2010年11月30日(火)14:30goo news
英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラムですが、今週はJAPANというよりはASIAについて書きます。日本がその一部を構成するアジアに関する英語報道は現在ほとんどが、何を書いてもグルッと北朝鮮に向かっていく内容ばかりです。たとえば沖縄知事選の結果を書いても。そんな最中に、民間の内部告発ウェブサイト「ウィキリークス」が米外交文書25万点の公開を開始。その中には、中国の対北朝鮮姿勢について(私には)意外な内容が含まれていました。英紙の報道によると、中国高官が北朝鮮を「わがままな駄々っ子」と見なし、韓国管理下の朝鮮半島再統一を容認しているかもしれないというのです。(gooニュース 加藤祐子)
○沖縄知事選ごしに北朝鮮情勢
多くの特派員が朝鮮半島情勢の取材にかり出されているせいでしょうか、今週の英語メディアによる日本報道はちょっと取り留めもない感じです。従来ならもっと大きく扱われただろう沖縄知事選の結果についても、通常ならあったかもしれないガツンとした論評が、まだ見つかっていません。その中で英『フィナンシャル・タイムズ(FT)』紙は東京発の「沖縄県民、保守系の知事を再選」という記事で、日本政府は今年初めに「アメリカと正面対決して大失敗(botched showdown with the US)」したが、現職の仲井真弘多氏が再選という今回の結果は「関係修繕に動いていた日米両政府の当局者を喜ばせるだろう」と論評。
FTはさらに、「北朝鮮が韓国の島を砲撃して死傷者を出したことによって、日曜の選挙の重要性が浮き彫りにされた。北朝鮮の核開発計画が日本にとって脅威だという感覚が高まっているのに加え、中国が外交面で前より主張を強くしている状況なだけに、日本国内ではアメリカとの軍事同盟に対する支持が強固になっている」と書いています。
そして仲井真知事は、米軍基地の県内移設に反対しているものの、国外移設を主張していた対立候補よりはその反対の度合は「弱いように見える」として、選挙前までは県内移設容認派だったことを指摘しています。
「基地反対派が再選」という米『ニューヨーク・タイムズ』記事は、「対立候補ほど基地反対で強硬ではないにせよ、仲井真氏の再選は日米同盟にとって障害となる」と書いています。そうなるかどうかは今後の推移を見守るとして、記事は、「普天間基地をめぐる対立は日米同盟に刺さった厄介なトゲのようなものだ。またアジア地域でアメリカの存在感を維持し、北朝鮮による挑発行動が地域戦争にエスカレートしないよう苦慮するオバマ政権にとって、頭痛の種だ」と書いています。
北朝鮮の行動が「挑発」なのかどうかは議論の分かれるところで、色々な見解はこちらでご紹介しました。ただし、北朝鮮の真意がなんであれ、北朝鮮の行動を地域戦争にエスカレートさせてならないことは言うまでもありません。同紙記事は、「北朝鮮の砲撃に対する主要な軍事対応として、米政府は空母『ジョージ・ワシントン』を横須賀から黄海へ派遣。これは日米同盟の役割を強調するものだった」と書いています。
主要英語メディアの日本報道はかねてから日本を「アジア」や「アジア安全保障」の文脈に位置づけているのですが、尖閣諸島問題からこちら、その傾向は強くなっています。つまり日本そのものを語るより、「アジアの中の日本」や「日本を通じて眺めるアジア」を伝える記事の方が増えている気がします(日本のみを真正面から扱う記事が少なくて、自分が苦労しているとも言えますが)。
そのため私のこのコラムもそういう内容が増えていて、今回も結局は沖縄知事選を入口にして、北朝鮮情勢について触れます。昨夜の大ニュースだったウィキリークスによる米外交文書25万点の暴露から、英『ガーディアン』紙が掘り出してきた内容です。
○リーク文書で中国は北朝鮮を
同紙によると、中国に関する米外交文書を点検するとそこには、北朝鮮の「わがままな駄々っ子」ぶりに業を煮やし、金正日政権と距離をおきたがっている中国の姿が浮かび上がるのだとか。冒頭でも書いたようにリークされた米外交文書によると、中国高官は「韓国政府の管理下で南北朝鮮を再統一すべきだし、その考え方は中国政府の指導層の間で広まりつつある」と韓国高官に伝えたのだそうです(伝えたと言っていると書いていると書いている――という、ものすごい伝言ゲームですが。しかも何回も翻訳されているし)。
