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国の関与3件、疑い5件=原発シンポ「やらせ」―第三者委

2011年08月31日 06時10分52秒 | 時事スクラップブック(論評は短め)

時事通信 8月30日(火)20時53分配信

 原発関連シンポジウムの「やらせ」問題で、経済産業省が設置した第三者調査委員会は30日、中間報告を発表した。報告は九州電力玄海原発、四国電力伊方 原発、中部電力浜岡原発のプルサーマル計画をめぐるシンポ3件で、経産省の原子力安全・保安院がやらせに関与したと認定。ほかに、国が関与した疑いのある 説明会が5件あることも指摘した。第三者委は9月末をめどに最終報告をまとめる予定だ。
 関与が認定された3件は、2005年10月2日に佐賀県玄海町、06年6月4日に愛媛県伊方町、07年8月26日に静岡県御前崎市で、経産省が主催し た。各電力の担当者がそれぞれ開催前に打ち合わせで保安院の原子力安全広報課を訪ねた際、当時の課長らが参加者動員や賛成意見の表明などを依頼したとい う。
 一方、国の関与の疑いが指摘された5件は、3件が保安院、2件が経産省の資源エネルギー庁。同庁の2件は、10年5月18日に鹿児島県で開かれた九電川 内原発3号機の増設に関する第1次公開ヒアリングと、今年6月26日の九電玄海原発2、3号機の再稼働問題をめぐる佐賀県での住民向け説明番組という。 

最終更新:8月30日(火)20時53分

時事通信


原発やらせ問題:東北電でも動員の疑い…第三者委中間報告

2011年08月31日 00時04分30秒 | 時事スクラップブック(論評は短め)

 経済産業省原子力安全・保安院による国主催原発シンポジウムへの動員など「やらせ」問題で、事実関係を調べる第三者委員会は30日、中間報告をま とめ、東北電力のシンポジウムでも新たに保安院の関与が疑われる事案があったと指摘した。また、九州、四国、中部の3電力が、それぞれ開催したシンポジウ ムで、当時の保安院職員が電力会社に動員要請などをしたと認めたケースについて、報告書は事実認定した。

 調査対象は、過去5年間に開催された国主催のシンポジウムや住民説明会を中心とした計41件。調査は、▽開催当時、実施に関与した資源エネルギー 庁や保安院の職員、電力会社社員など延べ約70人へのヒアリング▽関連文書や電子媒体の精査▽電力会社への追加調査▽経産省職員へのアンケート--などの 方法で実施した。

 中間報告で新たに発覚した東北電のケースは、06年10月28、29日に宮城県石巻市と女川町で開かれた女川原発の耐震安全性を巡る住民説明会 で、保安院職員が東北電に動員を要請した疑い。また、九電をめぐっては、昨年5月の川内原発3号機増設計画に関する第1次公開ヒアリングや今年6月の玄海 原発の運転再開に向けた県民向け説明番組で、エネ庁が再開に向けた意思表明などを要請したと報道されたが、報告書はこれらを追認した。

 一方、九電など3電力で「やらせ」を事実認定した3ケースについては、特に詳細を報告した。九電については、05年10月の玄海原発3号機のプル サーマル計画のシンポで、九電担当者が、当時の原子力安全広報課長と事前に打ち合わせ「動員、さくら質問等、“とり注(取り扱い注意)”でお願いする」と 記載したメモを作成したと指摘。四国電力については、06年6月の伊方原発のシンポで、担当者が同課長との打ち合わせ後「シンポのキーは、動員を確保する こと、賛成派がうまく発言すること、反対派の怒号をどう抑えるか」とのメモを作成していた。さらに07年8月の中部電浜岡原発のシンポでは、同課職員が、 反対派に偏らないよう中部電側で質問文を作成して参加者に質問を依頼するよう要請したという。

 委員長の大泉隆史弁護士は、この保安院の関与を認定した、この3件について「問題がある」と強調。国が関与した「疑い」のある事案や、その他のシ ンポなどと合わせて調査を継続する姿勢を示した。いずれの事案も電力会社からの報告で判明。経産省職員へのヒアリングやアンケートで具体的な情報提供がな いことから、省内の組織的な隠蔽の可能性がないか、さらに慎重な調査が求められそうだ。同委員会は再発防止策も協議し、9月末をメドに最終報告を行う。 【和田憲二、小倉祥徳】

毎日新聞 2011年8月30日 21時22分(最終更新 8月30日 23時49分)


放射性物質:ストロンチウム検出 福島県沖合のマダラから

2011年08月31日 00時01分01秒 | 時事スクラップブック(論評は短め)

 水産庁は30日、福島県沖合で4月21日に採取したマダラから放射性ストロンチウム90が1キロ当たり0.03ベクレル検出したと発表した。水産 庁の調査で、福島第1原発事故以後、水産物からストロンチウムが検出されたのは初めてだが「微量で、原発事故の影響かは不明」という。

 ストロンチウム90は半減期が30年近くで、体内に入ると骨に取り込まれやすく、骨のがんや白血病の原因になる恐れがあるとされる。海水からストロンチウムが検出されたことを受けて、水産庁が水産総合研究センターに調査を依頼していた。

