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森羅万象 ~ 歩く印象派

築地市場移転計画の本質は、公共の市場を「民営化」すること(その2)

2010年06月22日 18時36分57秒 | 歩く印象派
 同時に、1995年には全国に88あった中央卸売市場が2009年4月現在で77に、地方卸売市場が1995年の1521から2007年に1237になるなど、市場の再編整備も進んでいます。東京や大阪、名古屋、札幌、福岡など大都市の中央卸売市場は「拠点基幹市場」と位置づけられ、面積や施設を拡充するなど、より広域への食品供給の役割を担うために整備し、その場合は民間の資金を活用することが義務づけられました。その他の市場も民営化が進められています。これはいわゆる規制緩和、民間活力の導入の考えに沿ったものと言えるでしょう。

 築地に代わる豊洲新市場の建設計画でも、大手量販店や外食産業のニーズに合わせて、輸入食品も含めて大量の生鮮食品を配送するための物流施設の整備に重点がおかれています。例えば、転配送施設、荷捌(にさば)き施設、加工パッケージ施設などです。また、現在の築地市場の管理運営者は東京都ですが、新市場では民間事業者が市場の建設に当たり、さらに建設後も15年間は市場を管理・運営する計画となっています。
 このように、新市場の建設は、大企業のための大規模集配センターの建設であり、また、民営化の促進により中央卸売市場がもつ公共性(公正な価格形成や出荷者等の差別的扱いの禁止など)の交代も心配されます。

 東京と議会選挙や国政選挙の影響もあり、築地市場移転問題の先行きはまだ予断を許しませんが、こうした卸売市場の再編は私たちの暮らしの変化と密接に関わっています。


(その3)「果てしない安売り競争のの中で生産者も消費者も損をする」へ続く

築地市場移転計画の本質は、公共の市場を「民営化」すること(その1)

2010年06月22日 01時28分55秒 | 歩く印象派
 以下は三国英実(広島大学名誉教授、農業・農業問題研究所事務局長)「築地市場の移転問題と私たちの食卓との関係は?」(農文協「うかたま」VOL19)より


 市や都府県などの地方公共団体が管理・運営する中央卸売市場は国民が安全な生鮮食料品を日々入手できるようにしながら、需要と供給のバランスをとり、公正な価格で売買されるように全国の主要都市に設置されています。
そのほか主に民間企業が経営する地方卸売市場もあり、身近な地域へ生鮮食料品を供給しています。
 
 卸売市場法の改正では、全国チェーンの大型スーパーに代表される大手量販店などが一定の規格と価格の食品を大量にそろえやすいように、これまでの卸売市場のルールであった

(1)「せり取引の原則」が廃止されたり、
(2)委託集荷原則の廃止、
(3)卸売市場手数料の自由化、
(4)商流と物流の分離の促進、
(5)卸売業者の第三者販売・中卸業者の直荷引きの緩和

など、卸売市場の性格そのものを大きく変える変化が進みました。

(1)「せり取引の原則」の廃止
せりにかけることで需給バランスや品質に応じた価格が決まっていく原則が廃止された。背景には、大手量販店などがあらかじめ規格と価格を指定して大量に買い付ける相対取引が増加したことがある。

(2)委託集荷原則の廃止
市場でせりにかけるために、生産者は卸売業者に荷を「委託」するという原則が廃止された。せりにかけない買い付けが増えたためだが、これが中心になると市場側の求めるものしか集荷されなくなる心配がある。

(3)卸売市場手数料の自由化
品目ごとに全国一律に決まっていた手数料が自由化された。これによって卸売業者同士の競争が激化する。量販店などの買い手にとってはより安価でよりサービスのよい業者を選ぶ「自由」が増えるが、その分の負担は卸売業者や生産者の取り分の減少となる。

(4)商流と物流の分離の促進、
市場で取引されるモノは実際の物流も市場を通すのが原則だったが、電子商取引の場合には、商取引は市場で行うが、モノは直送してもよくなった。たとえば大手スーパーなどは大型産地や輸入業者から魚屋青果物を直接集荷しこれを「安く・早く・大量に」流通させることで全国の店舗網に一律の規格と価格の商品を並べられることになる。

(5)卸売業者の第三者販売・中卸業者の直荷引きの緩和

卸業者は仲卸業者にしか販売できず、仲卸業者がスーパーや商店、外食産業などの実儒者への販売を受け持つことで、多数の仲卸業者がそれぞれの得意分野を持って競争しながら品質と価格を保証する役目を担っていた。
これが産地との商品開発や契約取引の場合、卸売業者が実儒者に販売できるようになるとともに仲卸業者が直接産地から買い付けることもできるようになり、卸売・仲卸の垣根のない競争と淘汰、集中と寡占化が進むと考えられる。

                    (その2)へ続く

政権交代は何をもたらしたか?