もっと詳しく書くと、韓国外交通商省の千英宇第2次官(現・大統領府外交安保首席秘書官)が今年2月、アメリカのスティーブンス駐韓大使に対して、中国高官2人から聞いた話として「コリアは韓国の管理下で統一されるべきだ(Korea should be unified under ROK control)」と伝えたとのこと。中国高官らは、この統一コリアがアメリカと「害のない(benign) 同盟関係」にあっても、中国に対して敵対的でない限りは問題ないと話したともいうのです(公電原文の「Korea」という言葉を「南北朝鮮」とするか「朝鮮半島」とするか迷いましたが、ここでは「コリア」とします。ROKは「Republic of Korea=韓国」の略)。
千氏はさらに、この中国高官2人が「北朝鮮は中国にとって、緩衝地帯としての価値を失っている。中国はこの新しい現実に向き合う用意がある」と自分に言ったと、アメリカ大使に伝え、大使はこれを公電にしてワシントンに送った――と、ガーディアン紙は書いています。
北朝鮮が韓国・大延坪島(テヨンピョンド)を砲撃して以来、「中国は今でも北朝鮮を、駐韓米軍に対する緩衝地帯として必要としている」という英語記事を複数目にしていたので、「北朝鮮は中国にとって緩衝地帯としての価値を失っている」というこのくだりはとても意外でした。
ほかにもガーディアン紙が伝えるウィキリークスの暴露内容によると、「中国の何亜非(ヘ・ヤフェイ)外務次官は米当局者に対して、北朝鮮が2009年4月にミサイル実験をしたのはワシントンの注意を引きつけるためで、まるで『わがままな駄々っ子』のように振る舞っていると話した」という公電があったのだとか。
あるいは「中国の大使が、北朝鮮の核活動は『全世界の安全保障に対する脅威だ』と警告している」という公電や、「ある国際機関の代表によると、事態が深刻に不安定化した場合、中国は北朝鮮住民30万人の流入なら吸収できるだろうと中国政府関係者たちは推量している。しかし30万人が一気に押し寄せた場合は、国境を武力封鎖する必要があるかもしれないと考えているそうだ」という外交文書もあるというのです。
○中国が最優先するのは
前述した韓国の千・大統領外交安保首席秘書官はアメリカ大使に対して、北朝鮮が破綻するような事態になってもそこに中国が軍事介入するとは考えられないと発言。なぜなら中国の経済戦略上の利害関係はすでに北朝鮮ではなく、米日韓と同じ側にあるからだとのことです。
これを読んで私が思い出したのは、ブッシュ前米大統領でした。発表間もない自伝『Decision Points』に書かれているエピソードで(Kindle版だとlocation8359あたり)、たまたま今朝Facebookで行われていたライブ質疑応答でも本人が語っていたため、パッと連想したのですが。
ブッシュ氏いわく、中国の胡錦濤国家主席が2005年に訪米した際、ホワイトハウスで昼食中に「自分はアメリカがまたテロ攻撃に遭ったらと考えると夜も眠れないのだが、あなたは夜中に何を考えてるんですか」と尋ねたと。それに対する胡主席の答えは「年間2500万人分の雇用創出」だったのだと。この正直な答えは中国理解にとても役立つものだったとブッシュ氏は書き、今朝も話していました。「年間2500万人分の雇用創出」を考えると夜も眠れないという国家指導者がいるなら、外国に資源を求める中国の対外活動も説明がつく。胡主席が国内優先の現実主義者で、「イデオロギー優先で国外に問題を起こすような指導者ではない」ことも分かったと。
色々と示唆的な部分の多いブッシュ自伝ですが、このくだりは今のアジア情勢を考える手がかりとなりそうです。中国の対外行動を中華思想やイデオロギーで説明するのか、それとも経済メリット中心で考えるのかで、見えてくる姿はかなり違うと思うからです。
ブッシュ前大統領の言うことをそっくり鵜呑みにするわけではありませんが、ウィキリークスの暴露と合わせて、アジアの今後を考えるよすがにはなります。ガーディアン記事を北朝鮮当局者が読んで、どう反応するのかがとても気になりますが……。
