一、生死を知って楽しみある事をたしかに知るべし。
それ生者必滅の理、口に知って心にしらず。小年はやく過ぎ去って、頭に霜をいただき、額になみをたたみ、五体、日々におとろえ、露命、朝夕にせまるといえども、さらに驚く心なし。去年は今年に移り、春すぎ、秋来たれども、飛花落葉の理をわきまえず。石火電光、目の前なれども、無常幻化なる事をしらず。
まことに衣鉢をくびにかけ、出離に道に入りて、諸方、空なる理を修行する人もついに常住の機はなれがたし。さればこの身を全たしと思うゆえに、日夜の苦しみ、やむ時なし。まことに身を思う人ならば、速やかに身を忘れよ。苦患、いずれの所より出るや。ただこの身を愛する心にあり。とりわけ武士の生涯は、生死をしらずば有るべからず。生死をしる時は、おのずから道あり。しらざる時は、仁義礼智もなし。(盲安杖)
苦しみから逃れて楽に生きるには、生死について考えなさい。としをとって体が衰えても、生きとし生けるものは死ぬことを知らない。
出家した身でありながら、いつまでも変わらず生きていたいと願うので、夜の苦しみがおさまることはない。自分の身は仏様からの預かりものと心得て、自分の体に対する執着を離れなさい。