※この記事は以前公開しました。
🍓皆さんの中には、股関節痛の強さが日によって異なったり(日差変動)、一日の中でも股関節痛の強さが異なったり(日内変動)する方が多いと思います。
仮に、骨と骨が当たって股関節痛が出ると考えるのであれば、股関節痛に日差変動や日内変動があることへの説明ができなくなります。
例えば、朝の歩き出しに強い股関節痛があっても、動き出せば股関節痛が和らいでいくというケースの場合、歩き出し時も歩き出した後も骨と骨が当たるような同じ力が加わっているのだから股関節痛も一定でなければ説明がつかないわけです。
朝起きた時は骨と骨が当たって痛いけど、歩いているうちに骨と骨が当たっても痛くなくなるのですか?
それとも、歩いているうちに骨と骨が当たらなくなるのですか?
矛盾だらけです。
皆さんの多くは、足を床に着けなかった経験をお持ちの方は多いでしょう。
レントゲン写真だけを見せられる診察を受けた経験のある方は、レントゲン写真に写っていた骨と骨が当たって股関節痛が出ているイメージを持たれることでしょう。
しかし、股関節痛は常に一定ではないのです。
さらに、股関節の隙間である軟骨には痛みを感じる神経は無いし、骨にも痛みを感じる神経は非常に少ないです。
では、皆さんはなぜ床に足を着けることができない時があるのでしょうか?
人が足を床に着いた時、脚の筋肉群は一斉に収縮します。
これは皆さんが無意識に行っている反射です。
もちろん、この時股関節に関する22本の筋肉も一斉に収縮します。
股関節に関する22本の筋肉のうち1本でも強い筋・筋膜症候群になっていると、足を床に着いた途端その筋肉も反射的に強い収縮が起こります。
病気の筋肉が強く収縮する時に強い痛みが出るわけです。
しかし、歩き出して血流が改善した時には一時的に筋肉の痛みが和らぐことがあるのです。
そして、歩き疲れると、筋・筋膜症候群になった筋肉は持久力も低下しているので、筋肉の限界を迎え再び股関節痛が出ることがあるのです。
また、歩き疲れた時、少し休むと血流も改善され、再び歩けることがあるのです。
このような股関節痛の変動は、骨や軟骨では説明がつかないのですが、筋肉で考えると説明がつきます。
足を床に着いた時に痛むようなら、その原因筋と思われる筋肉をほぐして正常化すると改善することがあります。
もしも、股関節に炎症がある時は、その効果は長続きしないかもしれませんが、股関節の炎症が無い時は劇的な長期的効果を示すでしょう。
股関節関節包内に強い炎症がある時期は、『足を床に着けられない!』時期は長く続きます。
しかし、その炎症もいずれは改善するのです。
※この記事は以前公開しました。
しかし、項目的にここに記載するべき記事でしたので、ここに移転し公開しました。
🍓股関節は英語で HIP JOINT と呼ばれます。
直訳すると『お尻関節』ですね。
ということは、変形性股関節症はお尻の中の方にある股関節に変形が起こるということになります。
皆さんの中には、お尻は脂肪だけでできていると感じている方もいるかもしれませんが、実はお尻のほとんどは筋肉です。
お尻には表層に大殿筋という大きな筋肉がありますので、この大きな筋肉もお尻の軟らかさを作っているのです。
筋肉は力を抜いた時は非常に軟らかいものです。
赤丸が表層にある大殿筋。
青丸が大殿筋をはがした深層にある深層外旋六筋。
深層外旋六筋のさらに深層に股関節がある。
表層の大殿筋の奥には小さな筋肉がいっぱいあります。
深層外旋六筋(しんそうがいせんろっきん)と呼ばれる筋肉群です。
深層外旋六筋の奥に股関節がありますので、股関節に異常が発生するとまずダメージを受けて筋・筋膜症候群になり股関節痛を生じやすいのが深層外旋六筋のような深層にある筋肉群になるわけです。
お尻は深いのです。
この深層にある筋肉群を正常に戻すには、どうしても深くまで届く圧力で筋肉をほぐすことが必要なのです。
🍓変形性股関節症患者の股関節痛の経過を調べた結果は、まさに炎症の経過と一致しました。
決して右肩上がりの進行的な退行変性の経過ではありませんでした。
現在の皆さんはどの段階にいるのかを考えることが重要です。
考えるにあたって非常に参考になる点があります。
1、子供の頃に股関節疾患で病院にかかったことがあるのか?
