橋本ドクターが午後にやって来る。
二人の娘たちをエスコート。
大寿司で昼食をすませてきたとか。
下の娘も人見知りをするようになったようで、前に来たときは抱かせてくれたが、今回は強固な拒絶。
人見知り?・・・生理的な嫌悪かもしれない。
娘たちと奥さんは先に帰り、一人残った橋本ドクターはノートパソコンを取り出す。
近いうちに人前で話す機会があるとかで、その原稿をまとめ始める。
森下(8期生・環境学研究者)と同じ机に座り、同じように執筆開始。
そういや森下、アリゾナ州の学会から帰国したんかいね。
高校生の部屋では百恵ちゃんが物理の授業。
トルコから帰ってきて新学年での授業。
しかし物理・・・真広(津東から三重大学工学部)が週に2回の頻度で始めている。
それに加えて百恵ちゃんも週2・・・。
週に4回も物理の授業。
さすがに物理で瀕死状態の新高3の理系も、週に4日も物理をされたら他の授業をすることができない。
やっかいやな・・・。
中学生の部屋ではさつきが因数分解を新高1に教えている。
近々新中1のリーダーになるさつき、度胸試しの一環である。
使用教材は旺文社のフォーカス・ゴールド・・・津高の教科書併用参考書だ。
さつきの時代から津高が採用した一品。
ところがさつき、ホワイトボードで説明した心意気は買うが答が出なくて困っている。
「なんで! どこががおかしいんやろ」 あげく「玄太! どこ!」
「いや・・・指摘していいかどうか分からなくて」
すかさず橋本ドクター、「左の下のほう・・・マイナスがプラスになってるよ」
・・・原稿はどないしたんや?
さつきの講義も終わり、急遽俺の英語の授業。
津高の高1の教科書の最後のほうの課をコピーさせる・・・シービスケットの話だ。
最近ブック・オフで買った本がシービスケットの伝記。
ローラ・ヒレンブランドのノン・フィクション・・・まだ読んでいない。
ゆえに結末を知りたくもない。
読解は半分程度まで。
ポイントは形容詞句・形容詞節・副詞句・副詞節・名詞句・名詞節の識別。
洋昴や崇司に当てるが、まだまだ理解しきれていない。
それが英文中の、the new age of the automobile drove him out of the business というタームから out of の概念に話が飛ぶ。
その説明に不可欠な知識が集合。
ここで急遽、シービスケットから数学Aの集合に授業をシフト。
ホワイトボードにベン図を描き始める俺。
それをニヤニヤしながら見ている橋本ドクター。
見ればチューハイを飲んでるやん!
負けられへん・・・俺もグラスに氷と水を入れ焼酎の水割りを飲み始める。
日曜日の午後がゆったりと過ぎていく。
いい酔い加減で緩みきっている俺に、突如として高校生から英語の授業のリクエストが入る・・・午後5時。
かなり酔っている。
征希が娘を肩にかついで現れる。
奥さんが下の美容室でパーマをかけているそうだ。
橋本ドクターにはお迎え、下で征希の奥さんに会ってから帰るとか。
橋本ドクターに続いて征希も降りていく。
これで俺の一人旅だ。
焼酎を飲みながら1991年度センター試験の解説が始まる。
玄太がトップで175点。
「1990年度に比べれば読みにくい。5番の論説文が嫌ですね」
この生意気なコメントが全て・・・5番の読解が勝負となる。
香保(松阪高校2年)が高校生トップ(だと思う)で175点。
当然、英語の授業は5番の評論文が中心となる。
酔いがまわってきている。
こんな時に限って、やたらテンションが上がっている自分がいる。
業務連絡です。
百恵ちゃん、春休みは真広に物理を任せてみたいので百恵ちゃんは化学にシフトしてください。
まず、状況を見ること・・・医師として不可欠な資質だと思います。