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森羅万象 ~ 歩く印象派

W杯日本代表は正々堂々と全敗せよ(1)/杉山茂樹(スポーツライター)

2010年06月12日 01時01分58秒 | 歩く印象派
Voice6 月11日(金) 17時56分配信 / 国内 - 政治

◇岡田サンは代表監督に不適格!◇

 いよいよ6月11日、W杯南アフリカ大会が始まる。にもかかわらず、日本国内はほとんど盛り上がっていないといっていい。

 原因は、日本が戦う一次リーグE組(オランダ、デンマーク、カメルーン)で、日本が決勝リーグに残る可能性が限りなく低いことだ。それなのに岡田武史監督が「目標はベスト4」といったものだから、日本全体が完全にシラけてしまっている。

 しかし、それだけではない。5月10日に発表された代表メンバーからは、「岡田監督、戦う気になっているな」という期待すらうかがえないのだ。

 サッカーには、じつはメンバー選びに公式や常識はない。野球などとは異なり、個人成績が極端に少ないため基準がないのだ。ではメンバーはどうやって選ばれるのか。前日本代表監督を務めたイビチャ・オシムにいわせれば、それは「自分(監督)の趣味」。選ばれた人も落選した人も、いってみれば運なのである。

 ゆえにサッカーにおいては、監督次第で戦術もメンバーも、それによって実力もすいぶんと変わる。弱いチームが強いチームに勝つのは、選手の実力より監督の実力である。世界で行なわれる無数の試合のなかには、「まさかここでこんな事が起きるとは」というものがあるが、その背景や舞台裏には、必ず名監督がいるものだ。しかし、1998年のW杯でも今回のアジア予選大会でも、岡田サンには何の戦術もみられない。

 去る4月7日、日本代表メンバー発表前の最終試合であるセルビア戦に0―3で完敗したあと、世論調査では岡田監督続投に反対が7割、あるネット調査では反対が9割にも上った。そのなかで、これまでと何の変化もない「予想どおり」のメンバー発表。要は、また戦術が何もないということだ。それは5月24日に行なわれた国内最後の強化試合、宿敵・韓国戦での敗北(0―2)でも露呈した。

 たしかに、岡田監督になってからの日本代表は24勝12分7敗と、成績自体は悪くはない。しかし、これらは相手がすべて二軍チームか格下ばかり。格下のチームが相手のときは、いかにボールを取られないか、ミスをしないで着実なプレーができるかが重要となる。だが、今回W杯で戦う3チームはみな格上である。強い相手との戦いでは、必然的に相手ボールの時間が長くなるため、いかに相手からボールを奪うかがより重要だ。となると、戦術は当然変わってくるはずなのだ。

 岡田サンは代表監督には不適格である。代表監督としてのメンバーの選び方や3年間の代表監督としての時間の過ごし方を知らない。前回のW杯、彼が代表監督をやったのはたった7カ月間で、それ以外はクラブチームの監督しかやったことがない。

 選手は生き物であり、ケガもあれば、コンディションも勢いも、時々刻々と移り変わる。日本代表には、そのときいちばん旬の選手を選ばなければいけないが、岡田サンはずっと同じメンバーで、どうもひと昔前、もしくは1、2年前に旬だった人を相変わらず起用している。結果、平均年齢も世界のなかでグッと上がり、若手選手もあまりいない。

 代表メンバーにサイドバック(両サイドに位置するDF)を3人しか選んでいないことに、なにより疑問を感じる。本気でベスト4を狙っている、つまり7試合を戦うつもりなら、最低でも4人は必要である。

 右サイドハーフである中村俊輔は持ち場を離れて真ん中にポジションを取ることも多いため、後ろで構えるサイドバックは体力的に厳しい。相手からみればそこが狙い目となる。MFである遠藤保仁や長谷部誠は、守備力が高いとはいえないので、サイドバックのカバーをやらせるべきではない。

 そのうえグループリーグの相手は、いずれも両サイドからの攻撃能力の高い選手がいる。カメルーンのエトー、オランダのロッベンやファンペルシ、デンマークのベントナーなどだ。彼らの攻撃を封じるためにも、サイドバックを厚くすることは必要である。

「サイドを制するものは試合を制する」

 これは現代サッカーの格言である。現代のサッカーでは、数的優位の状況をつくるためにも、ボール支配率を高めるためにも、プレスを効率的にかけるためにも、サイドバックの活躍は攻守に不可欠なのだ。サイドの重要性を忘れて本番に臨むと、酷い目に遭うこと間違いない。

◇日本のサッカーのスタンダードが上がらない理由◇

 日本代表のサッカーは、10年前に比べればたしかに強くなっているが、これは国内での話である。重要なのは世界のなかで日本のポジションが上がっているかどうかだ。

 しかし日本サッカーのスタンダードは決して高いとはいえない。原因の一つは、メディア(記者)にある。日本のメディアが世界を知らなさすぎて、日本人のサッカーを見る目が養われないのだ。

 いま日本では、サッカー中継を“オフチューブ”という方式で放送するのが一般的である。試合のある国から映像を伝送してもらい、それを日本のスタジオで画面を観ながら、インターネットなどから引っ張り出した資料によって実況・解説する。解説者やアナウンサーなどスタッフを現地に行かせないぶん、費用は安く済む。しかしこれでは、伝える側が本場のサッカーを知らないため、視聴者にも伝わるはずがない。

 また日本は、メディアが選手や監督を甘やかしすぎである。たとえば、選手は試合のあと、記者との交流の場「ミックスゾーン」を通ってバスに乗り込む。この場で選手が話をするのは当然のことで、外国では「あなた、ちょっと!」と選手をひっつかまえて厳しい質問を浴びせる。

 だが日本人のリポーターは、強引にやると、選手から嫌われるとか、インタビューしてもらえないとか、雑誌の表紙に出てもらえなくなるといった意識がある。概して「お疲れのところ、ありがとうございます」などと、監督や選手をヨイショするだけである。

 さらに、日本は世界のサッカーを観る環境がよくない。全世界の試合を観るには、スカイパーフェクTV(スカパー)などの有料放送に加入しなければならない。しかしスカパー加入者は250万人程度しかおらず、そのなかでサッカーの生中継の試合を観ている人は20人に1人いるかどうかだろう。熱烈なサッカーファン以外は、わざわざスカパーに加入してまで観ないし、若い人はそもそもスカパーに入るお金すらない。海外のサッカー中継を安価で放送している中国や香港、ベトナムのほうが、世界のサッカーに触れやすく、急速にサッカーのスタンダードが上がっている。

 だから日本では、世界のサッカーに詳しい者とそうでない者の二極化がますます進んでいる。いい例として、たとえば今回、日本代表の第3GKに川口能活が選ばれたが、NHKや民放テレビしか観ない、ふだんサッカーにあまり接しない視聴者は「この人知ってる。あの川口がまた入ったんだ。がんばって」と歓迎の反応となる。しかしサッカーに詳しい者にとっては、99%試合に出ない第3GKとはいえ、川口は長らく代表から外れていた選手であり、現在故障中の身で、 Jリーグにも出場していない選手。代表選出に疑問をもったにちがいない。

 サッカーを見る目を育てなければ、選手や監督に対しても、厳しい声を届けることができない。結果、日本全体のサッカーのスタンダードは上がらない。