英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラムですが、今週はJAPANというよりはASIAについて書きます。日本がその一部を構成するアジアに関する英語報道は現在ほとんどが、何を書いてもグルッと北朝鮮に向かっていく内容ばかりです。たとえば沖縄知事選の結果を書いても。そんな最中に、民間の内部告発ウェブサイト「ウィキリークス」が米外交文書25万点の公開を開始。その中には、中国の対北朝鮮姿勢について(私には)意外な内容が含まれていました。英紙の報道によると、中国高官が北朝鮮を「わがままな駄々っ子」と見なし、韓国管理下の朝鮮半島再統一を容認しているかもしれないというのです。(gooニュース 加藤祐子)
○沖縄知事選ごしに北朝鮮情勢
多くの特派員が朝鮮半島情勢の取材にかり出されているせいでしょうか、今週の英語メディアによる日本報道はちょっと取り留めもない感じです。従来ならもっと大きく扱われただろう沖縄知事選の結果についても、通常ならあったかもしれないガツンとした論評が、まだ見つかっていません。その中で英『フィナンシャル・タイムズ(FT)』紙は東京発の「沖縄県民、保守系の知事を再選」という記事で、日本政府は今年初めに「アメリカと正面対決して大失敗(botched showdown with the US)」したが、現職の仲井真弘多氏が再選という今回の結果は「関係修繕に動いていた日米両政府の当局者を喜ばせるだろう」と論評。
FTはさらに、「北朝鮮が韓国の島を砲撃して死傷者を出したことによって、日曜の選挙の重要性が浮き彫りにされた。北朝鮮の核開発計画が日本にとって脅威だという感覚が高まっているのに加え、中国が外交面で前より主張を強くしている状況なだけに、日本国内ではアメリカとの軍事同盟に対する支持が強固になっている」と書いています。
そして仲井真知事は、米軍基地の県内移設に反対しているものの、国外移設を主張していた対立候補よりはその反対の度合は「弱いように見える」として、選挙前までは県内移設容認派だったことを指摘しています。
「基地反対派が再選」という米『ニューヨーク・タイムズ』記事は、「対立候補ほど基地反対で強硬ではないにせよ、仲井真氏の再選は日米同盟にとって障害となる」と書いています。そうなるかどうかは今後の推移を見守るとして、記事は、「普天間基地をめぐる対立は日米同盟に刺さった厄介なトゲのようなものだ。またアジア地域でアメリカの存在感を維持し、北朝鮮による挑発行動が地域戦争にエスカレートしないよう苦慮するオバマ政権にとって、頭痛の種だ」と書いています。
北朝鮮の行動が「挑発」なのかどうかは議論の分かれるところで、色々な見解はこちらでご紹介しました。ただし、北朝鮮の真意がなんであれ、北朝鮮の行動を地域戦争にエスカレートさせてならないことは言うまでもありません。同紙記事は、「北朝鮮の砲撃に対する主要な軍事対応として、米政府は空母『ジョージ・ワシントン』を横須賀から黄海へ派遣。これは日米同盟の役割を強調するものだった」と書いています。
主要英語メディアの日本報道はかねてから日本を「アジア」や「アジア安全保障」の文脈に位置づけているのですが、尖閣諸島問題からこちら、その傾向は強くなっています。つまり日本そのものを語るより、「アジアの中の日本」や「日本を通じて眺めるアジア」を伝える記事の方が増えている気がします(日本のみを真正面から扱う記事が少なくて、自分が苦労しているとも言えますが)。
そのため私のこのコラムもそういう内容が増えていて、今回も結局は沖縄知事選を入口にして、北朝鮮情勢について触れます。昨夜の大ニュースだったウィキリークスによる米外交文書25万点の暴露から、英『ガーディアン』紙が掘り出してきた内容です。
○リーク文書で中国は北朝鮮を
同紙によると、中国に関する米外交文書を点検するとそこには、北朝鮮の「わがままな駄々っ子」ぶりに業を煮やし、金正日政権と距離をおきたがっている中国の姿が浮かび上がるのだとか。冒頭でも書いたようにリークされた米外交文書によると、中国高官は「韓国政府の管理下で南北朝鮮を再統一すべきだし、その考え方は中国政府の指導層の間で広まりつつある」と韓国高官に伝えたのだそうです(伝えたと言っていると書いていると書いている――という、ものすごい伝言ゲームですが。しかも何回も翻訳されているし)。
