けふは たのしい日曜日。 やつと昨晩、 僕は帰つて来た、 長い留守から、 忘れてしまつた僕のなかへ。 日曜日。 だから、 僕は君に手紙をかかうとおもふのだよ。
それは沢山の見知らない土地だつた。 また大ぜいの人たちだつた。 さうして、 戦争でさへあつた ……
旅といふのは、 信濃へ行つたことではないんだ。 わかつてくれるね ……
…… だがいま、 かうも思つてゐる―― まだ僕は帰つて来てはゐないのぢやないかしら。 夢を見てゐるのぢやないかしら、 眼をさめたら、 沼のほとりにさびしげに立つてゐるのぢやないかしら、と …
立原道造 (昭和十年十月十三日 生田 勉宛)
ツトム君―― なんども呼びかけながら親しい友人に宛てた
長文の手紙。 苦しいとさえ感じながら 詩人はさまよった という。
たましいの旅路は 終わりがない。
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なにも知らない蝉しぐれが 勢いを増して降っていた。
沼は 酷暑でどろりとしている。
空蝉を見る妻の瞳(メ)のうるむなり 岳陽
空蝉の一太刀浴びし背中かな 朱鳥
壮烈な 蝉の一生を思う。
きょうから 八月。
熱中症に気をつけて どうぞお元気でお過ごしください