 ストロンチウム自体の基準値は設定されていないが、セシウムの基準値(500ベクレル)を下回れば、食べても問題ないとされている。福島県ではカツオを除いて海洋での漁業を自粛している。

毎日新聞 2011年8月30日 23時32分


■原発より危ない、動かしている連中

2011年08月30日 21時16分56秒 | 読んだ本・おすすめ本・映画・TV評

表紙画像 著者:飯田哲也、佐藤栄佐久、河野太郎  出版社:NHK出版 価格:¥ 1,050

■原発より危ない、動かしている連中

 猛暑が続く。今年の夏は電力不足で大パニックになるだろ うとか、熱中症で死人がたくさん出るだろうといわれたけれども、とりあえず本稿執筆時点(8月15日)では、大きな問題はない。原発を止めると産業が止ま る、日本経済はダメになるぞ、といった脅迫も眉につばして聞くようにしたい。
 原発なんて、なければないで済むもの。そして、誰も近くに住みたい とは思わないもの。それなのに人口減少と財政難に苦しむ地方を、札束で頬を張るようにして受け容れさせてきた。その挙げ句の果ての3・11なのに、九州電 力&佐賀県知事による「やらせ」事件のようなことが起きる。原発利権って、よほどオイシイものなのだろう。
 飯田哲也・佐藤栄佐久・河野太郎の『「原子力ムラ」を超えて』は、日本の原子力政策・原子力行政が、いかに歪んだ構造にあるのかを明かす。副題は「ポスト福島のエネルギー政策」。
  飯田哲也は大学と大学院で核工学を専攻し、大手鉄鋼メーカーで原発にかかわった。現在は環境エネルギー政策研究所所長。佐藤栄佐久は前福島県知事。原発問 題で政府と対立したため、でっち上げの汚職事件で逮捕された(と私は考えている)。そして河野太郎は自民党代議士。佐藤も河野も、自民党政治のなんたるか を肌身で知っている人である。
 実際に原発を動かしているのは、電力会社と原発のハードを作る電機メーカーである。そこでは作って動かすことが最 優先される。専門知識のない役人や政治家は追認するだけ。学者たちもそこにからめとられている。安全性その他をチェックする機関もない。原発は危ないもの だけど、原発を動かしている連中はもっと危ない。
 かつて石炭から石油へのエネルギー転換では、たくさんの人がひどい目にあった。石油から原子力へでは、後世にまで影響を及ぼすひどい事故を起こした。大事なことを政治家や役人や学者や企業にまかせるのはもうよそう。

 

朝日COM 20110830


セシウム汚染土壌マップ発表 文科省、原発百キロ圏内

2011年08月29日 23時59分33秒 | 時事スクラップブック(論評は短め)
2011年8月29日22時6分朝日COM

 東京電力福島第一原発から半径100キロ圏内の土壌の汚染度を調べた初の地図を、文部科学省が29日公表した。全国の大学や専門機関が約2200カ所の土を採取し、事故から3カ月後の放射性セシウムの濃度を調べた。除染や避難区域の見直しなどの基礎資料とする。

 文科省の調査には延べ129機関、780人が協力した。80キロ圏内は2キロ四方、80~100キロ圏内は10キロ四方に1カ所の割合で、それぞれ5地点で深さ5センチの土を採取。6月14日時点の、半減期が2年のセシウム134と、30年の137の値を出した。

 汚染度が高い地域は、原発から北西方向の半径40キロ圏内に集中していた。最も高い大熊町の1地点では、セシウムの合計値は1平方メートルあたり約3千万ベクレルに上った。


池上彰氏が日経報道姿勢に「苦言」 「日立・三菱重工統合」続報なぜ出ない

2011年08月29日 22時04分03秒 | 時事スクラップブック(論評は短め)

2011年8月29日 19時27分

  日本経済新聞が2011年8月4日に報じた「日立・三菱重工 統合へ」のニュースは、両社が日本を代表する大手企業だけに大きな衝撃を与えた。その後どうなったのか。日経の報道姿勢に池上彰氏が苦言を呈し、それが話題になっている。

   8月26日付の朝日新聞15面で、池上氏は「事情が変わったなら説明を」とのコラムを掲載した。

世紀のスクープのはずが全面否定される

   8 月4日付の日経1面は、「日立製作所と三菱重工業が経営統合へ向け協議を始めることで基本合意した」としていた。「2013年春に新会社を設立、両社の主 力である社会インフラ事業を統合する」とし、原子力などの発電プラントから鉄道システムや産業機械、ITまでを網羅する世界最大規模の総合インフラ企業が 誕生する、と報じた。

   しかも、「4日午後に発表する」とまで伝えており、おそらく多くの人が日経による「世紀の大スクープ」と思ったはずだ。

   ところが、三菱重工は「本日の一部報道について」とし、「当社の発表に基づくものではありません。また、報道された統合について、当社が決定した事実もありませんし、合意する予定もありません」と全面否定。日経に対して、「断固抗議する」とした。

   日立も「合意した事実がない」ことを明らかにし、結局、4日の正式発表は行われることなく、同日の日経夕刊も「将来の経営統合を視野」、翌5日は解説記事を掲載するだけと、時間が経つにつれて報道は一気にしぼんだ。

