地球散歩

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弦楽器

2008-04-26 14:13:21 | ペルシャ語

ساز زهی (サーゼ・ゼヒー)

昨今、日本でも触れる機会が増えてきたイラン古典音楽。イスラーム化以前、エジプト・ギリシャの音楽を吸収し成立したペルシャ宮廷音楽に起源を持つそれは、音階・リズムなどあらゆる面において科学的な手法で複雑に体系化され、常に学問として研究されてきた。イスラーム化以降は、アラブ古典音楽理論の素地となり、楽曲編成や楽器形成に大きな影響を与えた。例えばアラブの楽器として有名なウードの弦は、現在5本だが本来は4本。4はゾロアスター教の4元素、水・空気・土・火を表していたのだという。後には、遠くスペインのコルドバに都を置いた後ウマイヤ朝(756-1031)でも、ペルシャ音楽を基礎としたアラブ宮廷音楽が栄華を極めることとなる。
しかし、「イラン古典音楽」と称されるものの直接の祖先は、19世紀ガージャール朝にて形作られた。複雑な旋法を基礎とし、巧みに即興を絡めた演奏は、アラブ音楽とはまた違った緻密な構成となっており、聴く者に至福の瞬間を与えてくれる。

さて、イラン古典音楽で最も重要なのは疑いなく歌である。それは詩を愛する国民性ゆえ。歌詞に用いられるのは主にペルシャの神秘詩である。しかし、歌に伴奏する弦楽器群の発する個性も相当のもの。
イランの弦楽器と言えば一説では、シルクロードを通り我が国に伝来し、三味線や琵琶の祖となったとされている。少なくとも、正倉院に残る有名な螺鈿紫檀の4弦琵琶は、ペルシャから伝わった弦楽器が祖先であることを疑う人はいない。

ここから、古典音楽に用いられる主要な弦楽器をご紹介しよう。

撥弦楽器セタール(写真左)。「セ」はペルシャ語で数字の3、「タール」は弦のこと。実際には一部復弦なので4弦なのだが、古くは3弦であったのでこの名が残っている。その繊細な音色は、いかにも古典音楽の装飾音を奏でるのに向いている。

次に同じく撥弦楽器タール(写真右)。「タール」は先に書いたように「弦」の意。こちらは復弦3コースで、セタールがその材料に木材のみを使用しているのに対し、ボディや棹に動物の骨や皮を使用している。セタールに比べると随分大きな音が出る。

ヴァイオリンの祖先とされるのが、カマーンチェ。「カマーン」とは「弓」、「チェ」とは「小さい」という意味で、その名のとおり、ヴァイオリン同様弓で弾くことにより音を出すボディの小さな擦弦楽器。ヴァイオリンよりもいくらか野生的なその音色は、聞くものの耳にシルクロードの風を運んでくれるようだ。

そして、「100本の弦」という名を持つサントゥール。こちらは台形の箱に張られた弦を撥で叩くことによって音を出す打弦楽器。この楽器はトルコを経由し東欧へ入るとツィンバロムとなり、後にピアノへと発展していく。

民俗音楽で使用される弦楽器にも魅力的なものが多くあるが、ここで全てを挙げるわけにはいかない。しかし、ペルシャ(イラン)の楽器群が世界の音楽に与えて行った影響は、弦楽器の一部を見るだけでも一目瞭然。身近なところでは、ギター(guitar)の「ター」もペルシャ語の「タール」から来ているのだ。
イランの弦楽器。その辿った道筋を巡る歴史の旅は、私たちを西へ東へと導いてくれる心の旅のインストゥルメンタルなのだ。(m)

参考文献:『世界の民族音楽辞典』若林忠宏編著
        『アラブ・ミュージック その深遠なる魅力に迫る』関口義人編
      (共に東京堂出版)


