映画の豆

映画の感想をだらだらと。
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「DUNE デューン 砂の惑星」

2021年10月18日 | SF映画
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督
1965年フランク・ハーバートによるSF小説の2度目の映画化。
前回映画は1984年デイヴィッド・リンチ監督。
私は原作未読、前回映画は視聴済、ドラマ版未見。

後続の作品で影響を受けたものが数多くあるので
(私は今回「宮崎駿さんは、めちゃくちゃこの小説に影響を受けたんだな…」と思った)
若い人は「よくあるパターンで構成された普通のSFですね」って感じるかも。
でも1965年、いまから半世紀以上前の小説なのです。

公家の台頭を懸念する皇帝の策略により、領地替えで砂の惑星アラキスに配属されたアトレイデ家。
その嫡男であるポールは、不思議な夢をよく見るようになっていた。
「スパイス」と呼ばれる貴重資源を産むアラキスを失ったハルコンネン家は、
夜陰に乗じてアトレイデ家を滅ぼそうとするが…というあらすじ。
シリーズ化する予定だとかで、完結していません。

リンチ版ポール役のカイル・マクラクランも少女のような美しさがありましたが
今回のポールを演じるティモシー・シャラメ、CGか人形のような美しさ。
あとスケールどでかい話なのですが、衣装、美術が頑張って
重厚な世界観を作り出していた。
リンチ版は、リンチ監督が個性派作家すぎて、
気の毒なほど作品の傾向に合ってなかったですけど、
今回のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督版、彼で駄目なら
今回の予算と期間では誰にも無理だろう、という人選なので、健闘した。
(あるいはJJを引っ張ってきてドカンボカン系SFにするか)
私の感想は、がんばったな!という感じ…。

内容ばれ

ダンカン役のジェイソン・モモアが格好良かったです。
それとお父さん役のオスカー・アイザック。
なぜか全裸に剥かれてしまって
(体に何か仕込まれるのを警戒したとか?)
何かこれ見た事あるな…?って考えましたが何ですかね。
「マラーの死」かな?カラヴァッジオの「ホロフェルネスの首~」?

採用されたエピソードが無印とだいたい同じで
演出の違いを比較すると2重に楽しめます。
旧作ハルコンネン伯爵の
「醜くてサディストで女性や小動物を虐待し、同性愛者」っていう、
明らかに同性愛を悪役演出の1つにしていたのをなくしたのはいい判断でした。
私は無印で唯一しっかり覚えてたのは鉄のパンツの男のことだけなんですが
今回は登場しませんでした。続編で出るのか?そして鉄のパンツを穿くのか?
リンチ版は巻きに巻いて復讐の成就まで詰め込んだんですが、あれは狂気のスピードでした。
しかし今回、丁寧に描いているがラストのカタルシスがないのも一長一短。
それはそうと星間飛行をする科学力があるのに、
なんで地平をワーワー走る白兵戦やってるのかな?って疑問でしたが、
あのバリア、瞬間的なエネルギーを遮るから人力の刃でしか殺せないのですね。
納得です。投石器で鉄骨でも打ち出したらどうかね。油を放出して火を放つとか。

最後の決闘裁判と連続して見たのですが
要するに諸侯の領地争いとか、印章による書類押印とか、
共通点がちょっとあって面白かった。



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「キャンディマン」

2021年10月17日 | ホラー映画

1992年のホラー映画の続編。
しかし大変上手につながっているので前作を見ておく必要は特にない。
ジョーダン・ピール脚本で、
「ゲット・アウト」よりも苛烈でストレートな人種差別ホラーになっている。
もはやこれは負のブラックパンサーだなと思った。
映画で受けた衝撃を、実生活に持ち帰らせるという点でとても優れている。

アートディレクターの主人公は、恋人の画家を家に住まわせて
彼の活動を支援していた。寡作の画家は次のテーマを
カブリーニ=グリーン地区のキャンディマン伝説に決定して取材を始める。
しかし彼の周辺で不審な殺人が起こり始め……というあらすじ。

虫が駄目な人と、集合体恐怖症のひとは少々厳しいかも。

内容ばれ

最初のシーンからエンディングまでずっと
「殺された同胞と同じ数だけお前たちを殺してやる」という叫びに満ちている。
自国を出ずに暮らし人種差別を経験していない黄色人種の私でもヒッって思ったので
当事者である2つの人種の動揺はどれほどだったろう。
無印キャンディマンは恨みを残した人物が怪異となり
その怪異は継承されるというスタンダードな話だったが
今回は差別弾圧を受けている属性の者たち全員がキャンディマンになりうるし、
虐待される属性の者たちはキャンディマンを待ち望むという話だった。
魔王的な人物はよく「光ある限り闇は何度でも蘇る。ぐふ」とか言って絶命するが、
「差別がある限りキャンディマンは存在する」という設定だと、
消滅させられる気が全然しない。