「十分な取材をしたうえで適切に報じています」と日経

   企 業の経営統合の報道をめぐっては、過去に第1報が報じられてから破談になったケースもある。池上氏のコラムでも、冒頭に1969年元旦に三菱銀行と第一銀 行が合併すると読売新聞が報じ、その報道が原因となって第一銀行内部から反対運動が起き、合併が中止になった事例を紹介している。

   池上氏は、「両社が出資して新会社を設立する過程で、一挙に両社の経営統合まで進めたかった日立と、そこまでするつもりはなかった三菱。日経新聞に『経営統合へ』とかかれたことから三菱が反発。動きが止まった、というのが実情なのでしょうか」と推察。

そして、「もしそうなら、最初に報じた日経新聞としてもその後の経過をきちんと報じて解説する必要があるのではないでしょうか」と投げかけている。

   池上氏の指摘に、ネットの掲示板では、

「『飛ばしの日経』は経済や株に多少の興味がある奴等なら基本常識だろう」
「説明しない自由ってか」

といった書き込みがみられる。

   一方、日経はどのように受けとめているのだろうか、聞いてみた。

   「お問い合わせの記事を含め、十分な裏づけ取材をしたうえで、日々の編集を通じて適切に報じています」(広報グループ)とコメントしている。


泊原発プルサーマル計画、一時凍結 やらせメールで北電

2011年08月29日 21時41分04秒 | 時事スクラップブック(論評は短め)

2011年8月29日20時34分朝日COM

 北海道電力泊原発(北海道泊村)3号機をめぐる「やらせメール」問題を受け、北電は29日、3号機で導入を目指しているプルサーマル計画を一時凍結する 方針を明らかにした。近く有識者らによる「やらせ」問題の調査委員会を設置。9月末までに組織的関与の有無などを調べる方針で、少なくとも結果が出るまで プルサーマル用燃料を加工しないという。

 北電は、通常の原子炉でウランとプルトニウムの混合酸化物燃料を燃やすプルサーマル計画を2012年春に導入する方針で、近くフランスの工場で燃料の加工を始める予定だった。

 ただ、2008年10月に開催された計画導入の是非を問う北海道など主催のシンポジウムをめぐり、北電の現地事務所が社員に出席と賛成意見を述べるよう促すメールを送っていたことが判明した。


生産終了寸前スバル「サンバー」人気高まる 限定車いずれも完売、注文も増える

2011年08月29日 18時15分09秒 | 時事スクラップブック(論評は短め)

J-CASTニュース 8月29日(月)10時52分配信

 半年後に生産を終える富士重工業(スバル)の軽商用車「サンバー」の人気がにわかに高まっている。2011年に2回発売した青いWRC(世界ラリー選手 権)カラーの限定車はいずれも完売。また、専用車として指定されている運送業の「赤帽サンバー」は、全国のオーナードライバーから注文が増えている。

 スバルは軽自動車の自社生産から順次撤退しており、サンバーは最後に残った車種。2012年2月の生産終了が近づくにつれ、惜しむ声が高まりそうだ。

■軽はダイハツから供給を受けることを決める

 富士重は4月にステラの生産を終えた。これにより、同社の軽乗用車はすべてダイハツ工業からのOEM(相手先ブランドによる生産)調達に切り替わったこ とになる。現行のステラはムーヴ、プレオはミラ、ルクラはタントエグゼのバッジを変えたモデルだ。サンバーも2012年2月以降はダイハツからハイゼット の供給を受けて販売を継続する予定になっている。

 富士重が軽の自社開発・生産から撤退すると発表したのは2008年4月。水平対向エンジンや4WDシステムを積む小型車、中型車に経営資源を集中するた めに決断した苦渋の選択だった。世界シェア1%の小メーカーが生き残るためには、二兎は追えないと判断。国内ローカル商品の軽はダイハツから供給を受ける ことにした。

 こうして消えることになった自社生産のサンバーだが、その成り立ちはユニークでファンが多い。まず、駆動方式はポルシェ911と同じRR(リアエンジ ン・リアドライブ)。エンジンは軽では数少なくなった4気筒(ほかにはダイハツ・コペンのみ)。足回りはこれも軽では珍しい四輪独立懸架だ。また、車体は モノコックではなくフレーム構造。前輪のホイールアーチの張り出しは乗員のシート横にあり、足元が広いフルキャブタイプとなっている。

■一般のスバルファンも「最後のスバル製軽」と注目

 サンバーは富士重がスバル360で自動車事業に参入した1958年から3年後の1961年に発売された。モデルチェンジを重ねながらも、RRの駆動方式 やフレーム構造、四輪独立懸架は受け継がれている。基本構造が変わらないだけに古さやオーバースペックも目立つが、トラック、バンとも耐久性や使い勝手は 評価が高い。エンジンに専用部品が組み込まれる赤帽サンバーは、オーバーホールなしに30万キロ走った例もあるという。

