清潔に過ぎることも弊害が多いようだ。
私が十代の頃は、年がら年中登山に夢中だった。その頃の私の身体は、現在よりもはるかに丈夫だった。なにせ、二週間以上山に入り、風呂もシャワーもない汚れた身体で平然と生きていた。
水筒の水は皆で飲みまわすぐらいは当然で、小虫が飛び込んだ味噌汁から、無雑作に虫をつまみ出し平然と飲み干した。もしかしたら、つまみ出すのを忘れたこともあったかもしれない。
山にいる最中は気がつかないものだが、下界に降りてみると獣じみた姿であったらしい。事実、自分の匂いを嗅ぐと、野良犬と同じ匂いがした。
もっとも、これは個人差があって、同じパーティで登山をしても、人によってはかなり小ざっぱりしてる。聞けば、時折沢で身体を洗ったり、濡らしたバンダナで身体を拭いたりしていたそうだ。そんな面倒なこと、考えもしなかった。
私は山では腹を下した経験がない。あれだけ生水を大量に飲み、衛生的にいささか問題のある生活をしていたにもかかわらずだ。どうも身体が丈夫になっていたらしい。
大学4年のゼミ合宿でのことだ。避暑地のロッジでジンギスカンを食べた翌日、私とアメフト部の奴以外全員が腹を下したことがあった。顔色が悪いゼミの仲間から、なんでお前らあれだけ食べたのに平気なんだと文句言われた。
私が「胃袋の鍛え方が違うぜ」と言うと、「お前ら人間じゃねえよ」とぼやかれた。んなこと知るか。
あれから20年以上、間違いなく私の胃袋は普通の人並みに弱くなっているはずだ。過去の栄光(?)は砂上の楼閣と化した。風邪を引きやすくなり、腹も下しやすくなってしまった。
やはり免疫抑制剤をはじめ多量の薬剤を服用したこともあるが、それ以上に難病により体力が削られたことが大きい。もはや私の身体は外部からの細菌に対して、情けないほどに脆弱になっている。
実際、主治医からは感染症は再発の引き金になることが多いので、注意するように言われている。おかげで幼少時から汚いことが平気な子供であったのに、今では清潔第一を旨とする健全不良中年になってしまった。
そんな脆弱な私にとって、表題の本に書かれた内容は恐ろしい。科学が進歩した現代においても、結核の根絶には失敗し、ペストやコレラといった恐るべき伝染病の恐怖から逃れられない現実を教えてくれる。
疫病を断つ清潔な環境を育んだ先進国だが、薬の使いすぎによる耐性菌を産みだす矛盾に対する答えは見つからない。いくら国内において、進んだ医療体制を整えても、海外から来る恐るべき病魔を断ち切ることは出来ない。
医療技術の進歩を上回る速さで、変異と進化を繰り返す病原体に果たして人類は勝てるのか?
薬漬けの人生を送ることを義務付けられた私からみると、人間は病気には勝てない。いつか必ず負ける。だからこそ子孫を残して、種として生き残りを図るしかない。
子供のいない私には残念な未来ではあるが、病気を断ち切るのではなく、病気と並存していく人生もそう悪くないとも思っている。
多分ね、人間は自分の弱さを自覚しているほうが、他人には優しくなれると思うよ。いくら金を注ぎ込み、健康な暮らしに固執するよりも、笑顔に囲まれた人生のほうが幸せだと思うな。
私が十代の頃は、年がら年中登山に夢中だった。その頃の私の身体は、現在よりもはるかに丈夫だった。なにせ、二週間以上山に入り、風呂もシャワーもない汚れた身体で平然と生きていた。
水筒の水は皆で飲みまわすぐらいは当然で、小虫が飛び込んだ味噌汁から、無雑作に虫をつまみ出し平然と飲み干した。もしかしたら、つまみ出すのを忘れたこともあったかもしれない。
山にいる最中は気がつかないものだが、下界に降りてみると獣じみた姿であったらしい。事実、自分の匂いを嗅ぐと、野良犬と同じ匂いがした。
もっとも、これは個人差があって、同じパーティで登山をしても、人によってはかなり小ざっぱりしてる。聞けば、時折沢で身体を洗ったり、濡らしたバンダナで身体を拭いたりしていたそうだ。そんな面倒なこと、考えもしなかった。
私は山では腹を下した経験がない。あれだけ生水を大量に飲み、衛生的にいささか問題のある生活をしていたにもかかわらずだ。どうも身体が丈夫になっていたらしい。
大学4年のゼミ合宿でのことだ。避暑地のロッジでジンギスカンを食べた翌日、私とアメフト部の奴以外全員が腹を下したことがあった。顔色が悪いゼミの仲間から、なんでお前らあれだけ食べたのに平気なんだと文句言われた。
私が「胃袋の鍛え方が違うぜ」と言うと、「お前ら人間じゃねえよ」とぼやかれた。んなこと知るか。
あれから20年以上、間違いなく私の胃袋は普通の人並みに弱くなっているはずだ。過去の栄光(?)は砂上の楼閣と化した。風邪を引きやすくなり、腹も下しやすくなってしまった。
やはり免疫抑制剤をはじめ多量の薬剤を服用したこともあるが、それ以上に難病により体力が削られたことが大きい。もはや私の身体は外部からの細菌に対して、情けないほどに脆弱になっている。
実際、主治医からは感染症は再発の引き金になることが多いので、注意するように言われている。おかげで幼少時から汚いことが平気な子供であったのに、今では清潔第一を旨とする健全不良中年になってしまった。
そんな脆弱な私にとって、表題の本に書かれた内容は恐ろしい。科学が進歩した現代においても、結核の根絶には失敗し、ペストやコレラといった恐るべき伝染病の恐怖から逃れられない現実を教えてくれる。
疫病を断つ清潔な環境を育んだ先進国だが、薬の使いすぎによる耐性菌を産みだす矛盾に対する答えは見つからない。いくら国内において、進んだ医療体制を整えても、海外から来る恐るべき病魔を断ち切ることは出来ない。
医療技術の進歩を上回る速さで、変異と進化を繰り返す病原体に果たして人類は勝てるのか?
薬漬けの人生を送ることを義務付けられた私からみると、人間は病気には勝てない。いつか必ず負ける。だからこそ子孫を残して、種として生き残りを図るしかない。
子供のいない私には残念な未来ではあるが、病気を断ち切るのではなく、病気と並存していく人生もそう悪くないとも思っている。
多分ね、人間は自分の弱さを自覚しているほうが、他人には優しくなれると思うよ。いくら金を注ぎ込み、健康な暮らしに固執するよりも、笑顔に囲まれた人生のほうが幸せだと思うな。