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14 コメント

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セタール (yuu)
2008-04-27 15:07:19
セタールかぁ~、一度イランの民族音楽の中でどんな風に弾かれてるのか聞いてみたいものです!
ギリシャの弦楽器にはフシギな哀愁が漂うような気がしましたが、イランもそうなのかしら?
yuuさん (mitra)
2008-04-28 02:50:28
いつもコメントありがとうございます!
セタールはイランの古典音楽(日本でも手に入る)のCDで、聴くことが出来ますよ!
民族音楽の通販の店ZeAmiさんが、とても充実した解説とカタログを有されています。
http://homepage1.nifty.com/zeami/index.html
お知らせまでに。
現在のギリシャの音楽とイランの音楽には、実は私自身は共通性をあまり感じられずにいます。イランの音楽は近代に入って、アラブ音楽との離反(は大袈裟な言い方ですが)が進み、よりペルシャ・オリジンなものを求め現在の形に成立していったのですが、一方ギリシャ音楽は、トルコを通しアラブ音楽の影響を大きく受けていますから。でも、実は私はギリシャの音楽の方が、ずっと好きなんですよ(笑)。
セタール (がんさん@大和の国)
2008-04-28 15:14:47
雰囲気がインドのシタールに似ているな…と思ったら、名前も似ているんですね。
メスキータで有名なコルドバにも行ったことがありますが、イスラームは楽器にまで影響を与えているんですね。
がんさん@大和の国さん (mitra)
2008-04-29 02:43:31
コメントをありがとうございます!
インドのシタールも、実はイランの「セタール」が語源となっていて、今は共鳴弦がたくさんある楽器ですが、もともとはこちらも3弦の楽器だったようです。但し、セタールがシタールの直接の先祖というわけではなさそうですが。でも、北インドの古典音楽(宮廷音楽)は、ムガール朝の時代に多かれ少なかれペルシャの音楽の影響を受けています。
スペインがイスラーム化していた時代には多くの文化や物がアラブ世界からヨーロッパに流入していきました。アラブの弦楽器ウードが中世ルネッサンス音楽のリュートとなった話も、とても有名ですよね。
ふーむ、納得です! (yokocan21)
2008-04-29 03:20:58
楽器の、東から西へと流れていった過程がよくわかりました!トルコの楽器の殆どはペルシャからのものなんでしょうね。名前こそ違えど、そっくりなものばかりです。タールはバーラマやタンブールだし、カマーンチェはケマンチェ、サントゥールはカーヌーンにそっくりです。(ご存知ですよね!)
カーヌーンがヨーロッパに渡り、ピアノになったとは、トルコでも聞きました。私、昔カーヌーンを習ってみたくて、先生とお話したところ、子供の頃にピアノをやっていたのなら簡単にマスター出来ますよ、とおっしゃってたんです。でも、その先生、交通事故で亡くなられて.....。そのショックで、それ以来カーヌーン熱が冷めてしまいました。
こうして楽器だけを見てみても、ペルシャって国は、東西様々に色々な影響を与えてきたんですね。

弦楽器 (メギー)
2008-04-29 08:46:04
こんにちは!

弦楽器って奥が深いのですね☆私自身は、幼い頃から琴を習いましたし、息子はチェロを弾いていますので、琵琶や三味線に関して、或いはオーケストラで使われるヴァイオリン、ヴィオラに関してはちょっとの知識があるものの、今回ご紹介くださった弦楽器については、雑誌でちらりと眺めただけで、一体全体どんな音が出るのかなど、全く想像すら出来ませんでしたが、琵琶や三味線の祖となったのは、イラン発祥の弦楽器だったのですね。