しかし恨みや執着を残した死者が怪異となって思いを遂げるというのは
元は西洋より東洋に多い物語のパターンだと思うが
(欧米の古い怪談は、ただ出てくるタイプのものが多い)
このアイディアがこっちで出なかったのは惜しい。
性暴力が原因で自殺した女性、ストーカーに殺された女性、
DVで死んだ妻、性加害目的で殺された女児、その恨みの集合体の怪異が
女性から女性に受け継がれるホラー・ダークヒーローものがあったら、
それを見た男女は平静でいられただろうか。
(そしてこの映画ほどドライな感じに撮れただろうか)

冒頭の反転MGM、なんだかもぞもぞした。
そういえば鏡像なら見えるって設定は、後付けだよね…?

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「キャッシュトラック」

2021年10月10日 | 暴力orハードボイルド系

ガイ・リッチー監督作品。
現金の輸送を行う警備会社は強盗の襲撃を受け、従業員2名を失った。
補充で入ってきた新人は別の警備会社からの転職で、
経歴と実力は平均的だったが、ある日再び強盗の襲撃を受けた際
驚くほどの手際の良さで強盗全員を射殺する。
一体、男の正体と目的は何なのか?というあらすじ。
ステイサム主演です。

フランス映画「ブルー・レクイエム」のハリウッド版らしい。
そのせいなのかどうなのか、
ガイ・リッチー度100%だった「ジェントルマン」に比べると
無駄口と寄り道が減って真面目な感じに。
なので作品のトーンはぐっと暗くなってノワール映画調になっています。
ハードめのマフィアものや香港ノワールなどがお好きな方は大好物だと思います。
私は割と好きです。

ラストばれ
好きなのは、復讐ものだからですけど、中盤までのねたばれだから書けない。
最初に一般の人が殺された音声情報が入って、
妻とは離婚した、他の家族はいないの台詞に含みがあったので
はいはい、分ったよ!と思ったんですが、
あの襲撃シーン、ステイサムの事情で1回、
強盗側の事情とサイコパスヤバイヤバイを描くのにもう1回と
都合3回も見たので、3回は飽きるよ!巻き戻し1回でよくない?と思った。
ガイ・リッチー監督作品にしては、時系列はすっきりしているけども。
スコット・イーストウッドさんは、いい役をもらったと思う。人の心のないやつ。
特性のないメインキャラクターより、
こういう役でキャリアを積んだほうがよいのではないか。

ギャング側も、警備会社側も、元軍人側も、みんな味があってよろしかった。
もうちょっと生き残っても良かったように思う。

あとあの警備会社を狙う強盗は3グループもあったってことで
ちょっと狙われすぎじゃないです?

この世界「ジェントルマン」とクロスオーバー可能で、
とくに腹心の部下つながりでレイモンドとマイクは苦労話で盛り上がりそう。




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「TOVE トーベ」

2021年10月07日 | 実話系
ムーミンを創造したフィンランドの画家、小説家、漫画家
トーベ・ヤンソン氏(長年TOBEだと思っていたら、TOVEでいらっしゃった)の伝記的映画。
アトリエを構えてからの、新聞記者アトス、舞台監督ヴィヴィカ、
両名との出会いと恋愛とその結末を中心にした映画です。

どっちかというと私はトーベ氏×トゥーリッキ氏派なのに、
間違ってヴィヴィカ氏×トーベ氏のブックを買ってしまった虚無の気持ち…。

ラストまでばれ
(注意: 冒頭12行は愚痴です)

「リンドグレーン」の時も書きましたが
女性芸術家の映画となるとどうして創作よりも
性愛とか父へのコンプレックス…みたいな話になるんだろう。
製作者は誰と誰がまぐわったとか孕まされたとかに興味バチバチで
それこそがエンタテインメントなのかもしれませんが、
こっちは本当にビタイチ興味ないんでゴシップパート終わるまで仮眠をとりたいくらいですよ
メロドラマ終わったら爆発シーン入れてくれたら起きるからさ…。
もしこれがディック・ブルーナー氏やチャールズ・シュルツ氏、
手塚治虫氏の映画だったら、不倫とか恋愛遍歴(ベッドシーン連発、
嫉妬とか別離とか)や母親へのコンプレックス…って内容になったろうか?
でも北欧の男性の伝記映画を見たことないので、
今後見る機会があってそっちも下半身映画だったら諦めます。愚痴終わり。

冒頭、第二次大戦で破壊された街を歩くトーべが、
全く違うムーミン世界の情景を描写しながら歩くシーンは、
現実世界と空想世界の関係の表現としてすごくすごく良かった。