 スバル製サンバーが2012年2月に生産終了になると聞いて、赤帽のオーナードライバーの間では、いま使っているサンバーの耐用期間がまだ先にも関わら ず新車を発注する動きが広がっている。また、一般のスバルファンも「最後のスバル製軽自動車」として注目し始めた。2012年3月からはトヨタ自動車と共 同開発中のスポーツカーを生産開始するため、サンバーの生産終了時期は動かせない。スバルの軽生産は繁忙のうちに54年の幕を閉じることになりそうだ。


「本当の原発発電原価」を公表しない経産省・電力業界の「詐術」

2011年08月28日 23時52分38秒 | 時事スクラップブック(論評は短め)

(このページの記事は新潮社から提供を受けたものです)

塩谷喜雄 Shioya Yoshio
科学ジャーナリスト
Foresightコンテンツ 爆発後の福島第1原発3号機原子炉建屋[東京電力提供]=2011年3月21日【時事通信社】

この国では、「安定した復興」とは元の黙阿弥 のことを指すらしい。政治家たちの錯乱ぶりに隠れて、原発と電力の地域独占は何の検証も経ずに、今まで通りそっくり継続される気配が濃厚である。福島の事 故が打ち砕いた原発安全神話に代わって、経済産業省と電力会社が流布するのはもっぱら原発「安価」神話だ。

 火力や水力に比べ原発の発電原価が断然安いという、架空の、妄想に近い数字が幅を利かせている。評 価も監視も放棄した新聞・テレビは、今度も懲りずに虚構の安価神話をただ丸呑みして、確かな事実であるかのように伝え、社会を欺き続けている。日本経済が 沈没するとすれば、その原因は原発停止による電力不足や料金高騰などではなく、行政と業界が一体となった利権と強欲体質の温存が主因であろう。

国民への「二重の恫喝」

Foresightコンテンツ 「やらせメール」事件で、事実上、再稼働が白紙に戻った九州電力玄海原子力発電所=2011年5月24日、佐賀県東松浦郡玄海町【時事通信社】

 6月13日、経産省所管の日本エネルギー経済研究所が、停止中の国内原発がこのまま再稼働せず、稼 働中の19基も順次停止した場合、その分を火力で賄うと、2012年度は1家庭当たりの電力料金が毎月1049円増えるという試算を発表した。電力需要が ピークを迎える夏を前に、停止中の原発の再稼働が議論になり始めたタイミングで、あまりにもあからさまな再稼働応援歌であった。

 政策選択において、自分たちに都合のいい試算や見通しを、傘下の研究機関に出させるのは、経産省のいつもの手口である。今回は、単なる世論誘導にとどまらず、原発を止めたら電気料金は上がり、一方で停電の危機も増大するという、2重の恫喝を含んでいた。

 この発表を普通に受け止めれば、発電原価が安い原発が止まって、原価が高い火力で代替すれば、発電コストが上がって料金も上がるのは仕方ないと、納得してしまう。

 しかし、電力会社もそれを監督する経産省も、発電所ごとの発電原価を一切公表していない。何度も情 報開示を要求されているが、「企業秘密」だとして、かたくなに公開を拒んでいる。どこの原発がどれくらいのコストで発電しているかが分からないのに、それ を火力で代替するといくら原価が上がるのかをはじき出せる道理がない。

 だから、試算をいくら読んでも、なぜ標準家庭1世帯当たり月1049円上がるのか、論理的根拠が見 つからない。書いてあるのは、原発の分を火力で賄うと、燃料費が新たに3.5兆円かかるので、その分を料金に上乗せすると、1kWh当たり3.7円、1世 帯で月1049円増になるという計算である。

 火力の燃料費増加分をそっくり料金に上乗せするというのは、全く論理性を欠いている。もしそれが正 当なコストの反映なのだとしたら、原発というのはいくら動かしても一銭もかからない存在で、コストはゼロだということになってしまう。コストゼロというの は大抵の場合は「大ウソ」である。

「モデル試算」という空想の発電コスト

Foresightコンテンツ 浜岡原発の停止を受け、停止中の2号機を再稼働させる中部電力・武豊火力発電所(手前)。燃料は重油。海を挟んだ奥には石炭を燃料とする碧南火力発電所が見える=2011年5月14日、愛知県武豊町【時事通信社】

 本来は、原発稼働時の発電原価と、それを火力で代替した場合の発電原価を比較しなければならないはずなのに、原発の発電原価を隠してごまかすために、追加燃料費の全額上乗せなどという目くらましの虚構を組み立てねばならなかったのだろう。

 こんなご都合主義の数字をご大層に押し戴いて、原発が再稼働しなければ日本は沈むなどと、国民や地 元に誤った判断を迫った新聞・テレビの罪は重い。もしまっとうな批判能力があるなら、この試算が実は「原発は止められる」ということを、原子力利権ムラ自 身が証明したものであることに、気づいたはずだ。燃料費だけを追加すれば、日本の全原発の発電量を、火力で十分に代替できることを、経産省が認めたのであ る。

 経産省と電力業界は、「本当の発電原価」は公開していないが、原発安価神話の源になった、ご都合主 義の数字ならちゃんと出している。半可通のエコノミストなどがよく例に引く「モデル試算による各電源の発電コスト比較」というのが、2003年に電気事業 連合会(電事連)から発表されている。