2、初めての股関節痛を感じてから長期間経っているか?
この2点に当てはまるとすでに上図の炎症のピークを過ぎている可能性が高くなります。
炎症のピークを過ぎていても、筋肉の病気の重症化で股関節痛が残る場合があるので(炎症の後遺症)、そのような方は筋肉への治療で股関節痛が改善する可能性が高くなります。
2、初めての股関節痛を感じてから長期間経っているか?についてですが、長期間の判断は個人差があって難しいですがおおよそ5年間と考えるといいと考えています。
皆さんの股関節痛は進行性ではなく、放物線状の炎症の山の経過を示します。
最近初めて股関節痛を感じた方々は、まだ炎症の山を昇っている時期かもしれません。
この時期は同時に股関節の動きが悪くなる時期です。
この時期の方も筋肉を軟らかくして、股関節の動きが硬くなるのを防いでください。
炎症には筋トレは厳禁です。
足首を捻挫した時、足首の筋トレをする人はいません。
風邪をひいているときに、筋トレに励む人はいません。
どうか、生活上の活動量を抑えつつ、筋肉をほぐしてください。
ある程度筋力は落ちますが、この時期は筋力が落ちるのが普通ですし、変形性股関節症はどんどん筋力が落ちる病気ではありません。
股関節痛が炎症の山を越えた時、股関節痛が徐々に改善していくのを実感することでしょう。
そうなると徐々に活動量が上り、筋力は自然についてくるものです。
炎症の山の向こうに希望あり。
焦らずに山を越えましょう。
🍓炎症の正体は、悪者ではなく身体に起こった異常を治そうとする治癒力です。
実は正義の味方なのです。
しかし、身体に起こった異常を治す過程は痛いですよね。
この時、身体にはどのような反応が起こっているのでしょうか?
人の身体は異物が入ってきた時や損傷を受けて傷ついた時などに炎症を起こし炎症物質を体内に放出します。
結果的には、その放出された炎症物質が異物を退治したり、骨や軟骨のダメージを修復するのです。
風邪をひいた時に、治癒への過程で熱が出たり喉が痛くなるのも炎症の仕業ですね。
骨や軟骨に関しては、治癒への過程で骨や軟骨の形が変わります。
この過程を『変形』と呼んで悪者のイメージを持つのか、『修復』とよんで正義の味方のイメージを持つのか、ここが変形性股関節症の診療に対する大きな分岐点です。
このイメージの持ち方によって、レントゲン写真の見方が変わるのです。
同じレントゲン写真なのにね。
不思議でしょ?
皆さんにご理解いただきたいのは、多くの先生方は『変形』という悪いイメージをもって診療に当たっているということです。
可能であれば、皆さんには『修復』という良いイメージを持っていただきたいです。
炎症時に放出される炎症物質は、炎症メディエーターと呼ばれます。
炎症メディエーターは、損傷された組織および炎症部位に染み出てくる白血球や肥満細胞、マクロファージなどから放出される生理活性物質と言われています。
炎症メディエーターの種類としては、ブラジキニン・セロトニン・ヒスタミン・プロスタグランジン・ロイコトリエン・インターロイキン・TNF-α・血小板活性因子・リゾソーム酵素・一酸化窒素・活性酸素などがあります。
これらの物質は、痛みを誘発したり、一時的に組織を破壊する作用がありますが、それは治癒に向かう過程なのです。
🍓皆さんが足首の捻挫をした時、足首周辺には何が起こりましたか?
