読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「最悪」

2006年04月23日 | 作家ア行
奥田英朗『最悪』(講談社、1999年)

またまた奥田英朗さんを読んでしまいました。これもまた体裁は犯罪小説ということになるのでしょうが、人生とはなにかを問題にした小説だと言えるでしょう。

文字を読んでいることを忘れさせ、物語をじかに見ているような印象を与える、透明な文章とでもいうのだろうか、そういう文章で、じつに読みやすい。村上春樹の文章も読みやすいのだが、あれはいかにも村上春樹の文章であって無色透明ではない。二人の対極にあるのが高樹のぶ子の文章で、これは視点が語り手から作者に頻繁に変わるし、文章がごつごつして、情景がすーっと頭に入ってこないのだ。

毎日パチンコで生活費を稼いでいる無職の野村和也はやくざに入りたがっているタカシと組んでトルエンを塗装料工場に忍び込んで盗み出すが、ばれてしまいやくざの兄貴分に落とし前つけろと殴る蹴るで痛めつけられ、パソコン販売店に強盗に押し入って500万円近い金を準備するが、タカシがそれをもってトンずらし、たまたま知り合っためぐみを人質に取られるが、やくざをナイフで刺して逃走し、その途中でめぐみの姉が勤めるかもめ銀行北川崎支店に強盗に押し入る。

鉄工所をやっている川谷信次郎は近所のマンションの住民からの騒音反対運動といざこざを起しているが、取引先から勧められたタレットパンチプレスという大型の工作機械の導入のために銀行の融資を受けようとするが、担保がないために断られ、工作機械のほうは、融資にお構いなく搬入されるわ、従業員は逃げるわ、仕事は遅れて納品ができないわと順調に行っていた仕事がぐちゃぐちゃになり、1000万円を引きおろしに出かけていたかもめ銀行北川崎支店で、強盗に遭遇する。銀行の腹が立っていた信次郎は犯人たちに金のありかを教えてやり、犯人のかばんに札束を入れてやる。

かもめ銀行北川崎支店に勤める藤崎みどりはゴールデンウイークに行なわれた銀行の新人研修キャンプで支店長にセクハラをうけ、それを課長代理に話したために、支店長からはにらまれ、もちろん本店人事課に呼びだされるなどいやな目をしたあげく、派閥争いに利用され、自分の意志に反して支店長のセクハラを告発するファックスが全支店に送られて、騒動になり、辞職を考えていた。ちょうどその頃、自分の支店に強盗が押し入り、その片割れが妹のめぐみだと分かって、仰天し、自分が人質に志願して、犯人たちと逃走する。

ここから和也、めぐみ、信次郎、みどりの四人による、奇妙な逃走劇が始まる。たぶんこの部分は作者も面白がって書いていたのではないかと思うほど、面白い。人質であって人質でない、本来ついてくる必要のない信次郎がくっついてきて、逃走劇をややこしくする。結局、銀行強盗が和也だと分かったやくざたちが和也の携帯に電話してきて、居所をつかみ、和也と金を奪おうしてもみ合っているところへ、警察がやってくるということで、話は終わる。

最初はばらばらで、無関係だった三人の行動が最後には一つに交差するという物語の構成の面白さに、時を忘れるほどだが、人生ってなんだろう、人間はなんのために生きているのだろうと考えさせる小説でもある。

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