2010年06月22日 01時28分10秒 | 時事スクラップブック(論評は短め)
スティーブン・R・リード/中央大学総合政策学部教授
専門分野 政治学


2009年8月の総選挙では、1955年から万年与党であった自民党は民主党に破れ、民主党は歴史的な政権交代を成し遂げた。自民党は1993年にも下野したが、負けたのが弱体連立政権であったため、簡単に政権を奪い返した。昨年の政権交代は、自民党と対等に争える民主党の勝利であったため、日本の二大政党制の完成を意味する、より本格的な政権交替であったといえる。

 しかし、「何も変わっていないではないか」と民主党政権に絶望している有権者も大多数いる。民主党政権は確かに期待はずれであるが、その期待の非現実性にも問題がある。むしろ民主党政権ではなく、政権交代の効果そのものに注目すれば、日本の政治は理論通りに変わりつつあることが分かる。今回の菅政権が成功しようが失敗しようが、日本の政治は変わり続ける。少なくとも三つの変化がそこから見えてくる。則ち、(1)透明度、(2)政官関係、(3)割れた組織票、がそれである。
透明度

 万年与党体制はもみ消し天国となる。野党は情報を入手しにくく、与党は自らの失政となる情報を公開しない。しかし、政権交代によって、新政権には前の政権の失政を公開する動機も権力も生まれてくる。

 典型的な事例は自民党が一貫して否定し続けた核密約であるが、もっとも大事な事例は、行政刷新会議による事業仕分けである。いろいろ批判されてはいるが、誰の目から見ても、無駄な事業を多く廃止したといえよう。何より、事業仕分けの情報は完全公開されている。民主党は、野党時代に官僚から情報を引き出すための苦労を忘れず、いつかまた野党になる覚悟で、情報公開をどんどん進めていくはずなので、もみ消しが困難な体制が自ずとできてくる。自民党が再び政権与党の座を手にする頃には、もみ消しはできなくなっているだろうし、むしろ自民党は、民主党政権の失政を公開したいと願うに違いない。
政官関係

 2009年総選挙中に、政権交代があれば、官僚の抵抗が大きな問題になると広く予測されたが、民主党政権が誕生してからは、官僚が民主党に責められている報道の方が多かった。実際のところ、政治家が官僚をコントロールするのは意外と簡単である。与党が官僚に対して一貫した指導をすれば、官僚は抵抗ができない。一貫した指導というのは、与党が一声で政策を進めることである。

 万年与党時代には、首相や大臣が変わるたびに政策が変わった。政権交代がなかったので、政策転換は首相交代や内閣改造によって引き起こされ、政権交代の代わりに機能していた。その結果の一つとして、官僚が抵抗すれば、政策実施しなければならない前に首相や大臣が変わり、政策を実施しなくても済む仕組みになっていた。万年与党時代の自民党は、政党本位よりも候補者本位という「自由な政党」であった。「自由」というのは、代議士は一人ひとり自分なりの政策を進めてもいいということであり、官僚に対しても多様な声を伝えられる、ということである。

 二大政党制になってからは、政党間の政策論争と政党本位のマニフェスト選挙が中心となる。民主党は長い野党時代にマニフェストについて議論し、党の政策を作った。民主党政権は以前よりも官僚に対して、強い発言力を持って政策を進められるようになっており、大臣とともに、副大臣二人と政務次官をチームに加え、各省庁に送り込んだ。さらに、そのチーム以外の代議士が官僚に直接接することを禁止している。チームも自分なりの政策ではなく、マニフェストの政策を進めることで、一貫した指導を官僚に伝えている。
組織票

 万年与党体制では、利益団体は、与党の政策に賛成していなくても、支持する必要があった。大事な政策論争は自民党内でなされるので、自民党を支持しなければ、政策決定過程の発言力がなかった。

 例えば、2001年参院選挙の特定郵便局長の政治連盟であった「大樹」は、当時の小泉総理の郵政民営化政策を猛烈に反対した。二大政党制では、自民党の政策を反対すれば、民主党を支持するはずだが、万年与党体制の意識で、大樹が逆に自民党内の発言力を強化するために、自民党の比例区公認候補者を支持した。大樹の団結と集票力を見せつけたら、発言力が強まると考えたが、結局、選挙違反で逮捕される結果になった。

 二大政党制では、選挙後の政権与党が支持政党とは限らないので、選挙中に一党だけを支持すれば、選挙結果によって、発言力がなくなる可能性がある。一党に的を絞って支持するよりも、どちらが勝っても、発言力を保てる選挙戦略を立てる方が得策となる。よって、二大政党制では、組織票は割れるものである。2009年総選挙中には、自民党が必ずしも勝てないかもしれないという認識が広がると、民主党に近づく団体が増えた。そして、政権交代後、その動きは加速している。
逆戻りがない

 この変化は、二大政党制と政権交代がもたらしたものであり、選挙制度を変えない限り、これから10~20年続くと思われる。次の政権交代で、自民党が政権に戻っても、もみ消し天国には戻せない。逆に、野党を経験したせいで、自民党は情報公開に賛同するはずである。民主党よりも、政治主導を実現する公約をかかげる可能性もある。そして、利益団体は一党支持に戻るわけがない。政権交代がもたらした変化には逆戻りがないのである。

スティーブン・R・リード/中央大学総合政策学部教授
専門分野 政治学
1947年4月4日、アメリカ、インディアナ州生まれ。ベトナム戦争当時に兵役の関係で来日し、九州で日本人と結婚。帰国後の1979年、ミシガン大学大学院政治学研究科博士課程修了。その後、アラバマ大学専任講師、ハーバード大学・アラバマ大学准教授、アラバマ大学教授を経て、1993年より、中央大学総合政策学部教授。著書に、『比較政治学』がある。