足首が腫れ、足首が痛くうずき、足首が赤く熱を持ち、内出血を起こして、足首を動かせなくなり歩けなくなるでしょうね。
これらの症状は、一般的に炎症の五徴候(ごちょうこう)と呼ばれています。
【炎症の五徴候】
1、発赤
2、腫脹
3、疼痛
4、熱感
5、機能障害
これは足首の『捻挫』によって足首に炎症が起こっている状態です。
この炎症は、足首の関節を守っている靭帯、関節包というレントゲンには写らない軟部組織に起こるでしょう。
また、炎症が強い場合、その炎症は筋肉にまで及んでいるでしょう。
足首の捻挫と同様に、股関節にも捻挫は起こります。
足首や膝の場合は関節が皮膚から浅い位置にありますので、炎症の症状は皆さんでも簡単に目で確認することができるでしょう。
ところが、股関節はお尻の奥深くにあるので炎症を実感しづらい関節です。
一般的に『リウマチ』と呼ばれる慢性関節リウマチの場合、全身に炎症が起こりますので血液検査で炎症を確認できます。
ところが、変形性股関節症の場合は、股関節という非常に限られた狭い部位の炎症ですので血液検査では炎症が確認できません。
そのような理由から一般的には『慢性関節リュウマチは炎症性だが、変形性股関節症は非炎症性である』と考えられてきました。
変形性股関節症は非炎症性、つまり変形性股関節症は炎症が起こらない病気だと考えられてきました。
現在でも多くの先生はそのように考えていると思いますが、『炎症』という言葉を使う先生が増えてきました。
患者さんの経過を聞くと、確かに炎症が起こらなかったであろうと判断できる患者さんもいます。
しかし、多くの患者さんの股関節痛の経過を追跡すると、その経過は炎症性の病気の特徴そのものでした。
股関節の炎症は血液検査で出にくく、股関節が深部にあるので触診にて炎症を確認しづらいという特徴が、変形性股関節症=炎症性という考えを否定する要因になっているのだと私は考えています。
炎症は痛いです。
股関節痛がピークの時のあの痛みの強さは、骨と骨が当たった痛さではなく、炎症による痛みだとしか私には考えられません。
🍓ここまでも股関節痛の原因については少し触れてきましたが、ここで明確に書くことにしましょう。
股関節痛の原因
1、股関節関節包の炎症
2、筋肉の病気
私はそのように考えています。
どちらの原因もレントゲン写真には写りません。
そして、レントゲン写真の中に股関節痛の原因は写らないと考えています。
股関節痛の原因は、レントゲン写真を見る限り骨と軟骨の変形が原因の様に思われます。
しかし、股関節痛の原因が骨と軟骨だとすると矛盾が多すぎるのです。
その矛盾への考察が重要だと感じ、20年以上考え続けてきました。
何らかの原因で痛みを感じる神経が多い股関節関節包に炎症が起きると、その炎症は関節包の近くにある靭帯や深層筋にも炎症は広がるかもしれません。
神経の多い筋肉は、この炎症の影響を強く受けて硬くなり、縮まろうとします(筋の短縮)。
そこに筋肉疲労も加わわり、筋肉は病気になっていきます。(筋の硬結)
股関節関節包に炎症がある時期は、同時に筋肉も病気になり、股関節痛が増大します。
この時期は、神経が多い二種類の軟部組織に起こる二種類の痛みが重複する一番つらい時期です。
しかし、炎症は治る症状ですので、炎症の改善に伴って股関節痛は改善します。
股関節痛に点数を付けた時の経過は、進行的な右肩上がりの経過ではなく放物線状の経過となった。
炎症が全く無くなると、股関節痛も全く無くなることが多いのですが、炎症の後遺症としての筋肉の病気が残る方もいます。
炎症が全く無く筋肉の病気だけ残っている時期は、無理をすると股関節痛が悪化し休むと股関節痛が改善するということが起こります。
しかし、股関節痛の基本となる関節包の炎症が無く股関節痛の原因は筋肉の病気だけですので、筋肉をしっかり軟らかくほぐすと急激に股関節痛は改善します。
この考え方で全ての矛盾が解決しました。
医学的根拠には、経験を重視した直感的根拠、動物実験や遺伝子実験を重視したメカニズム根拠、統計学の手法を用い人のデータを定量的に分析することを重視した数量化根拠の3つがあります。
現在は数量化の方法が最も優先されるべき科学的根拠となっています。(1992年~ EBM:科学的根拠に基づいた医学)
