温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

柚木慈生温泉

2017年06月24日 | 山口県
 
引き続き山口県の温泉を取り上げます。今回は温泉ファンから評価の高い「柚木慈生温泉」です。所在地は山口市ですが、レンタカーのナビが指し示した場所は、市街からとんでもなく離れた山の中。とても「市」だと信じられません。それもそのはず、後日知ったのですが、この「柚木慈生温泉」がある一帯は、2005年の市町村合併で山口市に吸収されるまで徳地町という独立した町だったらしく、今でも山口市市域の約40%はこの旧徳地町なんだとか。
宿自体は国道沿いに位置しており、看板も立っているので迷うことなくたどり着けますが、こちらは湯治を主目的としているためか、宿泊は2泊以上から受け付けているので、日程が限られている今回は立ち寄り入浴で利用させていただくことにしました。


 
駐車場の隅には源泉井戸があり、薪がたくさん積み上げられていました。湧出温度が17℃であるため、入浴には加温が必要であり、そのために薪がたくさん用意されているわけですが、こちらでは加温に際してちょっとした工夫がなされています。その工夫に関しては後述します。
玄関を入ると奥へ廊下が伸びており、右手に軽食カウンターが設けられ、左手に浴室入口のドアが並んでいました。そしてカウンターの中で作務衣姿のご主人がランチ営業の準備をなさっていました。


 
廊下の壁には鉱泉について、そして湯使いについての説明が掲示されていました。「リチウムイオンは温泉基準法値の約3倍、遊離二酸化炭素は約8倍の高濃度」とのこと。日本の温泉法では指定された物質が一定量以上含まれていれば温泉であると認められるのですが、館内掲示されている分析書によればリチウムイオンは2.66mg、遊離炭酸は2107mgと記されていましたから、その定義の中に含まれる「リチウムイオン1mg以上」や「遊離炭酸250mg以上」という項目は余裕でクリアしていますね。更に言及すれば「フェロ又はフェリイオン(総鉄イオン)10mg以上」「フッ素イオン2mg以上」「総硫黄1mg以上」「メタホウ酸5mg以上」「メタけい酸50mg以上」そして「溶存物質総量1000mg以上」といった項目も満たしているので、温度以外の数値はその辺りの温泉なんて目じゃないほどいろんな成分を含んでいるのです(参考:総鉄イオン14.77mg、フッ素イオン3.11mg, 硫化水素イオン1.22mg、メタホウ酸121.2mg、メタけい酸11.29mg、溶存物質3.527g/kg)。

次に湯使いに関してですが、文章をまるごと抜粋すると「泉質が高濃度のため源泉100パーセントでは皮膚の弱い方は肌荒れを起こす場合がある。そのために85度の沸かし湯を30パーセントと17.6度の源泉を70パーセントの目安で混ぜ合わせ入浴に適した温度に保ち、常時かけ流しにしている。(温泉専門医のアドバイスによる)」とのこと。この説明によれば鉱泉が濃くて皮膚トラブルを招きかねないから温度調整も兼ねて沸かしお湯を加えて薄めているようですが、マニア的に捉えると、源泉の鉱泉を直に加温すると炭酸ガスが飛んでしまうので、鉱泉は冷たいまま浴槽へ注ぎ、そこへ薪を焚いて沸かした真湯を加えることで、鉱泉の持ち味を活かしたまま入浴することができるんですね。

さて、成分的にも湯使いも立派な鉱泉であることを確認した後は、湯銭を支払ってお風呂へ。


 
こちらのお風呂は湯治が主目的であるため、歓楽的要素はなく、シンプルで実用的な内湯のみです。とはいえ、天井以外の壁・床・浴槽などには赤い御影石が用いられていますし、浴槽の独特な形状をしており、そうした各要素が旅館ならではの非日常を感じさせてくれます。浴室の左手には洗い場があり、カランが4基並んでいました(うち1基はシャワー付き)。なお洗い場に備え付けられているのは石鹸のみですから、シャンプーなどが必要な場合は各自で持参しましょう。


 
浴槽は数字の9を膨張させたようなスタイルで、5〜6人同時に入れそうな容量を有しており、縁の上からお湯が溢れ出て、オーバーフローが形成した石灰華により床は千枚田状態になっていました。湯船のお湯は若干緑色掛かったオレンジ色に濃く濁り、赤茶色の浮遊物(及び沈殿)も目立っています。廊下の張り紙には沸かし湯:冷鉱泉=3:7と記されていましたが、その割合のおかげか、長湯仕様のぬる湯に設定されており、時間を忘れていつまでも浸かっていたくなるような、まどろみを誘う湯加減でした。



