… ある日の手紙から
S君 誕生日おめでとう。
今のところ一歳ちがい、これはとても微妙です。 おたがい父の倍以上も生きてきたわね。元日生まれの君を、知らないところでたくさんの人が祝ってるよう。
自覚も実感もなく迎えたと言ってましたが、毎日とても楽しいとのこと、つぎつぎに新しいことが見つかって飽きることがないって。 うれしい! 私も同じよ。
Ripe 熟するとは、肉体の状態ではなく、色々なことが見えてくる、分かり味わえてくることね。 この思いはますます強くなる。
父には果たせなかった存命の喜びを、十分に味わいましょう。
先日 野火止・平林寺のくぬぎ林に行きました。
頬は冷たいけれど日差しはこんなにやわらかく、春は間もない。 君も混じって子どもたちと歩いた日も思いだす。 冬の落ち葉は、かさこそと快い音を立てた。
私が幸せなとき、君も幸せでいて欲しい、 今頃どうしているかな、 Fさんおだいじにね。
やますげの瑠璃色もこぼれている。 楢やトウヒの実も拾った。 静寂のなかで松籟をきくしあわせ、こんな時間を君にもあげたい。 赤松も覚えてる? 青空をささげるポールのように、どこまでも伸びている。身も心も大きく伸びよ 父が思いを込めてつけた名前、その通りになった、見せたかったね。
アルバムに「落葉松」のうたが書きこまれているのを読んだ?
からまつの林を過ぎて からまつをしみじみと見き
長いこと、かすれて読みにくい父の詩だと思ってた。 軽井沢高原文庫でびっくり、白秋の詩…
霧雨のかかる道なり 山風のかよふ道なり
自然と人生は似ているね。 父からのメッセージにも思える。
これから、技術者として培ったものを沢山のひとに、解りやすく話してくれたらうれしい。いつかそうなるといい。 工学の面白さを伝えてね。 弟に教わるのも、ちょっといい気分です。
春はすぐそこに おめでとう 2003