 これはモデルプラントという架空の原発が理想的に運転されたときの、空想の発電コストを示した「夢 と幻」の産物である。現実の原発のコストを何も反映していないし、何も示していない。実体とは無関係だから、見せかけの原発のコストが下がるように、好き 勝手な、恣意的な設定で計算している。法定耐用年数が16年の原発も、15年の火力発電所も、40年間無傷のまま動かしたとして、コストを想像してしまっ た。

 その豊かな想像力の産物が「1kWh当たり原子力5.3円、石炭火力5.7円、LNG火力6.2円、石油火力10.7円、水力11.9円」という数字になって、霞が関や大手町を大手を振って独り歩きしている。

電力会社自身の見積もりと激しく乖離

Foresightコンテンツ 使用済み核燃料から取り出したプルトニウムを利用するプルサーマル発電を国内で初めて実施した九州電力玄海原子力発電所3号機の原子炉容器へウラン・プル トニウム混合酸化物(MOX)燃料を装てんする作業の様子[代表撮影]=2009年10月16日、東松浦郡玄海町【時事通信社】

 この数字がいかに現実と乖離しているかは、電力会社自身が原発の設置許可申請の時に、経産省の電源 開発調整審議会(現・電源開発分科会)に提出した資料を見ればよくわかる。それによると、日本の主要な原発の1kWh当たりの発電原価見積もりは、「泊1 号機17.9円、女川1号機16.98円、柏崎刈羽5号機19.71円、浜岡3号機18.7円、大飯3号機14.22円、玄海3号機14.7円」となって いる。5.3円なんて原発はどこにも存在しない。

 比較的原価見積もりが高い原発を列挙したが、1kWh当たりのコストが10円を切っている原発が2つだけある。大飯4号機の8.91円と、玄海2号機の6.86円である。それを考慮しても、どこをどうやったら、日本の原発の発電原価が5.3円などと言えるのか。

 きっと原子力利権ムラの提灯持ちたちは、こう言うに違いない。「電調審への申請数字は、初年度の原価見込みか、16年の法定耐用年数運転を前提にしたもので、40年耐用のモデル試算は別物で、比較しても意味はない」と。

 それでは、現実の原発コストとは何の関係もないモデル試算を、何のためにはじき出したのか。その理 由を経産省と電事連には聞きたい。原発は安いという架空のイメージを植え付けるだけでなく、本当は原発が他の電力に比べて圧倒的に高い「孤高」の電源であ ることを、ひた隠すためのプロパガンダではなかったのかと。

 2003年のモデル試算には、核燃料サイクルのコストは全く反映されていない。その後、さすがにま ずいと思ったのか、経産省も核燃料サイクルやバックエンド(放射性廃棄物の処理・処分)の費用を、少しは組み入れた。しかし、高速増殖炉の開発・運転費用 や、再処理を委託した英仏からの返還廃棄物の関連費用などは除外し、廃炉費用も極端に安く見積もっている。

じつは断トツで高い原子力の発電コスト

Foresightコンテンツ 四国電力伊方原子力発電所。左の円筒が1号機、中央のドーム型が2号機、右奥の大きいドーム型が3号機。定期点検中の3号機を2011年7月に再稼働する 予定だったが、菅直人首相の指示でストレステスト(安全検査)を実施することになったため、断念した=2006年7月11日、愛媛県伊方町【時事通信社】

 モデル計算ではなく、公開されている電力会社の有価証券報告書から、これまでの原発の発電実績と費 用をもとに、原発の発電原価を計算したのが、大島堅一・立命館大学教授である。現在の発電原価に1番近いと思われるその数字は、原子力8.64円、火力 9.8円、水力7.08円で、原発は決して安くない。

 需要の変動に合わせた柔軟な負荷変動運転が苦手な原発は、需要の少ない夜間も目いっぱい発電する。 それを昼に持ち越すために、夜間電力を使って水を下から上にくみ上げ、それを昼に落下させて電気を起こす「揚水発電」をしている。これはいわば原発専用の サブシステムだから、1kWh当たり40円とも50円ともいわれるそのバカ高いコストを原発の発電原価に組み入れ、さらに電源立地の名目で地元懐柔策に投 入されている膨大な税金も反映させると、発電コストは原子力12.23円、火力9.9円、水力7.26円になり、原子力が断トツで高い電源となる。

 経産省や電事連の「試算」という名の発表が、大本営発表よりたちが悪いのは、経済成長の担い手とし ての、メディアからの盲目的な信頼を利用して、真っ赤なウソではなく、それらしい信頼性の意匠を凝らしていることだ。まさか、幹部のほとんどが東大卒の役 所と会社が、詐術に等しい数字をもてあそぶはずはないと思ってしまう。モデル試算を現実と取り違えるのは受け手の方が悪いという、巧妙な逃げも用意されて いる。

環境問題でも示された経産省のあざとい試算

Foresightコンテンツ 経済産業省が地元CATVとインターネットで2011年6月26日に放送した佐賀県玄海町の九州電力玄海原子力発電所の緊急安全対策などについての説明番 組。九州電力本社社員が3事業所と子会社の社員に再稼働を支持するメールを説明会宛てに投稿するよう求めていた[ユーストリームより]【時事通信社】

