別所沼だより

詩人で建築家 立原道造の夢・ヒアシンスハウスと別所沼の四季。
     

空蝉

2010-08-01 | 別所沼だより


  けふは たのしい日曜日。 やつと昨晩、 僕は帰つて来た、 長い留守から、 忘れてしまつた僕のなかへ。 日曜日。 だから、 僕は君に手紙をかかうとおもふのだよ。
 それは沢山の見知らない土地だつた。 また大ぜいの人たちだつた。 さうして、 戦争でさへあつた  ……

 旅といふのは、 信濃へ行つたことではないんだ。 わかつてくれるね  ……   

    

   

   
  
…… だがいま、 かうも思つてゐる―― まだ僕は帰つて来てはゐないのぢやないかしら。 夢を見てゐるのぢやないかしら、 眼をさめたら、 沼のほとりにさびしげに立つてゐるのぢやないかしら、と …
        
      立原道造 (昭和十年十月十三日  生田 勉宛)

  

 
 
 ツトム君―― なんども呼びかけながら親しい友人に宛てた
  長文の手紙。 苦しいとさえ感じながら 詩人はさまよった という。 
 たましいの旅路は 終わりがない。

       -☆-

 なにも知らない蝉しぐれが 勢いを増して降っていた。 
 沼は 酷暑でどろりとしている。
    
   空蝉を見る妻の瞳(メ)のうるむなり   岳陽
   空蝉の一太刀浴びし背中かな     朱鳥

  
  壮烈な 蝉の一生を思う。  

  きょうから 八月。
  熱中症に気をつけて どうぞお元気でお過ごしください

 

 

 

コメント (2)
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