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森羅万象 ~ 歩く印象派

「富国強兵」の国策に浮かれる中国指導部

2013年11月28日 01時55分43秒 | 時事スクラップブック(論評は短め)

毎日新聞 2013年11月26日 02時33分

 中国国防省が東シナ海の大半に防空識別圏(ADIZ)を設定した。圏内を飛行する航空機が国防省の定める規則に従わないと戦闘機の緊急発進を行うという。

 きわめて乱暴で危険だ。東シナ海上空は、これまで半世紀以上も日本、韓国、台湾の防空識別圏が存在し、それによって平和な秩序が保たれてきた。防空識別圏について国際法上の根拠はまだ確立していないとしても、長い実績がある。

 それを中国が一方的に、武力によってこの空を排他的に占有すると宣言した。アジアの安全に挑戦する挑発的な行為といわざるをえない。

 東シナ海は沖縄の在日米軍基地にも近い。北朝鮮のミサイル危機が起きると東シナ海上空を日米の戦闘機、 警戒管制機が飛ぶ。中国はそのたびに戦闘機を緊急発進させて追い出すつもりか。米中の武力衝突がどれほど危険なことか、「富国強兵」の国策に浮かれる中国 の指導部に頭を冷やしてもらいたい。

 米国が懸念するのは当然だ。6月の米中首脳会談で、米中は「新型大国関係」を確認し、米国は太平洋で中 国海軍が行動することを認めた。だが、西太平洋が中国の縄張りになったわけではない。国際ルールに不慣れで危険な独善的行動の目立つ中国軍が洗練された行 動をとることが前提だろう。

 中国艦隊が外洋で行動するには、その上空を管制機や護衛機、対潜哨戒機が飛ぶ必要がある。外国軍を中国 大陸に接近させない「接近拒否戦略」だけではなく、外洋進出のためにも中国軍は東シナ海、南シナ海の制空権がほしいのだろう。中国軍は太平洋上で米中対決 を望むようにみえる。このさい米国ははっきり警告のメッセージを出すべきだ。

 日本政府は、中国政府に防空識別圏の撤回を求めた。防空識別圏自体は領土主権とは違うが、圏内に日本の 領土である尖閣諸島が含まれている。島の上空で中国軍用機が行動することは明らかな主権侵害になる。島の領有権紛争を棚上げにするというこれまでの中国政 府の主張に照らしても筋が通らない。

 識別圏に領土問題がからむのは韓国も同様だ。中国は識別圏を白紙にし、そのうえで自国識別圏設定につい て先発各国に協議を求めるのが常識だ。日中には米中のような軍事対話がないことも危うい。日米、米韓は同盟関係にあり、中国との軍事摩擦が米国を巻き込む 可能性は大いにある。

 習近平政権は中国が米国をしのぐという「中国の夢」に酔っている。だが、中国自身の高度成長を可能にしたのはアジアの平和秩序があったればこそだ。それを破壊するとは、暴力的な文革の夢を見ているのか。