 その典型的な事例が地球環境問題でもあった。2009年8月5日、経産省の総合資源エネルギー調査会需給部会に、経産省から1つの試算が示された。お得意の試算である。経産省の試算インフレなどともいわれている。

 中身は地球温暖化防止の基本計画によるCO2など温室効果ガスの排出抑制策と、家計の可処分所得や 光熱費負担の関係を、はじき出したという触れ込みだった。当時の自公政権の掲げた排出抑制目標は、2020年までに2005年比で、15%削減というもの だった。それに対し、民主党は1990年比で25%の削減を主張していた。

 試算は両者が家計にどれくらい影響を与えるかを計算している。間もなく解散総選挙という時に、政権を争う与野党の環境政策の優劣を、一役所が比較してみせるという、かなりあざとい技だった。

 この試算をマスメディアのほとんどはこう報じた。「15%削減なら可処分所得は年に4万4000円 減り、光熱費が3万3000円増える。25%削減だと可処分所得は年に22万円減、光熱費は14万円増える」。記事を読んだりニュースを聞いたりした人 は、25%なんて削減すれば、これから毎年36万円も負担が増えると受け取ったに違いない。自公政権への露骨な応援歌である。

 事実、「家計を傷めて何が温暖化対策だ」という反応があちこちで聞かれた。この試算、今年6月の原 発停止と家計負担の試算と同じで、奇妙奇天烈な想定でつくられている。2009年から2020年まで毎年1%以上の経済成長が続くと、20年には現在より 家計の可処分所得は90万円以上増える。排出削減策を講じると、25%削減でも可処分所得は70万円ほど増えるが、何も策を講じなかったときに比べれば増 加分が22万円少ないという話である。12年後に予想される可処分所得の増加分が、少々目減りするという程度の話で、無意味といってもいい。

 そんな数字を有難がって、排出削減を嫌う経産省や経団連の目論見通り、来年から毎年、家計の所得が 22万円ずつ減っていくと触れまわったマスメディアの罪は重い。今年6月の試算と共通するのは、無理して虚偽を積み重ねているので、発表した経産省が自分 の首を絞めている部分があることだ。25%減という大胆な排出削減を行なっても、経済は成長し、可処分所得は増えると、アンチ温暖化の経産省が認めている のだ。

大臣は使いっ走りか

Foresightコンテンツ 参院予算委員会で野党から原発再稼働問題への対応を問われ、険しい表情を見せる海江田万里経済産業相。右下はなぜか涼しい表情の菅直人首相=2011年7月7日、東京・国会内【時事通信社】

 当時の経産次官であり、エネルギー官僚として地域独占の過ちを糊塗し続けてきた望月晴文氏が今、内 閣官房参与として官邸にいる。本当に日本のエネルギーとして原子力が不可欠なら、安全性や経済性で虚構や欺瞞を重ねるのではなく、正直に発電原価も、隠さ れた費用も明らかにして、国民に問うべきだろう。

 電力料金は「総括原価方式」で決まる。電力会社が社員の給与まで含めてかかった費用全部(原価) と、それに一定(現在は約3%)の報酬(利益)を上乗せして、電力料金収入とするのだから、絶対もうかる左うちわの地域独占である。現在時点での原価を、 できうる限り明らかにするのは、電気事業者と監督官庁の契約者に対する義務だろう。

 E=mc2という質量とエネルギーの関係を示したアインシュタインの方程式は美しく、文明をエネル ギーのくびきから解放する可能性を秘めている。実はその技術的な可能性を奪っているのが、嘘や騙しや脅しで、人をたばかろうとする利権集団ではないか。血 税も含めて巨費を投じた原発には、必要な安全策をしっかり施し、ちゃんと働いてもらうべきだと思う。老朽原発は廃炉にして、原発最優先の歪んだエネルギー 政策から、徐々にフェードアウトを目指すべきだろう。それに関するシナリオは既にいくつも提案されており、経産省の原発固執路線よりはずっと現実的なもの がある。

 それにしても、九州電力の佐賀県・玄海原発の再稼働で、海江田万里経産相は、国が安全を保証すると 言ったそうだが、どうやって保証するのか。国が原子力の安全を保証するのは、行政庁の審査と原子力安全委員会の審査の「ダブルチェック」を受けた場合であ る。安全委が安全指針の見直しをすると言っている時期に、行政が指示した安全策も途中でしかない玄海原発の安全を、国が保証できるわけがない。それが日本 の法制度なのだ。海江田さん、東電本社に日参しているうちに、すっかりムラの住人になってしまったようだ。大臣が役所や企業の使いっ走りをするのは、あま り見たくない


中国鉄道事故より悪質な日本の事故隠蔽

2011年08月28日 23時45分21秒 | 時事スクラップブック(論評は短め)
  • (このページの記事は新潮社から提供を受けたものです)

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科学ジャーナリスト
塩谷喜雄 Shioya Yoshio
Foresightコンテンツ 東京電力が撮影した被災4日後の福島第1原子力発電所3号機と4号機。3号機(左手前)は水素爆発で原子炉建屋が吹き飛び、4号機(中央奥)は建屋の壁に 大きな穴が開いている。3号機と4号機の間からは白い煙が立ち上っている=2011年3月15日午前7時33分[東京電力提供]【時事通信社】

