映画の豆

映画の感想をだらだらと。
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「ロスト・キング 500年越しの運命」

2023年09月25日 | 実話系

持病があり、能力を発揮できず苦悩する女性が、
あるきっかけで リチャード三世にシンパシィを持つようになり、
醜い姿と残虐性を持つ簒奪者という彼の悪評を
否定したいという願いを持つようになる。
彼女は 「川に流された」 という伝承のある王の遺体を
捜索するプロジェクトを立ち上げるが…というあらすじ。

実話が元になっています。
持病があって、情緒不安定な中年女性主人公の、
可哀そうなお話ではなく何事かを成し遂げる話というのは珍しい。
(男性におけるアカンタレが偉業を成し遂げる系統にあたると思います)
主人公の情緒不安定をサリー・ホーキンスさんが名演しているので
こちらもすごく不安になった。
熱中することのある女性にとっては楽しい映画。
特定のタイプの男性鑑賞者はもしかするとイラっとするかも。

ラストまでばれ

それにしても500年以上前に死んだ人の、
行方の分からない遺体が見つかるのはすごいことだ。
さすがに映画向けに脚色してあって、あの駐車場にあるのではないかと
論じた人は複数人おられたようだけども、
あの「R」のマークにインスピレーションを得たのは実際あった出来事らしい。

主人公の情緒不安定、
2人の子供の養育と2軒の家を維持するためにも、
別れた夫と主人公で2人分の収入を維持する必要があるのに、
2週間仕事を休んでいる事も、
研修だと嘘をついて推しのために遠征していたことも内緒にしていた主人公に対し
説明を求めている元夫に、
自分の感情の話を一生懸命する主人公のシーン、脂汗が出た (共感性羞恥心かも)。
ある種の人は自分の感情を説明するのにいっぱいいっぱいになり、
その場で自分に開示要求されている情報がどういう種類のものなのか認識できなくなってしまう。
そしてそういうタイプは女性に多いとされている。
そのあとで、「感情の話はしないほうがいい」と別の女性からアドバイスされるシーンがあり、
教訓的なシークエンスだったのか…?と思った。
脚本を書いたかたが夫役もされている。

発掘の費用が3万5千ポンドで、「足りる!?」と驚いた。
油圧ショベル含む機材のレンタル、アスファルト撤去&再舗装、
廃棄物の処分、スタッフの日当、 代換駐車場代……
思わず価格と期間を調べて試算してしまったわ。

大学がちょい悪めに描かれている。
あの、何も貢献してないのに結果が出たとたん前にグイグイ出てくる人物の
世界共通の声のでかさよ。
実際のラングリーさんはもうちょっとガッツのあるタイプに見える。
2012年からヘンリー1世捜索プロジェクトを立ち上げなさったらしい。






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「グランツーリスモ」

2023年09月18日 | 実話系
ニール・ブロムカンプ監督
同名のプレステ用シミュレーションゲームで高得点を出したプレーヤーを
リアルにプロのレーシングドライバーにする企画「GTアカデミー」で
見事な結果を出したヤン・マーデンボローを映画化。
アカデミーはニッサンとソニー出資なのでチラチラ日本が出てきます。

ゲーム好きの普通の若者をF1マシンに乗せようというのがthe狂気!という感じで
始終ハラハラしていました。迫力があって分かりやすく、面白かったが
しかし心臓に悪かった。

オーランド・ブルーム演じる企画者がすごく山師っぽく、
「昨今車は移動手段に成り下がって誰も夢を持たなくなったので、
車に対するワクワクを取り戻したい…」てきな演説、
内容はそ、そんなバカな……!なんですけど、
話ぶりが上手いので金を引き出せちゃうのはなんとなく分かる。

内容ばれ

ドライビングテクニックとコースの把握だけでは如何ともしがたい
加速の際の体への負荷や、プレッシャー、
マネーパワーでやってきたゲーマーに対するメカニックの反発とか
色々予測可能だったでしょうに…山師はえげつないことをする。

ニュルブルクリンクのところはヒエ…ってなった。
創作だといいなと思いながら帰って調べたが
実際にあった事故で、現実はル・マンの後だった。残酷だ。

ツンデレ師匠と弟子の感激ものというのが筋のうちの1つだが、
歪なところがどこにもなく健全で(登場人物みな素直でよく泣く)、
途中で本当にニール・ブロムカンプ監督作品なのか
またなにか勘違いしてたかなと不安になった。
(ところで意地悪ボンが言った「あんたの居場所は車の下だ」は
正確には「俺の車の下だ」だと思う)

戦闘機乗りの話で、「身長が高いと加速で気絶しやすい」みたいなの、
昔読んだ気がするけど、今の技術だと問題ないのかな?