湯口は一つですが、その内部をよく見ると流れが2本あり、平べったい口の右側は冷たく、左側からは熱いお湯が吐出されていました。つまり右側が源泉100%の冷鉱泉で、左側が薪で沸かしたお湯なのでしょう。湯口内の冷鉱泉は無色透明ですから、湯船で外気に触れたり温度が変わったりするうちに、濁りを濃くするのでしょう。弱い金気臭を放つ濁り湯に浸かると、全身に浮遊物がまとわりつき、ギシギシの引っ掛かる浴感が得られます。


 
何よりもこのお風呂で特徴的なのは、湯船に入った途端、肌にびっしりと付着する夥しい炭酸ガスの気泡です。湯中では全身があっという間に泡だらけになり、何度拭っても気泡まみれになるのです。この気泡の付着により、本来ならギシギシが優るはずの浴感に気泡がもたらすフワフワ感やスルスル感も混在していました。
その一方、あまりに多くの気泡が付着するため、肌の上で気泡がパチパチと弾く感触がはっきりと伝わります。特に湯船から上がる時には気泡が一斉に弾けるのですが、その刺激はなかなか強烈です。館内表示で「源泉100パーセントでは皮膚の弱い方は肌荒れを起こす場合がある」と記されていましたが、なるほど源泉のままでしたら、皮膚の弱い方には肌荒れはもちろん、このパチパチですらも痛く感じてしまうかもしれません。でも、それだけ炭酸ガスのパワーがはっきりとわかるのですから、温泉マニア的には非常にありがたいお風呂です。源泉の個性を生かす湯使いといい、ぬるめの湯加減といい、夥しい気泡の付着といい、温泉ファンの皆さんが絶賛するのも納得です。しかも長湯と炭酸ガスの温浴効果により、体の芯からしっかりと温まり、しばらくは汗が引きませんでした。

お風呂上がりに軽食カウンターにいらっしゃったご主人が、源泉100%の鉱泉を湯呑みに注いで飲ませてくれました。湯呑みの中に気泡がびっしり着くほど炭酸ガスが多く、まだ酸化していないので綺麗な無色透明でした。実際に口にしてみますと、酸化鉄がまださほど発生していないためか金気はあまり感じないものの、カルシウムと思しき硬い味、そして炭酸水の味がはっきりと口腔に広がりました。ヨーロッパで売っている硬水の炭酸水みたいです(ゲロルシュタイナーみたい)。そういえばここの鉱泉水にはリチウムが多く含まれているんでしたっけ。リチウムを含む鉱泉は飲泉すると効果的といいますが、確かに言われてみると体の中に鋭気が注入されたような気分がしました。リチウムといえば、バッテリーですよね。その感覚を通じて、バッテリーが充電される時の気持ちが少しだけ理解できたのかもしれません。素晴らしい鉱泉のお風呂でしっかりとチャージした私は、元気溌剌になって次の目的地へと向かったのでした。


斉藤泉
含二酸化炭素-ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩・塩化物冷鉱泉 17.1℃ pH6.20 78.7L/min(動力揚湯・深度70m) 溶存物質3.527g/kg 成分総計5.634g/kg
Na+:475.6mg(43.35mval%), Mg++104.4mg(18.00mval%), Ca++:346.1mg(36.18mval%), Fe++&Fe+++:14.77mg, Li+:2.66mg,
F-:3.11mg, Cl-:716.1mg(41.59mval%), Br-:2.18mg, HCO3-:1717mg(57.94mval%), HS-:1.22mg,
H2SiO3:121.2mg, HBO2:11.29mg, CO2:2107mg,
(平成20年2月25日)
温水注入あり(85℃の沸かし湯を30%、源泉の冷鉱泉を70%の割合で混ぜ合わせている)

山口県山口市徳地柚木2178  地図
0835-58-0430
紹介ページ(山口市観光情報サイト「西の京 やまぐち」内)

10:00~20:00 毎月5日・18日定休
500円
ロッカー・石鹸あり、他備品類無し

私の好み:★★★

コメント
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