どのアメリカ人に訊いたって、アメリカは民主主義の国だと断言するだろう。
それは間違いではないが、時として疑いたくなる時がある。本当にアメリカの大衆はイスラエルを支持しているのかい?
この疑問に正面切って答えてくれる大手マスコミを私は知らない。同時に、アメリカの大衆がイスラエルを圧倒的に支持しているとも、到底思えない。
イスラエルという国が建国されたのは20世紀になってからだ。パレスチナに住む原住民をゲットーに追いやり、周辺国の反撃を撃退して建国された侵略者の国でもある。
何故にアメリカは、この20世紀に侵略により建てられた国を応援するのか。これは20世紀の不思議だと私は思っている。そりゃ、アメリカの政財界にはユダヤ系の企業、資本家、篤志家が数多くいることぐらいは、私だって知っている。
しかし、アメリカにおけるユダヤ人が少数派であることも知っている。ユダヤ人が決して好かれていない現実も知っている。それなのに、この少数派の意見が、アメリカの国政に大きく影響を与えていることは、周知の事実である。
民主主義の原理は、最大多数の最大幸福である。多数決原理主義だといってもいい。私にはアメリカの大衆が、ユダヤ人及びイスラエルを支持しているとは思えないのだ。
ただ、視点を変えればアメリカがイスラエルを支持する理由が見えてくる。アメリカにとって重要なのは敵の存在である。敵があるからこそ、軍隊は必要だし、情報機関も必要だ。当然に軍需物資を提供する企業も必要だ。なにより強力な政府が必要となる。
アメリカ政府が真に恐れるべきは、敵がいない状況であり、アメリカの真の危機とはなりえない程度の敵がどうしても必要になる。ソ連が共産主義国であった時は、冷戦という状況があり、軍事予算にも潤沢な余裕があり、政府の権限は強くなる一方であった。
しかしベルリンの壁が崩壊すると敵の存在が不足するという恐怖が現実のものとなった。だからこそイスラエルには価値がある。このユダヤ教原理主義の国をアメリカが守る以上、イスラム社会は必ずやアメリカを敵視する。
敵があってこその軍隊であり、政府機関である。イスラムはアメリカの敵だと、マスコミを通じて国民を洗脳しなくてはならない。虚偽であろうとイラクのフセインは大量破壊兵器を持っていたはずだし、本当はバラバラだけどアフガニスタンは強固な反アメリカの国でなくてはならない。
平和を至上の目的に据える戦後の日本人には理解しがたいかもしれないが、アメリカは敢えてイスラムを敵に回している気がしてならない。マスメディアに多大な影響力を持つユダヤ資本が、反イスラム感情をアメリカ市民にばら撒いていると勘繰りたくなる。
表題の書の著者である田中宇は、インターネットを駆使して日本のマスコミが敢えて報じない海外のメディアから情報を採り、自分なりに分析して発表してきたことで知られている。
多極主義という造語を用いてアメリカの政界の奥深くで練られ、政治を動かしている陰謀があると信じていることでも知られている。其のせいで些か評価を落としている感は否めない。私とて、とてもじゃないが全面的には信じられない。
それでも注目しているのは、日本のマスコミ様が報じようとしない情報を発信してくれる数少ない情報源の一つであるからだ。もしも読む機会があったら、多分驚くと思います。通常の国際報道では目にしない情報に溢れているから。でも過信は禁物。
私は表に出てこないアメリカ政界の奥深くでの議論はあるはずだと思うし、それを陰謀だと論じても、まったくの間違いだとは思わない。しかし、陰謀だけですべてが動くはずがないとも思っている。人間はそれほど単純でもなく、理屈どおりに動く生き物でもない。
だから、なるべく陰謀論には加担しないようにしているが、それでも情報の一片として知っておいても悪くないとも思っている。だって、陰謀やら策謀を練るのが好きな人って、古今東西を問わずけっこう居ますから。
それを奇論だと廃してしまうのは、マスコミの常識あるいは良識かもしれないが、私はマスコミ様の常識をそれほど信用してない。だからこそ、様々な異論、反論があり、少数派のジャーナリストだとわかっていても、このような作品も読むようにしている。
どんな情報もそうですが、最後に判断するのは自分自身。それを銘記したうえで読むべき本だと思います。