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大好きな読書や言葉、料理のコトなど。

『思い出のマーニー』(「When Marnie Was There」)

2014年03月25日 | BOOKS
『思い出のマーニー』(上)(下)全2巻
<岩波少年文庫>
ジョーン・G・ロビンソン(Joan Gale Robinson) 作
ペギー・フォートナム(Peggy Fortnum) 絵
松野 正子 訳
岩波書店

『特装版 思い出のマーニー』
<単行本>
ジョーン・G・ロビンソン 作/松野正子 訳
ペギー・フォートナム 絵
岩波書店


 読むたびに発見のある物語です。

 ジョーン・G・ロビンソンといえば、著者本人が描いているイラストが可愛い幼年童話「くまのテディ・ロビンソン」シリーズが有名ですが、この作品には幼年童話作品とは明らかに違う深い味わいがあります。
 イラストを著者自身が書いていないのは、ロビンソンの描く絵が可愛すぎるからかもしれませんね。(イギリスで出版されたものも、中の挿絵は日本のものと一緒です)

 なんと、この夏(2014年)公開予定のスタジオジブリの映画は、この物語が原作です。
映画「思い出のマーニー」2014年夏全国ロードショー - スタジオジブリ
 あらためて読んでみると、なるほどジブリの映画にふさわしい物語だと感じます。
不思議で、優しくて、せつないけれどあたたかい物語。
 アニメ「アルプスの少女ハイジ」のように、物語の舞台であるイギリスでも違和感なく受け入れてもらえる作品になってほしいものです。

 物語は、主人公アンナと不思議な女の子マーニーの友情を描く前半と、不思議なつながりの秘密に近づいていく後半で構成されています。
 英語のタイトルは「When Marnie Was There」。直訳すると、「マーニーがそこにいた時」ですね。
 このタイトルを見ると、おばあさんになったアンナが、孫娘の髪をとかしながら、孫息子のベッドの横で布団を優しくたたきながら、「昔、おばあちゃんがまだ小さいころ、マーニーという子に出会ったの」と語ることができたら素敵だなぁと思うのです。


◆「内側(中)」と「外側(外)」
 この物語のキー(鍵)となる言葉は「内側・中(inside)」と「外側・外(outside)」だと思います。
 第1章から最終章までの多くの場面で、「内(中)」と「外」が印象的な役割をはたしています。
 とくに最終章。日本語訳ではなかなか読み取れないかもしれませんが、「内側(中)」と「外側(外)」に注目すると、アンナにとっての「目に見えない魔法の輪(invisible magic circle)」が大きく変化した様子が分かります。
 アンナとマーニーを引き合わせるのは、二人に共通する「寄る辺の無さ」。
自分の生きている現実世界の誰とも強い心のつながりを持てていない隔絶感と不安が、「魔法の輪」の外側という不思議な世界で二人を出会わせるように見えます。
「なぜ、この二人が出会ったか?」は、後半のお楽しみです。
 そして、「side」という単語に注目すると、「しめっ地やしき(The Marsh House)」の表側と裏側も非常に印象的な「side」です。

◆理想的なリンズィー家(The Lindsays)
 物語後半に登場する家族、子だくさんのリンズィー家がとっても素敵です。(前半にも一瞬だけ登場してます)
 愛情たっぷりに育てられた5人の子どもたちの明るさと、リンズィー夫妻の賢さと優しさが、物語の流れを良いほうへ良いほうへ導いていきます。
 一家の主リンズィー氏は学者さんということで、ジブリアニメに登場する「知的なお父さん」を連想させますね。
 そして、映画「魔女の宅急便」の老婦人を思い起こさせるのが、リンズィー夫妻の友人・絵を描く老婦人ギリー。
 ギリーから、「愛されることが成長するための大切な条件」という話を聞いたときの「じゃあ、うちの末っ子くんは、もうすっかりおじいちゃんになってるわ!ねぇ、お母さん!」という長女ジェインのセリフには、家族の愛情の深さと自信を感じます。
(岩波書店の日本語訳では「リンゼー家」となっていますね。「Lindsay」の発音は「リンズィー」が近いように思うのですが、日本語では「リンジー」「リンゼイ」とも書くようですね)

◆物語の舞台
 物語の舞台「リトル・オーバートン」のモデルは、「バーナム・オーバリー・ステイス(Burnham Overy Staithe)」というイギリス東海岸にある地域だそうです。(作品中にも、「バーナム」という地名は出てきます)
Norfolk, United Kingdom - Googleマップ
 上記のアドレスでは、バーナム・オーバリー・ステイス付近のいろいろな景色(風車・砂浜・海岸・草原・夕焼け)の写真を見ることができます。
 潮の満ち引きで景色がすっかり変わってしまう不思議な海辺の町と、満潮のときはボートで行くことができるという「しめっ地やしき(The Marsh House)」のイメージが、よく分かると思います。(本の挿絵とよく似ている場所がありますよ)

