読書な日々

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『クララとお日さま』

2021年10月29日 | 作家ア行
カズオ・イシグロ『クララとお日さま』(早川書房、2021年)

時代は不明。場所はたぶんアメリカ。人間そっくりの人型AIが作られ、人工親友AFとして販売されている時代。日常生活は、見た目には現代と変わりない社会。

有能な実業家として働いている母親と離婚した父親(こちらも有能な人)の間に生まれた二女のジェシーは中学生くらい(?)。一女は病気で死去。ジェシーも、病名は明記されていないが、体が弱い。学校には行っていない。しかし家庭教師から遠隔レッスンを受けている。

このような家庭にジェシーのAFとして買われてきたのがクララ。AFは現在B3型が最先端だが、クララはB2型の最高位の第4世代。周囲の情報を学習して成長していくAI。「お日さま」を気にする描写が冒頭から頻繁に出てくることから、最初はソーラー蓄電のシステムになっているのかなと思ったが、そうでもないのかもしれない。

病弱なジェシーの友達としての役割を果たしながら毎日の生活を過ごす。そこに隣人のリュックという同い年の男子が絡んでくる。ジェシーとリュックは幼なじみで恋人同士でもある。しかし、リュックの家庭は母子家庭で、しかも母親は精神的に不安定。リュックは「向上審査」(これの詳細は不明)を受けてないということで大学進学ができない。リュックは母親を助けならが同居するつもりでいる。

クララは、ジェシーの病弱の原因が汚染ガスを撒き散らす道路工事の機械にあると思っており、それを壊そうとするが、方法が分からない。「お日さま」にそれを頼むために、「お日さま」が沈む丘の上にある廃屋まで上がっていく。

第4部で、クララが買われたのは、実はクララにジェシーの学習をさせて、万が一ジェシーが死去した場合に、クララを第二のジェシーにするためということが分かる。

その後、ジェシーの父親と二人でドライブしているときに、クララの体内で使われている溶液を道路工事の機械に入れたらこの機械を壊せると分かり、父親に頼んで実行してもらうが、新しい機械がやってきて、汚染ガスをなくすという願いは消える。

ところが、ジェシーの具合が非常に悪くなって、もうだめかもと思われていたある悪天の日に、突然「お日さま」が姿を見せて、ジェシーを照らすと、それ以降嘘のように元気になり、数年後には大学進学のために家を出ていく場面で終わる。

クララはもう不要になるので、スクラップにされる運命にあるということを示唆して終わる。

私は人間にはほぼ人間と同じレベルの人型ロボットAIは作れないと思っているので、最初からクララがAIだと明かして書かれたこの小説の世界に入っていくことができなかった。生身の人間と同じだが生体移植のために作られたクローンの世界を描いた『わたしを離さないで』のほうが現実を照射する力があったと思う。

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』への私の感想はこちら

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