ“人格否定”“モノ扱い”して来た光男が、文香の孕んだ子が自分ではなく航太(咲輝さん)の種かもしれないと兄嫁・可奈子(高橋かおりさん)に吹き込まれただけで度を失い動揺するのは、「ターンジュンなオンナ」だと思っていた文香の心を夫としてなおざりにし、掌握していなかった後悔も少しはあるでしょうが、両親の信愛も人望もあつくすべてにおいて自分より優れていた亡き兄・政男の影を航太に見ている事が大きいと思う。

いち使用人として以上に兄が信頼を寄せて親しくし、その兄の没後は父に何かと目をかけられている航太が、光男には兄の亡霊のように見えるのでしょう。

光男にとって、自分に与えられている地位、課せられている課題、求められる立ち居振る舞いや立場・人間関係までが“兄のお古”のように見え、何をやっても、やらなくても、成功しても失敗しても「自分は“兄の不出来ヴァージョン”」という意識につきまとわれる。

兄が反対を押し切って結婚した可奈子に手を出して、兄を絶望させ飲酒運転死に追いやった後も不倫関係を続けているのも、兄へのゆがんだ対抗腹いせ意識のゆえ。

 そんなに兄の存在がうとましく重石に感じるのならば、普通に学業や仕事で努力して追いつき追い越すか、いっそ家を出て父の事業とは別の道で自立すればよかったものを、そういう前向きな破壊力はない意気地なし野郎なんだな。

母・マキ役の新藤恵美さんが番組公式サイトのインタビューで「光男はマザコン」と看破しておられますが、母にストレートで甘えようとすると父が立ちはだかり、父の脇にはつねに兄が従えられている。その兄は死んだと思ったら、兄が可愛がっていた航太が代ってその場所にいる。

しかも、自分が唯一、兄よりも父に「でかした」と言わせた材料である良家育ちの優等生嫁・文香に子を孕ませた(らしい)。

いまの光男にとって、文香が航太に本気だったか、航太は文香にどうだったのかなんてことは関係ない。要は「また兄さんに負けた」という仮想の屈辱感が彼を駆り立てているのです。

作家の故・遠藤周作さんのエッセイにこんなエピソードがありました。

幼い頃、成績優秀でスポーツ万能のお兄さんに何をやっても勝てなかったが、そのお兄さんの唯一の弱点が、なかなか治らない夜尿症。

朝、「またやってしまった」と、シーツの地図を前に半泣きのお兄さんを見て、「俺も、一つぐらいは兄貴に負けない、デカい大きなことをやってやろう」と決心。翌朝、蒲団の上に“大きいほう”を残して家族を動転させた…という話。

光男にとっては航太の妻・祐子(吉田羊さん)を襲って妊娠させたことが“大きいほう”だったのか。なんと低レベルな。

男性の中で、力・優秀性の誇示のためのツールとして、“女を犯る”ってのはいつの時代も“古典”なのかもしれません。

こうして示威された“力”はそっくり“劣弱さ”にも読み替えられるんですけどね。

このドラマに関しては、当分は、光男の歪みっぷりをメインに鑑賞しようと思っています。

コメント
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