歴史的な背景や音楽理論までご丁寧に解説頂いて、大変参考になりました。

今日もありがとうございました!
yokocan21さん (mitra)
2008-04-29 16:43:48
トルコの古典音楽は、アラブ・ペルシャ音楽理論を取り入れ、両者よりもさらに発展し現在の形に成り立っていて、より複雑な構成となっています。有名な話ですが、「軍楽」に関しては明らかにトルコがオリジンだと言えますし、トルコは歴史上、西洋に東洋の音楽の要素を伝える上でも大切な役割を担ってきましたよね!
トルコではカーヌーンを古典音楽で使用すると同時にサントゥールもハルクでは多用しているかと思います。両方使用しているのがおもしろいなあと思います。カーヌーンは、トルコへはアラブから伝わり、どちらかと言うと竪琴が元になっている楽器だと思われますが、やはりサントゥールからピアノへと発展して行った理由は、トルコの中継地としての役目があったから。タンブールは(弦の数など違いはありますが)イラン・イラクのクルド民俗音楽で使われる楽器ですし、この楽器も中東地域に共通したものです。トルコのサズは、ペルシャ語の「サーズ(楽器)」から来ていますが、トルコとの国境であるイランのアゼルバイジャン州の音楽では、やはりサズを多用しているのですよ!一方、バーラマに関してはギリシャとの繋がりがありますし(ギリシャではバグラマ)、この辺りの地域は、音楽の面でも非常に興味深いですよね!第一、ペルシャ宮廷音楽の元となったのが、エジプトとギリシャ。『地球散歩』が、ここで繋がってしまいます(笑)。すみません、一番関心のある話題なので、つい長くなってますが。
yokocan21さんはカーヌーンを習おうと思われたことがあったのですね!先生のお話は、読んでいて私もとても悲しくなりました。でも将来、カーヌーンに触れる機会が訪れるといいですよね。あの神秘的で哀愁のある響き、いつの日かyokocan21さんご自身の手で奏でてみてください!
メギーさん (mitra)
2008-04-29 16:55:48
メギーさんのお宅は音楽一家ですね!息子さんの音楽学校のお話はブログで少し拝見いたしましたが、メギーさんご自身も琴をなさっていたとは。アメリカで琴を弾く機会はありますか?とても喜ばれそうですが。
イランを含め、中東地域の楽器って実際にはなかなか触れる機会がないですよね。CDではいろいろと出ているものの、楽器の形状や、どの音色がどの楽器のものだというビジュアルやサウンドの面で具体的に眼前に見せられないとなかなかぴんと来ないものがあるかと思います。
音楽の話題、大好きなものでつい長々と書いてしまいそうになりますが(笑)。
イランの楽器に触れることにより、西洋のオーケストラ音楽も改めてじっくり聴いてみたいという欲求が最近増しているところです。
こちらこそ、記事を丁寧に読んで頂き、本当にありがとうございました。

馴染みのない楽器で・・・ (マーク)
2008-04-30 12:44:33
是非、この楽器で奏でる音楽を聴いてみたいですね(^^)
いろいろな音楽・楽器にルーツとなっているようですが、きっと音色はまた個性的な異なるものなのだろうと想像しています。。。

