温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

栃尾又温泉 自在館 その1(宿泊編)

2015年08月04日 | 新潟県
暑中見舞い申し上げます。
こう毎日暑くちゃ、わざわざ熱い風呂なんかに入って汗を掻こうなんて気にもなれませんが、ここは雪景色でもご覧になって、ビジュアルだけでも涼しくなっていただきたく、拙ブログでは半年前の冬に訪れた雪国の温泉を立て続けに取り上げております。今回からは日本屈指の豪雪地帯である新潟県中越地方の温泉を連続して紹介してまいりましょう。まずは魚沼の名湯栃尾又温泉「自在館」に宿泊したときの記録を、銀世界の画像とともにアップ致します。


●チェックインまで
 
関越道小出インターから一般道に下り、立山黒部アルペンルートに負けず劣らずの高い雪の壁を進んでゆきます。この日は春の訪れを予感させる麗らかな陽気で、朝から青空が広がり、道路の雪も融けて非常に走行しやすい道路状況でした。
大湯温泉の手前で左折し、佐梨川の右岸に沿って南下する道に入って、木立の中を2キロほど進んでゆくと…


 
道の突き当たりにある栃尾又温泉に到着です。こちらには3軒のお宿が営まれていますが、今回はその中でも最もメジャーな「自在館」で一泊することにしました。秘湯を守る会の会員宿ですので、温泉ファンのみならず一般の方でもご存じの方は多いかと思います。


 
一般的な旅館よりもかなり早い13時からチェックインが可能です。宿泊するといくつもの浴室を利用できるので、強欲な私はその全てに入るべく13時半に到着したのですが、この日のお客さんは私と同じような思惑を抱いていたのか、既に2組ほどのお客さんがチェックインを済ませていました。
ロビーの中央に据えられた囲炉裏の前に腰を掛けて、お茶と豆菓子をいただきながら宿帳の記載を済ませると、お部屋への案内前に、館内で着る浴衣や作務衣を選ばせてくれました。なお車の鍵や貴重品はチェックイン時に帳場へ預けます。


 
ロビーの一角ではこの辺りの渓流に棲息する淡水魚が飼育展示されていました。上画像はウグイ。私が生まれ育った東京圏の方言ではハヤと呼びますが、当地ではハヨと称しているようです。土管に身を隠していましたが、胴体隠して頭も尾っぽも隠さず状態。


 
こちらはハゼの仲間であるカワヨシノボリ。水槽内には数匹いて、お腹の吸盤でガラスの内側にへばりつく者もいれば、砂利の上で鰓をユラユラさせながらジッとこちらを凝視する者もいたりと、その生態は三者三様。いずれもハヤと違って姿を隠そうとせず正々堂々と暮らしており、一見の者として観察する分にはこちらの方が愛らしく覚えました。


●客室(旧館)
 
客室には様々なスタイルがあるのですが、爪で火を灯すかの如き生活を送る私としては贅沢なプランを選べませんので、最もリーズナブルな「大正館」のプランで予約しました。本館は鉄筋造の立派な建物なのですが、この「大正館」はその名の通り大正期に建てられた旧館で、本館に比べてハード面で劣るために安い値段設定となっており、湯治で長期宿泊なさる方もこちらを利用するんだそうです。本館の階段を上がって渡り廊下を進み、歩く度にギシギシと床が鳴る旧館へと向かいました。途中、その渡り廊下の上から旧館の姿を眺めたのが上画像。湯治という語感が持つ鄙びや渋さとマッチする風情ある外観に思わずため息が出ちゃいました。軒先から無数のツララを垂らしている旧館は、1階部分が雪に埋もれていますが、それが却って風格を増しているように見え、豪雪に耐えながら歴史を重ねてきた重厚感のあるこの姿が頼もしく思えます。


 
今回通されたお部屋は69番。変態野郎の私に相応しいエッチな番号に思わず笑ってしまいました。大正時代の古い構造をそのままにしているため、部屋にドアは無く、廊下との間は障子、隣室との間は襖で仕切るだけで、鍵は掛けられません。不用心に思われる方もいらっしゃるでしょうけど、昔の宿はどこもこんな感じの造りだったのであり、未だにこのスタイルが温存されているお宿は今どきほとんど見られませんから、歴史を追体験できるという意味で貴重な存在なのであります。


 
お部屋にはこたつが用意されており、入室時には既に温められていました。晴れていたとはいえ、まだまだ寒い日々でしたから、こうした配慮はとってもありがたいものです。お部屋は当然ながら和室ですが、6畳が2間続きになっており、一人で泊まるのが申し訳なるほど空間を贅沢に使わせていただきました。古いながらも手入れはきちんと行き届いています。上述のように部屋の施錠は不可能ですが、ちゃんと金庫は用意されていますので、貴重品の管理は問題なし。テレビやポット、ファンヒーターも備え付けられているばかりか、山奥の古い建物なのに、Wifiも使えるのがすごいところ。古いながらも時代にきちんと対応しているお宿の努力に敬服です。


