クリント・イーストウッド監督。
イラク戦争に4度従軍し、公式戦果160名殺害、
「史上最高の狙撃手」と称賛されたネイビー・シールズの狙撃手
クリス・カイルの自伝を元にした伝記映画。
イーストウッド監督の映画は
見る者の心を抉ってくる作品が多いですが今回かなりマイルドです。
実在の人物のお話でもあるし、彼のお子さんに配慮したとのことです。
(あっでも当然のごとく子供も女もバンバン殺されるし
生首拷問血まみれ何でもありです)
予告でもありましたが、
子供が対戦車手榴弾を持って隊に近付いていくのを
狙撃手として潜伏しているクリスは発見します。
司令官に報告しますが、司令官の位置からは子供を確認できない。
自分の判断で撃てと言われます。
子供はとことこと近付いていきます。
間違いだったら軍の刑務所行きです。小さな、罪のなさそうな子供です。
引き金に指がかかります。
うわ~、嫌だ~、彼の立場に立ちたくない~という、本当に巧い冒頭でした。
真面目な話(おちばれ注意)
コーランで始まったので、対称的に合衆国国歌で終わるのだろう、
しかもPTSDを克服して、社会に再適合すればするほど
クリスの目は虚ろになって魂は減っていって、
最後に、行けばどうなるか心のどこかで分かっていながら出掛けて、
あの世界から彼が逃げ切れたと思ったけどそうではなかった事を観客が痛感したところで
そこで暗転して国歌…とかそういう感じだろう…と思っていたら違った。
わたしはイーストウッド監督のことを鬼だと思っている(笑)
以前にも書きましたが、人間には日々の生活を繰り返して
平凡に老いて死ぬよりも、もっと大いなるもののために、
国家や神や正義や仲間や指導者のために死にたいという欲求が確実にあって、
その欲求はたぶん女性より男性の方が強い。
あの父親は羊と牧羊犬の話などするべきではなかったし、
子供に銃を撃たせるべきではないと強く思う。
(成長の段階で激しい怒りや障害とぶつかった際に
「撃てばすべて解決する」という発想が出ない筈がない)
側にいてほしいと哀願する妻との100%の擦れ違いっぷりが凄かったです。
あとイラク戦争の是非は置いて、
狂信は精神疾患だと認識される日が絶対くる。
種類に関係なく、自分の子供の命を神のために差しだすような信心は全部狂信だ
(聖書の登場人物でもアウトな人が何人かいる気もします)
(ジーザス・キャンプとか思い出します。問題は神にあるのではなく、個人にあると思います)
(あと金。問題点は主にこの3つ)
不真面目な話を含む箇条書き
・ドリル男ってモデルがいるんだろうか…さすがに架空だろうか。
ドリルで子供を殺すって、アメコミのヴィランでも
「ないわー」って感じなので。
・狙撃手ムスタファの睫毛がバサバサすぎてスコープが覗けなさそう…と思った。
いっそ切れよ、その睫毛をよ。
・ムスタファとの狙撃決闘はフィクションだそうです。
・でも1900m越え射撃は実際にあるのかな?
射出する時に0.001ミリとかずれたら当たらないだろうに
弾丸ってそんな精度で作れるものなの?
風の向きも強さも刻一刻と変わるだろうけど、当たるの?
・戦闘中の市街地で彼女に贈る宝石の話をするとか、
アメリカには死亡フラグという概念はないのか。
・アメリカの鬼軍曹の罵倒はどうしてみんなキレキレなのか。
日夜修練に励んでいるのか。それとも教科書でもあるのか。
・宗教戦隊およびテロリストの皆さんのPTSD発症率が知りたいものです。
まあでも確実に記録などないだろうからせめて自殺率だけでも。
なんかアメリカ側よりは低い気がするのですよね。
皮肉なことに精神安定剤としては愛国心より宗教洗脳の方が優秀そう。
・これはジョークなのか本当なのか分からないのですが
銃器メーカーが豚肉ペースト(または脂)でコーティングした
対テロリスト用特殊弾丸を開発したという記事を見ました。
他国で悪さする宗教戦隊はとりあえずそいつで撃てばいい。
・酔った女性がゲロを吐くシーンで主人公が素早く駆け寄って
後ろから髪を持ってあげてましたが、まったく同じシチュエーションが
この間のSM映画にあったのを思い出しました。
アメリカ人男性はなぜあんなにゲロ慣れしているのか。
そしてなぜアメリカの女性は人前で吐くのか。
・モニタを見ているクリスの演出、良かったですね。
・戦争賛美映画である、ない、という論争が起こったようです。
論争が起こるほうが健全ですね。よかった。
セス・ローゲンが「イングロリアス・バスターズ」に出てきた
プロパガンダ映画「国民の誇り」を連想するねって言っちゃって
ものすごい叩かれたらしい。
(ナチスの狙撃手を描いた作中作で、ナチさんたちがバカみたいに熱狂する)
うん、ネタとしては面白いから言いたくなるのすごく分かるけど黙っとこうな。
・「男のロマンなど知るか」という芸風のビグロー監督作品と比べると
ややドリーミンな印象。