気になった日本語の変な看板。
「岩の家」「のり」



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「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」

2022年12月04日 | 実話系

猫画家として19世紀末のロンドンで一世を風靡した
ルイス・ウェインの、妻と猫との愛情ある暮らしを描いた映画。
私はかなり前に、統合失調症で作風の激変した画家として彼の名前を知りましたが
その後、彼は作品に日付を入れておらずまた作品数が多いため
必ずしも作風の変化と病の進行が一致しているわけではないという知識も得ました。
今回、もう少し正しいところを知ろうと思って見た。

・かわいい猫がいっぱい出ます。特にピーターがかわいい。演技もうまい。
・しかし徐々に正気を失っていく映画なのでそこのところ苦手な人注意。
・衣装は、派手さはないけど素敵でした。

内容ばれ

序盤に、どうして彼のことをこんな風に
変わった人と多動性障害の中間的に描写するんだろう?と思ったが
妹さんも統合失調症で生活が立ち行かなくなって入院されたので
なんとなく察した。
現代ならもしかするとこの一家は、行政が介入していたのかもしれない。
支離滅裂な講演をなさってもしばらくは画家として活動されていたのも、
現代だとたぶんストップがかかるだろう。
森羅万象を電気によって読み解こうとされていたようで、
なるほど、妙にギザギザした絵は、それを表現していたのか…?

ご本人も、もう家庭で面倒を見られる範疇を超えたので妹さんたちが入院させて
その後にクラファン、なのだが映画はそのこのところふんわりさせて後味をよくしている。
彼の認識能力が低めなのをよいことに、搾り取れるだけ搾り取った出版社がある一方で
彼を保護したゾラ博士(違います)のような人もいて、
当時は福祉の代わりを相互扶助が果たしていたんだな、でもそれは運しだいだな…と思った。
トビー・ジョーンズは、登場するたびおいしいそうなものを食べていて目が釘付けだったが
最後痛風に倒れてちょっとふいてしまった。
全く関係ないけど、なぜワイティティ監督が出演されてるんだろう?

カンバーバッチ氏はこの手の演技をなさるともうまったく天下一品であるし、
日中のシーンの瞳の美しさは形容しがたいなと思いました。



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「スペンサー ダイアナの決意」

2022年10月16日 | 実話系

悲劇のプリンセスとして知られるダイアナ妃が、
1991年のクリスマスイブに
王室の慣習として親族が一堂に会するサンドリンガム・ハウスにて
追い詰められ神経をすり減らし、やがてある決断をするに至る3日間の話。
実話をもとにした寓話であると冒頭で提示されます。

王室には何十年も、または何百年も続いてきた慣習が無数にあり、
(クリスマスのゲストは滞在前に体重を測らなくてはならないだとか、
寒くても暖房を入れられないであるとか)
理由は不明ながらそれを厳守せねばならず、
スケジュールおよび衣装まで厳密に定められていて、
感情や気分の出る幕は一切ない。
そしてダイアナは常にマスコミの標的にされており、
本来なら彼女を守って安心させてくれるはずの配偶者は不倫に耽溺して、
彼女をさらに苦しめるのだった。

あの髪型のせいかクリステン・スチュワートがクリステン・スチュワートに見えず、
かなりダイアナ妃に見えました。
しかしダイアナ妃よりも痩せておられて、不安になるスタイルだった。
ファッションはどれも素敵でした。
摂食障害、不潔恐怖症、幻覚、自傷、鬼気迫る演技だった。
しかしこの映画のなかの彼女の症状、あそこまでいくと
薬で劇的に改善したのではないかという気がする。
専門医にかかるべきだったのでは。作中でも言われてたけど。

注意、嘔吐あり。

女王陛下の犬がかわいい。

ラストまでばれ

パブロ・ラライン監督。
「ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命」の監督なんですが
神経の細い女主人の苦悩と、それを支える女のしもべの話が監督の性癖なのだと思う。
今回、「ジャッキー」のアップグレード版だった。