中国高速鉄道の事故で、中国当局による報道規 制を口をきわめて非難する日本のマスメディアは、おのが姿を鏡に映して見たことがあるのだろうか。5カ月前に、日本で起こった原発事故——未だ8万人以上 に避難生活という理不尽な不幸を強い、農畜産業と水産業に深刻なダメージを与えている空前の大事故、3.11。その真実を、日本のメディアはどれほど伝え ているのか。

 法的責任を負うべき当事者、つまり検察がまっとうに機能すれば当然起訴の対象となるべき組織と人間 が、恣意的に加工して発信する情報を、無批判に世の中に広めているだけではないのか。結果として、責任企業と責任官庁による証拠隠滅を黙認してはいない か。事故車両を地中に埋めた中国と、本質においてどこが違うのか。公然と物的証拠を埋没させた中国当局に比べ、断片情報を意図的に連発して、巧妙に国民を 真実から遠ざけている日本の方が、事態は深刻ではないか。

1万ミリシーベルト超の高線量区域はなぜ突然出現したのか

Foresightコンテンツ 福島第1原子力発電所の1・2号機主排気筒根元付近を、放射線の強弱が分かる「ガンマカメラ」で撮影した画像。中央の赤い部分で過去最高の毎時10シーベ ルト以上の線量が測定された。右上の赤い部分は未調査=2011年7月31日午後4時ごろ[東京電力提供]【時事通信社】

 恣意的な断片情報による世論操作の典型例が、原発排気筒の底部で毎時1万ミリシーベルト以上という極めて高い線量が観測されたとする、8月1日の東京電力の発表である。

 福島第一原発の1号機と2号機の排気筒底部で、1万ミリシーベルトまでしか測れない線量計が振りき れたという。また4日には、そこにつながる配管付近でも毎時3600ミリシーベルトが観測されたと発表した。メディアはこぞって「原発サイト内で最強の放 射線」と大きく報じた。

 何の疑問も持たずにこの数字を垂れ流した時点で、報道機関としては失格である。無能といってもい い。広報機関に徹していて、報道なんかとっくに放棄しているというのであれば別だが、いささかの自負が残っているなら、数字の意味と発表の意図を問いただ し、ニュースとしての価値を評価せねばならないはずだ。

 東電は3月12日のベントの際に付着したとするが、事故から5カ月もたってから、1時間浴びたら死 に至るような高線量区域が突然「出現」したのはなぜか。本当に8月1日に新たに見つかったのか。同じ区域の7月1日の線量はどうだったのか、6月1日、5 月1日、4月1日には、それぞれどうだったのか。そこを確認せずに「高線量区域見つかる」と報じたとしたら、お粗末というほかない。

ステップ1完了でも意味はない「お手盛り工程表」

Foresightコンテンツ 記者会見する東京電力の西沢俊夫社長(左端)。前列右から2人目は細野豪志原発事故担当相=2011年7月19日、東京・内幸町の東電本社【時事通信社】

 もし、最近急に高線量区域が出現したのだとすると、その線源となる強力で高濃度の放射性物質が、最 近になって急に、または少しずつ排気筒の底部に移動したことになる。いずれにしろ、とてつもない高線量区域が新たにできたということは、福島第一原発のサ イト内では、大量の高濃度放射性物質が未だにあちこち動きまわっていることを示している。事故は収束も安定もしていないし、その方向にも向かっていない。

 「工程表」のステップ1が完了したとする東電と経済産業省の7月19日の発表も、結果としては何の 意味もなかったことになる。お手盛りの工程表に書かれている課題をいくらクリアしても、事故の本質的なリスク、大量の放射性物質が遮蔽も制御もできないま まむき出しで存在している事態は、ほとんど改善されていないということを、高線量区域の出現が物語っている。

 もし、高線量区域は以前から存在していたというなら、何故これまで秘匿していたのか、何故今になっ て発表したのか、その真意を問うのがメディアの役目だ。どこにどれだけの放射性物質があるのかは、事故収束に不可欠の基本要件だ。高線量はいつ出現して、 どれくらいの線量がどれほどの期間継続して放出されているのか。東電と経産省は常時監視・把握する義務を負っている。これまで隠していて、今頃になって公 表したとすれば、その狙いを見極める必要がある。

 事故調査・検証委員会などの調べで、高線量区域がサイトのあちこちに存在することがばれそうになっ たからあわてて発表した、という推測も成り立つ。ステップ2に入ったといっても、循環冷却システムは故障の連続で、事故の収束が長引くことの言い訳とし て、作業員が近づけない高線量区域の存在をアピールしたかった、などという理由もあるかもしれない。

 どちらにしろ、このタイミングでの発表自体が相当に怪しいことは確かだ。それを怪しみもせず、情報を独占している東電と経産省の思いのままに、検証抜きで発表をなぞっているメディアは、多分、3月11日の真実には永遠に近づけないだろう。

飛散した放射性物質の核種も量も明らかにされず

Foresightコンテンツ 爆発で大破した福島第1原子力発電所4号機の原子炉建屋5階。左側に黄色く見えるのは定期検査中で外されていた原子炉格納容器のふた=2011年6月29日[東京電力提供]

