読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『リバー』

2023年01月08日 | 作家ア行
奥田英朗『リバー』(集英社、2022年)

648頁におよぶレンガ本小説である。栃木県と群馬県の県境をまたぐ渡良瀬川河川敷で起きた連続殺人事件を追う刑事たち、新聞記者たち、10年前の同じ犯人によると思われる未解決殺人事件の被害者遺族、その時に別件逮捕しながら起訴できなかった退職刑事、容疑者たちの姿を重層的に描き出している。

分厚い長編だがほんの数日で読んでしまった。奥田英朗の筆力は折り紙つきだから、当然と言えば当然だろう。

奥田英朗という作家は、一見して無関係に思える人物たちのバラバラの行動が最後に一つに修練していくさまを描き出す点において天下一品であることは周知のことで、すでに多くの小説で、読者を唸らせてきた。

私も次のような小説を読んで感想を書いている。
奥田英朗『最悪』(講談社、1999年)
奥田英朗『邪魔』(講談社、2001年)
奥田英朗『無理』(文芸春秋、2009年)

犯人とおぼしき人物はかなり早い段階で読者にもわかるように書かれている。しかし、はっきりとした裏が取れるのは最後の数十頁になってからだ。つまりそれまでは、警察やマスコミの試行錯誤が延々と描かれる。しかしそれはけっして読者を飽きさせることはない。

ただ残念なのは、ないものねだり的感想になるが、上に挙げたような初期の作品に通底していた社会批判、底辺層の人間の社会に対する怒りのようなものがこの小説には欠落している点だ。そういえば『オリンピックの身代金』にもそうした社会批判の視点があった。

『オリンピックの身代金』(角川書店、2008年)

今度はどんな小説で読者を愉しませてくれるか期待しておきたい。

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