ヌマンタの書斎

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画期的判決なのだが

2014-07-15 12:01:00 | 社会・政治・一般

少し前になるが、最高裁がとんでもない判断をした。

ある弁護士さんが、日本弁護士連合会の役員になり、その業務にかかる費用を弁護士業務の必要経費として申告した。しかし、税務調査があり、税務署は、日弁連としての活動は、弁護士の収入とは直接関係がないので、その費用(役員選挙費、役員懇親会費等)は必要経費に該当しないと否認した。

その否認に承服しかねた弁護士は、さっそくに裁判に訴え出て高等裁判所で納税者側(弁護士側)勝訴の判決を得た。しかし国側は納得せずに、最高裁へ上告した。その結果、最高裁は上告不受理(平成26年1月17日)となり、高裁判決が確定した。

なにが画期的なのか。

それは東京高裁が、国側(税務署)の主張である必要経費の定義として、収入と直接関係がない支出は必要経費ではないとしたことを否定したからだ。この直接という二文字が必要経費の意義から外されたことが画期的なのである。

所得税法では、必要経費の定義として「業務の遂行上必要な支出」だと規定しているだけで、条文のどこを読んでも直接という言葉はない。しかし、税務の現場では、税務署は執拗に業務の遂行上直接必要な支出だけが必要経費であるとしてきた。

そのため、我々税理士の大半は、所得税法上の必要経費については、税務署側の主張に沿うような形で厳しく判断していたのが実情だ。法的な根拠が薄い(ないとは云わない)ことは知っていても、逆に収入との直接的な関連性がなくても必要経費とする根拠が乏しかったのが、その理由である。

もっとも私自身は、必要経費の判断について、直接か否かを争ったことはない。その議論にならないよう、別の視点から税務調査を進めるよう誘導する手法を使っていたからだ。直接の判断で、署と争うのは得策ではないとの思いがあったからでもある。

しかし、この東京高裁の判決(平成24年9月19日)を支持した最高裁の決定は、必要経費の定義について劇的に変えたと云っていい。

ただし、私自身はしばらく様子見のつもりである。なぜかというと、税務署側の主張にも一理あると思っているからだ。実際問題、納税者から持ち込まれる領収証には、明らかに事業とは無関係なものも多い。曖昧なものも、よくよく聞くと、「ダメかと思ったけど、一応念のためと思って、入れておきました」なんて適当なものが多いのが実情だ。

必要経費とは、業務の遂行上必要な支出である現実には変わりない。ただ収入との直接関連性を問われなくなっただけである。ただ、前よりも税務調査の際に、税務署につきつける武器が増えた事は確かだ。

このように革新的な判決ではあるが、実はほとんど世間には知られていない判決でもある。

何故かというと、この判決を取材したマスコミが馬鹿だからだ。この判決を、日弁連の役員を務める弁護士という特殊な職業の人の特殊な問題だと、勝手に思い込んで取材してしまったからだ。

おかげで、本当は日本で事業所得等の申告をするすべての納税者全員に係る判決であるとの認識がなく、特殊な人の特殊な問題に貶められてしまった。これが、現在の日本のマスコミ様の知的水準である。

まァ、取材する記者様はサラリーマンであり、必要経費というものが、如何なるものかの実感がなかったが故だとも云える。民主主義国家では、主権者たる納税者が、適切な知識を持って政治を判断する必要がある。

そのためには、必要な情報を提供するマスコミの役割は非常に大きい。しかし、日本のマスコミ様は、不勉強であるがゆえに、主権者が知るべき知識を伝えずに済ませているのが実情である。

日本の政治を嘆き、馬鹿にするのは得意だが、主権者たる国民に必要な情報を伝える事は平然と怠るのが日本のマスコミ様である。日本の政治が衆愚政治に堕しているのも、ある意味当然なのだと思います。

コメント (2)
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