◆物語に出てくる植物
(1)「シーラベンダー(Sea Lavender) 」
 「シーラベンダー(Sea Lavender) 」という植物は、海水につかる土壌でも育つんだそうです。
可愛い紫の花がラベンダーによく似ています。
 イソマツ科で、英語では「Limonium」。別名「マーシュローズマリー (Marsh rosemary)」 とも言うそうですから、まさに「しめっ地(marsh)」に生えているんですね。
  ・イソマツ属 - Wikipedia
  ・Limonium - Wikipedia(英語)
(2)「Samphire(あっけし草)」
 本の中ではピクルス(酢漬け)で登場する「Samphire(あっけし草)」。
  ・Samphire - Wikipedia(英語)
  ・アッケシソウ - Wikipedia
 きれいな明るい緑色で「海のアスパラ」ともいうそうです。ほんのり塩味で、茹でて食べるようですよ。
(3)「marram grass (マラーム草)」
 「marram grass」は、砂浜に生えるイネ科の植物です。背が高くて、ちょっとススキに似ています。
  ・Ammophila (plant) - Wikipedia(英語)=European Marram Grass
 アンナとマーニーが寝転んだりした砂丘や堤防に生えている草がこれなんでしょうね。
日本語訳では「マラーム草」ですが、発音記号を見ると「マーラム」のほうが近いかな。画像も「マーラム草」で検索したほうがたくさん出てきます。

◆「ワンタメニー」(Wuntermenny)
 不思議な名前のおじいさん、「ワンタメニー」。
名前の由来は「one-too-many」、日本語では「あまりっ子」と訳されていますね。「one-too-many」だなんて、11人目の子どもに「もうたくさん!」ってことなんでしょうねぇ。
 無口で孤独なワンタメニーじいさんですが、物語の中ではなかなかの重要人物です。
◆「mackintosh」「mac」
 英語版に登場する単語「mackintosh」「mac」。マッキントッシュといえば、アップル社のパソコン(Macintosh)や、リンゴの品種(McIntosh)が有名ですが、この物語では「レインコート」のこと。
「本は、あなたのmacのポケットに」というセリフで、「?」となってしまったのですが、スコットランドの科学者マッキントッシュ氏が開発したゴム引き(防水生地)のレインコートを、開発者の名前をとってこう呼んだようです。

◆「Hold fast that which is good(良きものをしっかりつかめ)」
 錨(anchor)の模様の刺繍の額の中に、刺繍で書かれた言葉「Hold fast that which is good(良きものをしっかりつかめ)」。
これも「伏線」なんて言ったら「考えすぎ!」って言われちゃうでしょうか?
 アンナが出会う「良きもの」。物語を最後まで読んでから、この額の言葉を思い出してみてください。

<参考リンク>
映画「思い出のマーニー」2014年夏全国ロードショー - スタジオジブリ
 スタジオジブリの映画「思い出のマーニー」公式サイトです。
 舞台は北海道、アンナは「杏奈」になっているそうですが、美術監督・種田陽平の創る、湿っ地屋敷の「しめっ地やしき(The Marsh House)」の絵が素敵なので楽しみになってきました。
Scenic Norfolk
 物語の舞台、ノーフォークの写真・画像がたくさんのサイトです。
Norfolk - National Trust
 英国ナショナル・トラストのノーフォークを紹介するページ。
 ナショナル・トラストが管理する風車の写真があります。
Burnham Overy Staithe Windmill - Wikipedia(英語)
 バーナム・オーバリー・ステイスの風車についてのウィキペディアのページです。1816年建築だそうです。
連続講座 スライドで楽しむ物語の世界 第2回 『思い出のマーニー』 - 宇都宮子どもの本連絡会
 ノーフォークの写真や、物語の舞台を歩いた先生のお話が非常に興味深い、とても素敵な読書会の様子が伝わるレポートです。参加してみたい!
※少し結末が分かるような感想の記載がありますので、まだ読んでいない方はご注意を。
「野中くん発 ジブリだより」 3月号 - スタジオジブリ
「思い出のマーニー×種田陽平展」
 7/27(日)~9/15(月・祝) 江戸東京博物館にて開催されるそうです。

<追記>
 単行本の『特装版 思い出のマーニー』が岩波書店から発売されました。作者の長女によるあとがきと、河合隼雄氏による「『思い出のマーニー』を読む」が収録されているそうです。装丁は、中嶋香織さん。挿絵は原著・少年文庫版と同じペギー・フォートナムのものです。
 文学全集の中の1冊のような、高級感ある装丁は大人の本棚にも似合いそうです。
『特装版 思い出のマーニー』
ジョーン・G・ロビンソン 作/松野正子 訳
岩波書店


 さらに、新潮社と講談社からも日本語版と英語版の文庫本が出ました。日本語版は新訳です。
『思い出のマーニー』
ジョーン・G・ロビンソン/著 高見浩/訳
新潮文庫 新潮社

『When Marnie Was There 思い出のマーニー』
著者: Joan Gale Robinson(ジョーン・G・ロビンソン)
講談社 KODANSHA ENGLISH LIBRARY

 英語の原文を楽しめる英語文庫です。難しい単語や表現については巻末に注釈があるそうです。(TOEICレベル 450点~)

<追記2>
 角川つばさ文庫から可愛い表紙の『思い出のマーニー』が出ました。
『新訳 思い出のマーニー』
ジョーン・G・ロビンソン/作 戸部淑/絵 越前敏弥/訳 ないとうふみこ/訳
角川つばさ文庫 KADOKAWA角川書店

 「小学上級」ということなので、小学校の高学年から読めますね。絵もアニメ風の可愛らしいものになっています。
347ページということですから、なかなかの厚み。夏休みの読書にいいかもしれませんね。
 同じ翻訳者で大人向けの新訳も、角川文庫から出ていました。
『新訳 思い出のマーニー』
著者:ジョーン・G・ロビンソン
訳:越前敏弥 訳:ないとうふみこ
角川文庫

 こちらは、「しめっ地やしき」を描いた表紙イラストが素敵です。
コメント (2)
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