もっと詳しく書くと、韓国外交通商省の千英宇第2次官(現・大統領府外交安保首席秘書官)が今年2月、アメリカのスティーブンス駐韓大使に対して、中国高官2人から聞いた話として「コリアは韓国の管理下で統一されるべきだ(Korea should be unified under ROK control)」と伝えたとのこと。中国高官らは、この統一コリアがアメリカと「害のない(benign) 同盟関係」にあっても、中国に対して敵対的でない限りは問題ないと話したともいうのです(公電原文の「Korea」という言葉を「南北朝鮮」とするか「朝鮮半島」とするか迷いましたが、ここでは「コリア」とします。ROKは「Republic of Korea=韓国」の略)。
千氏はさらに、この中国高官2人が「北朝鮮は中国にとって、緩衝地帯としての価値を失っている。中国はこの新しい現実に向き合う用意がある」と自分に言ったと、アメリカ大使に伝え、大使はこれを公電にしてワシントンに送った――と、ガーディアン紙は書いています。
北朝鮮が韓国・大延坪島(テヨンピョンド)を砲撃して以来、「中国は今でも北朝鮮を、駐韓米軍に対する緩衝地帯として必要としている」という英語記事を複数目にしていたので、「北朝鮮は中国にとって緩衝地帯としての価値を失っている」というこのくだりはとても意外でした。
ほかにもガーディアン紙が伝えるウィキリークスの暴露内容によると、「中国の何亜非(ヘ・ヤフェイ)外務次官は米当局者に対して、北朝鮮が2009年4月にミサイル実験をしたのはワシントンの注意を引きつけるためで、まるで『わがままな駄々っ子』のように振る舞っていると話した」という公電があったのだとか。
あるいは「中国の大使が、北朝鮮の核活動は『全世界の安全保障に対する脅威だ』と警告している」という公電や、「ある国際機関の代表によると、事態が深刻に不安定化した場合、中国は北朝鮮住民30万人の流入なら吸収できるだろうと中国政府関係者たちは推量している。しかし30万人が一気に押し寄せた場合は、国境を武力封鎖する必要があるかもしれないと考えているそうだ」という外交文書もあるというのです。
○中国が最優先するのは
前述した韓国の千・大統領外交安保首席秘書官はアメリカ大使に対して、北朝鮮が破綻するような事態になってもそこに中国が軍事介入するとは考えられないと発言。なぜなら中国の経済戦略上の利害関係はすでに北朝鮮ではなく、米日韓と同じ側にあるからだとのことです。
これを読んで私が思い出したのは、ブッシュ前米大統領でした。発表間もない自伝『Decision Points』に書かれているエピソードで(Kindle版だとlocation8359あたり)、たまたま今朝Facebookで行われていたライブ質疑応答でも本人が語っていたため、パッと連想したのですが。
ブッシュ氏いわく、中国の胡錦濤国家主席が2005年に訪米した際、ホワイトハウスで昼食中に「自分はアメリカがまたテロ攻撃に遭ったらと考えると夜も眠れないのだが、あなたは夜中に何を考えてるんですか」と尋ねたと。それに対する胡主席の答えは「年間2500万人分の雇用創出」だったのだと。この正直な答えは中国理解にとても役立つものだったとブッシュ氏は書き、今朝も話していました。「年間2500万人分の雇用創出」を考えると夜も眠れないという国家指導者がいるなら、外国に資源を求める中国の対外活動も説明がつく。胡主席が国内優先の現実主義者で、「イデオロギー優先で国外に問題を起こすような指導者ではない」ことも分かったと。
色々と示唆的な部分の多いブッシュ自伝ですが、このくだりは今のアジア情勢を考える手がかりとなりそうです。中国の対外行動を中華思想やイデオロギーで説明するのか、それとも経済メリット中心で考えるのかで、見えてくる姿はかなり違うと思うからです。
ブッシュ前大統領の言うことをそっくり鵜呑みにするわけではありませんが、ウィキリークスの暴露と合わせて、アジアの今後を考えるよすがにはなります。ガーディアン記事を北朝鮮当局者が読んで、どう反応するのかがとても気になりますが……。