読書な日々

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『天の蛍』

2023年01月16日 | 作家マ行
松本薫『天の蛍』(江府町観光協会、2015年)

鳥取県日野郡江府町の江尾に残る「十七夜」という夏祭りのいわれを小説にしたもので、月山富田城を根城にしていた尼子家と西国に勢力を伸ばしつつあった毛利家の戦いを絡ませた戦国時代小説でもある。

月山富田城のふもとで暮らしていた波留と妹の邦は父親を亡くし、母親と暮らしていたが、新宮党事件が起きて、母親が殺されたため、知り合いの山中家(その次男が山中鹿介)に世話になっていた。

波留は自立するために、周辺を回っていた卜部の踊り一座で下働きをするようになり、踊り手の一人である藤尾に踊りを教わり、一座の主要な踊り手となる。

妹の邦を山中家に置いていたので、数年後に引き取りに行くと、すでに引き取り手があっていないという。波留はその途中で知り合った長槍を持つ要とともに京に上がるつもりで江尾を通りかかる。

ちょうど十七夜で城のものだけでなく、周辺の農民たちもみんな城に集まって飲んだり食べたり踊ったりと楽しんでいるのを見て、波留も踊ってみる。そのとき城主の娘を火傷の事故から救うことになり、城主夫妻と知り合う。

しばらく滞在したあと、波留と要は京に登る。邦は卜部一座で働いていることがわかり、妹を取り返し、さらに尼子家臣の息子の新十郎の4人で出雲に帰る途中、また江尾に立ち寄ったことで、そこに住み着くことになる。

しだいに毛利家が勢力を山陰地方に伸ばし、月山富田城の周辺の領国はどんどん毛利方に寝返るなかで、いったんは毛利に与したが、息子の首をはねられたことで尼子家への義を守る決意をした江尾城主蜂塚右衛門尉は、まわりを毛利軍に取り囲まれ、自害する。一緒に戦った波留や要も死ぬ。彼らの魂はその夜、蛍となって天に登っていった。

私の場合、母親が江府町の出身であるので、よく十七夜という言葉は耳にしたもので、小学生低学年くらいの頃に一度だけ行ったことがある。まぁもちろん、普通の夏祭り―私の地元では秋祭りだったが―という記憶しかないので、こういう出来事(ってもちろんフィクションなんだが)が背景にあったなんてことは知る由もない。

ただ私の地元の秋祭りはとうの昔になくなったが、江尾の十七夜は今も続いている。だから、その継承(顕彰)のために、このような小説が作者に依頼されたのだろう。

多少美化しているきらいはあるが、歴史小説はこれくらいでなくては、と思う。下手な大河ドラマよりもよほど感動的だ。ぜひ大河ドラマに取り上げてほしい。せめて金曜夜の歴史ドラマ枠で10回分くらいで取り上げてほしい。

読み返してみたら以前この本を読んで感想を書いていた。なんという記憶力の低下よ。でも、感動を二度も味わえるのは、すっかり忘れてしまっていたからと考えたら、それもいいのかなと思う。

その時の感想はこちら

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ただしリンク先はコミカライズされた本(要するに漫画本)なのでご注意を。活字本もある。

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