王家には、機械のように淡々とすべきことを365日こなせる、
感情と気分を締め出しても壊れない、鉄の強さを持つ人が向いているのだと思う。
自分の気分や心を常に大切にするタイプはあんな生活には耐えられない。
彼女のような女性には、常に彼女を気にかけて見守ってくれる
毎日助言や励ましをくれるメンター兼保護者兼恋人が必要。
(もしかすると世の神経の細い女性はそれを求めて宗教に走るのかも、
あるいはモラルハランスメント配偶者にハマってしまうのかも)
ロイヤル不倫やろうには当然その役目は務まらないので、
彼女は何度も不倫に走った(映画ではそこのところは描かれなかったけども)。
しかし母親に「お母さんがおかしなことをしたら教えてね」って言われて
その後「いまおかしいよ!」って告げないとならない子供のつらさよ…。

キジの譬え、
キジは頭がよくないので、放してやってもそのへんで死ぬという話、
そして冒頭のキジ、ダイアナ妃の死因を考えると皮肉きついな?

ダイアナ妃への忠告通り、王室の人たちは彼女に対して
比較的親切だったのだと思う。少なくとも害意はなかった。たぶん。
それとこの映画はダイアナ妃視点でしたが、
王室視点の映画が2006年「クィーン」で
ダイアナ妃の死のエピソードがあります。併せて見ると興味深いかも。





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「エルヴィス」

2022年07月07日 | 実話系

総本家バズ・ラーマン名物「破滅する美しい男」。
冒頭の、独白のためだけに用意された背景美術、
再現された当時のファッション、大道具小道具、
現在の歌に過去の歌がカットバックする濃さ、
美しい破滅に歴史と音楽史を絡める手腕、
秒を惜しんで流れる物語と音楽、
ぜんぶが豪華絢爛でthe 映画!という感じだった。

極貧だったエルヴィス少年が、
生まれ育った黒人住宅街で吸収した音楽を自らのスタイルに取り入れ
やがて世界に愛されるようになるが、それらに終わりが来る…というあらすじ。

ラストまでばれ?

ベガスでの契約のくだり、
「罠から逃げられない」って歌詞をかぶせてくるのとか、
金額を書いた紙ナプキンを握った手でハグするのとか、
カー!痺れるね!と思いました。
タイトルは「エルヴィス」 だけど、実質大佐が準主役くらいの扱いで、
トム・ハンクスは今回もいい仕事だった。
大佐、 複雑な人で、最初に独白した通り 「音楽のことは分からん」。
復帰TV中継のシーンを見ると明らかだけど、
時代に乗っているとか COOLだとかは全く分かってない。
でも人の反応を見て、当たる当たらないを嗅ぎ分ける能力はある。
人を操る才能はあるのに、実務能力は穴だらけ。
最初から最後までの経緯をざっと読むと
糟糠の妻、でも現在は冷めきっているという感じ。

これはポエムなのですが、
私たち、地球上に何億人もいるような凡人は、
特別なギフトを天から与えられた美しい、賢い、清らかな、奇麗な、たぐいまれな人間を見ると、
それに群がって、蛆虫のように食い荒らさずにはいられない。
なぜならその汁が甘いから。選ばれた彼等が好きだから。選ばれた彼等が憎いから。
でも彼等は食われても逃げずにじっとしている。
なぜなら彼等の多くはひどく寂しがりやだから。
たぶん神もその様子を見るのが大好きだし、だから天才の破滅の物語は人気がある。
(大佐が金ヅルをしゃぶりつくすのはともかく、実の父、あんた…って思ったけど)

1対1の穏やかな愛では、何千何万から熱烈に愛されるエネルギーの代わりにはならないんでしょうね。
作中でも言ってましたけど、大衆からの愛の中毒にならずに
妻を選んでいれば、あるいは助かったのかも…。

不勉強なので知りませんでしたが、当時は同じ音楽を歌っても
歌手の人種によってジャンルが変わったんですね。
それで、その垣根をぶち壊したのがエルヴィスだったと。
そりゃ今でも尊敬を集める訳ですわ。

バズ・ラーマン名物「破滅する美しい男」、
もし未見であれば「華麗なるギャッツビー」おすすめです。


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