 
こたつの卓上には「自在館読本」なるものが置かれていました。早い話が館内案内なのですが、計22ページに亘って全て手書きされたその案内は、チェックイン・アウトや食事の説明、浦佐駅までの送迎、連泊に際する説明、お風呂の場所、利用方法、栃尾又温泉の効能などなど、イラストを織り交ぜながら微に入り細を穿つ形でわかりやすく記されており、痒いところに手が届くホスピタリティ精神溢れる冊子となっていました。
もうひとつ、卓上に置かれた説明類で重要なのが、ラミネート加工された「入浴時間表」なるもの。宿泊客が利用できるお風呂は計5ヶ所あるのですが、全てがいつでも利用できるのではなく、時間によって男女を切り替えたり、あるいは貸切風呂となる時間帯があったりと、ちょっと複雑なシステムになっており、私のようなオツムの弱い人ですと頭がこんがらがっちゃいます。そこでこの表とよくニラメッコしながら、どの時間にどのお風呂を入浴できるのか、しっかり把握しておく必要があるわけです。なお各浴室に関しては次回記事以降で改めて触れてまいります。


 
旧館内には客室をラウンジに改造したスペースがあり、古い蔵書や写真、レコードなどが飾られていて、懐かしい昭和の雰囲気で満ちていました。次回記事で取り上げる「うえの湯」への入口付近にあるので、湯上がり後の休憩スペースとしても使えますね。


 
栃尾又温泉はそもそも物見遊山ではなく湯治目的で人々から親しまれきた長い歴史を有する温泉。この旧館は湯治宿としての面影を強く残しており、館内には自炊設備があるのですが、設備的な問題があるのか将又防災上の問題なのか、現在は使用を控えて欲しいとのことですので、原則的に食事はお宿が提供するものをいただくことになります。


●夕食
 
ということでお食事は食堂へ。館内に食事処は2つあって、利用形態やプランによって分けられているらしく、グレードの高いプランの宿泊客は個室食事処「野草庵」、一人利用や湯治プランの宿泊客は囲炉裏に隣接している大きな食堂でいただきます。一人客である私は後者へ案内されました。
夕食は18時から。指定されたテーブルには既に彩り豊かな品々が並んでいました。この日の献立は、鴨鍋、虹鱒の刺し身(こんにゃくと舞茸添え)、大根の煮物、蕨の醤油煮、ネマガリダケ、うるいのぬた、等々。なおご飯とお味噌汁はセルフでよそいます。ご飯は普通の白米と玄米の2種類が用意されていました。お米はもちろんご当地魚沼産。
お客さんの中には定年後の奥様サービスをなさっているような老夫婦を何組かお見受けしたのですが、かつては「男子厨房に入るべからず」の掟を堅持して亭主関白を貫いてきたのに、退職して仕事という生き甲斐を失い、急に萎れて奥さんに頭が上がらなくなっちゃったのか、自分でしゃもじを持とうとするも炊飯器の蓋すら開けられず、いわんやご飯のよそい方もわからず、左手に茶碗を持ったまま立ち尽くしている禿頭の旦那さんがいらっしゃいました。津々浦々のお宿を巡っていると、時折こうした姿を露呈する団塊の世代以前の男性を見かけますが、その場合奥様は、えてして狼狽する旦那に一瞥もくれず、糟糠の妻を強いられてきた積年の怨念を晴らさんばかりに、哀れな夫の醜態を心のなかでほくそ笑みながら、自分の世界に入って黙々と味覚を愉しんでいるものです。


 

閑話休題。上述の献立のほか、厨房からは出来たてのものを随時持ってきてくれます。着席時に配膳されていたお皿には、またたびの実が隅っこに載せられているだけの空っぽのものがあったのですが、やがてそこにはアツアツのイワナの塩焼きが置かれました。焼きたてだけあって香ばしく、臭みも全くなく、肉厚で実に美味。その後にシャケとキノコのホイル焼き、そして殿(しんがり)には事前に追加注文しておいた新潟牛と八色シイタケ(デカくて肉厚の魚沼特産シイタケ)のグリルの御出座しとなりました。牛肉は柔らかくて味もしっかりしており、脂も上品、胡椒の風味がよく効いており、あっという間にペロッと胃袋へ消えていってしまいました。お世辞抜きでうまかった。


 
食後は囲炉裏端に腰掛け、真っ赤に燃えている薪をボンヤリ眺めながら、コーヒーを飲んで一息いれました。ロビーにはサーバーに用意されているブレンドコーヒーのほか、自分で操作して淹れるエスプレッソマシンも置かれており、自由にいただくことができます。
私の傍では台湾からやってきた家族連れが、囲炉裏や提灯を背景にし、浴衣姿で記念撮影していました。ネット上の口コミに忠実で訪問先が固定化されている日本人とは対照的に、台湾人をはじめとする海外から訪日客は、この栃尾又をはじめとして「どうしてそんなところを知っているの?」とこちらが訊きたくなるほど奥深い場所まで足を運んでおり、各人が自由に日本の文化や四季折々の景色を堪能していることに感心させられます。観光を通じた国際交流の進展は実に喜ばしいことであると、海外旅行が好きな私は心の底から歓迎しております。


●朝食
 
 
朝食はバッフェスタイルが併用されており、予め卓上に配膳されているのは、ほうれん草のお浸し、ガンモと根菜の煮物など3品程度で、着席後に焼き魚を持ってきてくれますが、ご飯やお味噌汁の他、サラダやタマゴなどは自分で好みに合わせてピックアップします。朝はあんまり食いたくねぇよ、というお客さんでもこれならご自分の胃袋に合わせたボリュームに調整できますね。栃尾又温泉のお湯が活かされてるラジウム納豆はここでしか食べられない逸品でして、大粒の納豆は味わい深く食べ応えもあって実に美味でした。

その2へつづく
コメント
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