やはり、現地に行って聞いてみたほうがいいかな?日本とは気候が違うしねぇ(^^;
マークさん (mitra)
2008-05-01 17:23:42
そうですね。イランの空気はやはり随分乾いているので、日本で奏でるのとは大分違った音が出ます。
実際、日本にいた時にも何度か来日した大物の演奏家の演奏を聴きに行きましたし、イランに来てからもいろいろライブに足を運んでいるのですが、明らかに響きが違います。そして、イランの楽器を日本に持ち帰ると、気候の違いにより、メンテが本当に大変なようです。こちらで音楽家(日本人)の友人がいるのですが、日本にイランの楽器を持って帰ると、すぐにフレットのヒモが切れてしまうと言っていました。
イラン古典音楽の響き (hyblaheraia)
2008-05-05 06:58:16
はじめまして!さらささんのブログ友達で、シチリアのラグーザという所に住んでいます。バロック時代の世俗カンタータを研究しているので、歌には格別の思い入れがあります。
記事を拝見していて、イランの歌について知りたくなりました。以前にお書きになった「ケターブ」という記事も、猛烈に気になっておりました。ペルシア語の詩と薔薇、微分音という、うっとりする組み合わせからどのような調べが流れてくるのでしょう…。歌詞はペルシアの神秘詩とありましたがその内容をぜひ教えてください!
またイラン古典音楽と現在言われている、あるいは演奏されているものは、どのような音階組織を持つのでしょうか?民族音楽についての知識が全くないので、こちらも教えていただければと思います。
微分音の世界も大好きです。チェンバロを弾いていた(楽器をレンタルしていた)ので、古い調律法の方が平均律よりしっくりします。
イラン古典音楽のイスラーム化前後の変化も大変勉強になりました。また音楽についての記事をぜひともお願いいたします。
hyblaheraiaさん (mitra)
2008-05-06 00:48:58
はじめまして!
シチリアでカンタータの勉強、素敵ですね!
一方私の方は、音楽(特に理論)について格別詳しいわけでも勉強をしてきたわけでもないので、hyblaheraiaさんのように音楽を学ばれている方に的確にお答えできる自信がないのですが。
まずは、ペルシャの神秘詩についてですよね。
これは、簡単に言うと、神に対する愛を詠ったものです。特に、地上の人間同士の愛を神への愛に置き換えて詠っている点が、ペルシャの神秘詩の最大の特徴、でしょうか。神と人間の間の隔たりが絶対である正統なイスラームにおいて、こういった思想は絶対的に異端です。しかし(以前ケターブの記事でも書いたような)様々なメタフォーを使用して描かれたペルシャ神秘詩の世界は、美しいだけでなく、深遠な哲学をも含んだ内容のものが圧倒的に多いです。
イラン音楽の音階についてですが、最大の特徴は半音と半音の間にある1/4音の存在です。1/4音はドレミファソラシド全ての音の間にあるわけではなく、
ドとレの間、ミ♭とミの間、ファ♯とソの間、ラ♭とラの間、シ♭とシの間に、それぞれ存在し、西洋音楽の音階とは違った響きを作り出しています。
音楽をなさっているhyblaheraiaさんは、実際にイラン音楽をお聞きになられるのが一番わかりやすいかと思います。
以下のブログ
http://zeami-cd.cocolog-nifty.com/blog/
で、YouTubeに存在するイラン音楽の豊富なアーカイブ(?)を多数ご紹介されていますので、ご興味をお持ちでしたらぜひアクセスしてみてください!イランからは残念なことにYouTubeにアクセスできないので私は見られないのですが、ここで選ばれている映像は多分どれも選りすぐりのものばかりです!
チェンバロをなさっていたというお話も、とても興味深いです。hyblaheraiaさんのブログも、ぜひゆっくり拝見させて頂きたいです。
そして、こちらこそ音楽についていろいろ学ばせてください!
聴いています! (hyblaheraia)
2008-05-06 07:21:28
ご丁寧な解説ありがとうございました。早速、お勧めいただいたサイトで、北イランのギーラーン民謡とマザンダラーン民謡の他、ファーテメ・パリサーとスィマ・ビナという女性の歌を聴いています。微分音が音楽全体にふくよかさを与えていて心地良いです。
特にアリザーデ(弦楽器)という男性と器楽グループの伴奏でパリサーが歌う歌が素晴らしかったです。
17世紀初期のヴェネツィアの世俗カンタータ(ソプラノと通奏低音)の、ラメント(悲歌)と呼ばれるものにとても良く似た雰囲気を持っていました。
西洋音楽史の本だけを読んでいていは知り得なかった世界です。ありがとうございました!
hyblaheraiaさん (mitra)
2008-05-07 16:32:16
お返事が遅くなって申し訳ありません。
アリザーデ&パリサーの映像は貴重ですね!現在のイランでは、女性の主唱・独唱は禁じられているので、今では見られない映像だと思います。(私もやっぱり観たい!)イランは民謡も地方色豊かで興味深いです。ZeAmiさんがご紹介されていたかどうか忘れてしまいましたが、もしバローチスターンのものもあればぜひ聞いてみてください。あとはクルドもおもしろいと思いますよ。
17世紀ヴェネツィアのラメントですか・・・
今回は私の方がどういう感じなのかイメージが湧かないです。いずれにしろ、東洋音楽を聴いている人には、似ているという発想が浮かんでこないかもしれませんね。こちらこそいろいろインスピレーションを頂きありがとうございます!

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