トーベはお家賃や食べるものにも困るくらいお金がないのに、
彼女には教養があり、アトリエには歳書がずらりと並んで、
お酒も煙草もバンバン飲めるところに(国の?親世代の?)豊かさを感じました。

アトスとも不倫、ヴィヴィカとも不倫で、
当時のフィンランドは不倫を罰する法がなかったのか?という気がしますが、
同性との浮気はノーカン!みたいなトーベの俺様ルールは笑ってしまいますし、
人の配偶者と寝ておきながら浮気に怒るというのは意味が分からない。
実際のトーベはポリガミスト、まではいかないけど、
1対1の関係に拘らないタイプだと思うので、ああいう展開にはならんのでは?と思いますが。

あとアトスと不倫→アトスの新聞社から仕事をもらう→
ヴィヴィカと不倫→ヴィヴィカのお父さんから仕事をもらう、という順番で描くと、
枕営業みたいだからよしなさいという気はした。

ヴィヴィカとの体験がどうだったかアトスに聞かれたトーベが言った
「息をのむほど華麗な竜が舞い下りたようだった」という言葉が綺麗で、
ムーミンに竜の出てきた話があったなと思って帰ってすぐに再読しました。

むかしムーミン展に行った時、パレットの実物を見たが、
でかくてびっくりした記憶がある。
あれで作業できるなら相当な腕力の持ち主だろうな…と。
配線とか薪割とか、家周りのこと一式できるのは格好いいですね。
ちょっと憧れました。(後半1時間は無人島の話になると思ってました)

1950年前後頃、フランスでホラーが大流行りしてたというヴィヴィカの話はとても気になりました。
ハマーフィルムは微妙にまだだし、一体なんだろう。国産ホラーだろうか。

ムーミンはどうして怒らないの?彼は臆病なの…というやりとりで、
「えっあの不機嫌を隠しもしないトロールが!?」って思ったんですが、
怒るの定義が違うのかな?

最後のご本人映像、全力で踊っておられておかわいらしかったです。

ところで映画とは全く関係ないトウーリッキ氏の話を開いてください。
私がトゥーリッキ氏のエピソードで一番好きなのは、
ヤンソン氏が森で釘をぶちまけてしまって「ウワー!拾うの大変!」って思ったら、
トゥーリッキ氏のバッグの中から磁石がス…と出てきて、
「なんで!?」ってなった話です。ご静聴ありがとうございました。



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「レリック-遺物-」

2021年10月06日 | ホラー映画

行方が分からなくなった老女の捜索のために故郷に帰ってきたその娘と孫娘。
ある日突然戻ってきた祖母と同居生活をするが、
祖母に認知症の症状があらわれており、
それと同時に母娘は家の中で不審な物音を耳にする…
という認知症ホラー。
終盤まで特になにか出るという訳ではなく緊張感で引っ張るので、
モニタで片手間に見ると退屈かも。
見るなら集中して見たほうがよろしいです。

近年見た認知症サスペンスと比較して
そういえば男性の症状は攻撃、
女性の症状は防衛にでることが多いような気がするな、
などと思いました。

ラストまでばれ

監督の経験が元になっているそうですが、
自分が孫にプレゼントした指輪を、盗まれたと思い込んで非難する様子や
写真を食べたりする奇行、みんなのところへ帰りたいと泣く姿、
自分の娘と孫ではなく偽物だという警戒、どれもつらい。
あと「頭の弱い子」って言葉で孫娘が動揺したことから察せる、
以前はああいう言葉を使う人ではなかったのに…
(おそらく心では思ってた)という変化も地味につらい。

ラストはあれ、祖母は実はすでに死んでいて、
母娘が一緒に暮らしていたのはミイラだった路線…?
って思ったけど、失踪する前に話した人が1週間前って言ってたから、
あの気温で2~3週間であの状態にはならんなという理由でその線は消えた。
まあおそらく現実としては
「おじいちゃんが亡くなってこの家は妙に広くなった」ってセリフから、
時々壁の裏に迷い込んで生活なさってたのだろう。
ホラー的には、気付かれないまま死んだ曽祖父の悪いものが祖母に乗り移り
母にも伝染した。
映画的にはあの迷路も黒いカビも、認知症のメタファなのだろう。
ステンドグラスの窓と、最後の母親の背中は遺伝子のメタファ。

そういえば私の祖母の家、リフォームするときに壁を壊したら、
向こう側に封鎖した部屋が新しく出てきたというのを思い出しました。
封鎖を知っている世代が全員亡くなり、
係やその子供世代は外から見た家の大きさと、
中の広さが一致してないのに数十年気付かなかったのです。
私も、後から考えると変なんですが、全然思いつかなかった。



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