EBMは人類を救った面はありますが、変形性股関節症の診療には矛盾が多すぎると感じました。
そこで、股関節痛の程度に得点をつけてもらい、患者の主観ではありますが股関節痛を数量化してみると、決して進行性ではないという思わぬ結果となったのです。
🍓股関節痛の原因を考える前に、痛みを感じる神経はどの組織にあったのかを振り返ってみましょう。
第二章股関節の中の話では、軟骨と骨と関節包について書きました。
マウスの大腿骨を使った研究の結果、痛みを感じる神経の割合は骨膜(関節包)を100とした時軟骨0、骨0.1という割合でした。
(Castañeda他 Neuroscience 2011)
この結果をわかりやすく書くと関節包に1000本の痛みを感じる神経があった時、軟骨には神経は全く無く、骨自体には1本の神経があるということになります。
いかに関節包に神経が多く、骨自体に神経が少ないかを説明しましたが、レントゲン写真に写るのは骨と軟骨だけでしたね。
第三章で関節の外の話では靭帯と筋肉、主に人体のおよそ40%を占め大小含めて約600を越える筋肉を包む筋膜に神経が多いことを書きました。
そして、その筋膜は筋肉の表面だけでなく、筋肉の中にも存在することを書きました。
もちろん、靭帯が原因の股関節痛もあるでしょうが、靭帯量に比べて筋肉量が圧倒的に多いので筋肉の重要性を書きました。
靭帯も筋肉もレントゲン写真には写らない軟部組織ですね。
痛みを感じる場所は脳です。
痛みを感じる脳までつながっている神経が、どの組織に多いのかを考えないと股関節痛の原因を追究することはできません。
脳から始まる神経の経路をたどり、骨の中に脳からつながった神経がどのように入り、骨の中でどのように延びているのかということを調べてもその詳細について書かれた書物を見つけることはできませんでした。
脳から始まる神経の経路をたどると、骨の一歩手前の骨膜(関節包)までの経路について書かれた本はあります。
しかし、その骨膜(関節包)からどの程度の本数の神経がどの経路を通って骨の中に入っているのかについて書かれた書物が見つからないのです。
しかし、医療現場では堂々と自信をもって「骨と骨が当たるから股関節痛が出るのです。」と説明されます。
股関節痛があるのは事実、骨に変形があるのも事実。
そうだからと言って股関節痛=骨の変形と言い切れる証拠がないのです。
何かが傷つき傷んだとき、そこに神経があるのかどうかで痛みが出たりでなかったりします。
例えば髪が傷ついた時、または爪が傷ついた時、皆さんは痛いと感じますか?
股関節痛があるのは事実、骨が傷ついているのも事実。
しかし、骨に重要視するほどの神経が無い限り、骨は股関節痛の原因ではないと考えるのが普通です。
私達が一緒に勉強会をしている整形外科医の坂井学先生は「骨の手術をする時、骨の表面にある骨膜には麻酔薬を使いますが、骨の中の手術には麻酔薬は使わないのが普通です。」、「骨に神経はありません。」とおっしゃっています。
私は、骨の中の痛みを感じる神経の様子がはっきりしない限り、股関節痛の原因を骨の変形だと考えることはできません。
骨の変形が無いのに股関節痛を強く感じる人がいます。
骨の変形が重度なのに股関節痛が全く無い方もいます。
股関節痛は日によって変動します。
これらの事実からも、私は股関節痛の原因を骨の変形だと考えることはできません。
今まで第一章変形性股関節症の話、第二章股関節の中の話、第三章股関節の外の話を書いてきました。
ここからは第4章股関節痛の話→第五章深圧の話となります。
🍓現在、股関節痛の原因はレントゲン写真に写る軟骨と骨、つまり『軟骨のすり減り』『骨の変形』が股関節痛の原因と考えられていると思います。
そして、股関節痛は軟骨のすり減りと骨の変形が進行的にどんどん悪化してくというイメージです。
しかし、患者の長期間にわたる股関節痛の程度を患者本人に点数付けしてもらうと、そのイメージとは全く異なる結果となりました。
もちろん、個人差が大きな病気なので様々なタイプがあり、もちろん股関節痛の経過にも大きな個人差がありました。
股関節痛といってもその程度に個人差はありますし、痛みの感受性にも個人差があります。
この章では股関節痛の原因を明確にして、その対策について考えます。