 今、ネットで話題になっている動画 がある。東京大学アイソトープ総合センターの児玉龍彦教授が7月27日に衆院の厚生労働委員会で参考人として話した映像と音声で、放射能汚染に対する国会 の「無策」、東電と経産省の「不実」を満身の怒りをもって告発している。学識と見識に基づいて道理を説くまっとうな学者が東京大学にもいたのかという驚き が、動画を見聞きした人の共通の感想だろう。

 児玉教授の厳しい指摘の中で、福島第一原発からどれくらいの放射性物質が外部に飛散したかを東電と 経産省は一切公表していないとの告発が、特に印象に残る。どんな核種がどれほど飛散したか。東電と経産省は、事故対策の大前提となるこの数値を隠し続け、 研究者にも情報を公開していない。中国並みの隠蔽体質などと言ったら、中国が怒るかもしれない。

 原発事故後、周辺地域の空間線量には2つのピークがある。3月15日と21日である。児玉教授はこの時の周辺地域の計測値から、広島型原爆20個分(ウラン換算)に当たる放射能が、福島第一原発から放出されたと計算している。

 3月11日からの11日間に、福島第一原発で起きたことを、国民はほとんど知らされていない。隣接する4基の原子炉建屋がすべて、次々に爆発して、原爆20個分の放射能が外部に放出されるという、世界にも例のない無様な事故の「原因」は隠されたままなのだ。

機材を送り返し数値公開も拒む「隠蔽の実態」

Foresightコンテンツ 放射性セシウムを含む稲わらを食べた肉牛が出荷された問題で、東京電力の西沢俊夫社長(中央)らに補償を求める泉田裕彦新潟県知事(右)=2011年7月22日、新潟県庁【時事通信社】

 児玉教授同様に、3月11日から21日までの事故の真実を、今後のあらゆる対策や判断の根拠にすべきだと、会見で強調したのは、新潟県の泉田裕彦知事である。

 8月4日に日本記者クラブで会見した泉田知事 は、今回の原発事故で、情報の隠蔽を「実感した」と語った。合計出力821万キロワット、世界最大の原発サイト、東電・柏崎刈羽原発を抱え、放射能漏れ事 故を体験している知事は、安全性には幻想や神話ではなく合理的な根拠を求める。

 事故直後に支援のために福島に派遣した県の放射線モニタリングチームと機材が、活用されずに戻され たという。現場での観測数値も公開を拒まれ、隠蔽を実感したという。汚染の実態が隠されたことで、しなくて済んだはずの被曝が人数も線量も膨大に膨らんだ と、東電と政府の対応を厳しく批判した。

 また知事は、3月11日には、福島第一原発1号機は津波が来る前に配管が破断し、電源の有無にかか わらず冷却材の喪失でメルトダウンした可能性が高いという、原発関係者の話を披露した。地震の後、福島第一原発で起きたことの実態を把握せずに、原発の再 稼働など判断できるはずがないと、言い切っている。

 経産省出身の泉田知事の発言は重い。事業者、企業しか見てこなかった経産省の役人が、住民の安全や避難計画などに頭が回るはずがないともいう。

 海江田万里経産相が、事故の真実を何一つ把握しないまま、妙に前のめりになって原発安全を閣議決定 も経ずに宣言し、玄海原発の再稼働を要請したのは、まさしく経産官僚の業界寄りの振り付けそのものだろう。水素爆発を防ぐのにドリルを備えて建屋のコンク リートに穴をあけるという、原子力安全・保安院が示したマンガのような追加的安全措置を、経産相は本気で信じたのだろうか。やらせ問題やストレステストの 実施によって、前のめりの原発推進大臣はみごとにすっ転んだ。国会で泣いたのは、その痛さに「恥」を知ったからと考えたい。

3.11をすべての原点に

Foresightコンテンツ 福島第1原発を襲う津波。中央の排気筒の右側に高い波しぶきが立っているのが見える。同発電所展望台から協力会社の作業員が動画を撮影していた[東京電力提供]=2011年3月11日【時事通信社】

 放射性物質放出の2つのピークのうち、15日は前日までの水素爆発の連続による放出の累積効果という見方ができるが、21日は謎というのが、良心的な専門家たちの共通した疑問だった。単に降雨による放射性物質の降下というだけでは説明しきれない。

 8月8日付の朝日新聞1面に、この疑問を解く鍵となる研究が紹介されていた。旧日本原子力研究所の元研究主幹の田辺文也氏が、炉心への注水量の変化から、21日ごろに3号機が再び炉心溶融を起こした可能性が高いと指摘しているという。

 地震への真剣な備えを怠り、津波などは眼中になく、世界最長・最悪の事故を起こした上に、その後の 事故対応を誤り、炉心の再溶融まで招いていたとすれば……。周辺住民の被曝などお構いなしに、事故対応の失敗を隠すため、データを公開していなかったのだ とすると、その罪は途方もなく重い。

 「前向き」という言葉で、3月11日の真実にふたをしてはなるまい。原発の安全性評価も、新しいエネルギー戦略も、地域再生も、すべては3月11日が原点だ。そこを避けて通る言説はすべて虚構であろう。