息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

モダンタイムス

2013-07-31 10:45:22 | 著者名 あ行
 


伊坂幸太郎 著

主人公のシステムエンジニア・渡辺拓海は、失踪した社員のプロジェクトを
引き継ぐように命じられた。
その日から周囲に不穏な空気が漂い始める。
行方不明の先輩、同僚の誤認逮捕、浮気を疑われた男の家の火事。
それがどうした、と思うようなバラバラの出来事なのだが、そのどこかに
関連性を感じずにはいられない。

これらに関わった人々に共通しているのは「検索」。
パソコンである言葉を検索すると、大きな渦に巻き込まれてしまう。
それはなぜなのか、渡辺と同僚、そして彼の妻、行方不明のはずだった先輩社員までも
加わった謎の解明がはじまる。

スピーディに走り抜けるように進む物語は、長編であることを忘れさせてしまう。
魔王』の続編として書かれているのだが、読んでいなくても十分面白いけれど、
読んでからならさらに面白い。
ちょこっとした言葉の裏の意味とか、登場人物の心の動きとか、別に本筋には関係ないが、
わかるとより楽しめたり、ストーリーが理解できるからだ。

大きな組織の怖さとか、システムを使った監視とか、いかにもそこにありそうな恐怖が
じわじわと迫ってくる。
考えてみれば、犯罪現場の動画が瞬時にニュースに流れるなど、20年前に誰が想像しただろう。
それだけ記録されているということは、監視や干渉が行われても不思議はないのだ。

それにしても全速力で走りきったような読後感。
疲れたけれど、これだけひきつける文章はさすがだ。

そして誰もいなくなる

2013-07-30 10:17:18 | 著者名 あ行
今邑彩 著

名門天川学園の創立祭で、演劇部はクリスティの『そして誰もいなくなった』を上演した。
しかしその本番で、役柄そのままの服毒死が起こってしまう。
もちろん芝居は中止されたが、それから台本通りにそれぞれの役を演じるはずだった生徒が
殺されていく。

演劇部部長・江島小雪と顧問・向坂典子は、部の存続のためにも、部員の身を守るためにも
事件の謎を解こうする。
しかし、意に反して殺人は次々と進み、ついに次は江島の番になってしまった。

とてもテンポがよくて読みやすい作品。
だが、どんどん変わり、やがてどんでん返しを迎えるストーリーはとっても説明しにくい。
即ネタバレだし。

ちょっと古い作品なので、小さな違和感がエピソードのそこここに出てしまうのだが、それでも
女子高生という揺れる心と、あふれるパワーをもつ年代をとてもうまく切り取っている。
部活に打ち込みながらも、私生活に心を悩ませていたり。
将来への漠然とした不安に苛まれていたり。
誰にもいえない小さな秘密が、いつの間にか増幅して力をもち、運命をも左右する恐怖。

ここに彼女たちとさほど違和感を感じない、若い女教師を配したことが効果的だ。

謎解きはやや後味が悪いものの、殺人の意味は明確にされる。
クリスティを読んだあとだと、より楽しめることは確実だ。

犬神家の一族

2013-07-29 10:53:41 | 著者名 や行
横溝正史 著

何度も映画化、ドラマ化されているので、知っている人は多いはず。
でもやっぱり文章として読んだほうがじっくり謎に取り組めて楽しい。

信州財界ではならぶものがいない犬神佐兵衛が死んだ。
その莫大な遺産を巡り、骨肉の争いが始まる。

犬神佐兵衛は正妻がおらず、腹違いの娘が3人いた。
しかし彼女たちの関心は遺産のみ。唯一彼の死を悼んでいたのは恩人・野々宮大弐の孫娘
珠世だけだった。

注目が集まった遺言状の公開で、犬神家の家宝“斧(よき)・琴・菊”が珠世に
譲られることが宣言される。それはすなわち相続権を意味した。
そして遺産は珠世が選んだ婿に与えられることとなった。
候補者は3人。
長女松子の息子・佐清(すけきよ)、次女竹子の息子・佐武(すけたけ)、三女梅子の息子佐智・(すけとも)。

佐武は殺害され、珠世に疑いが向けられる。
血で血を洗う相続争いが始まった。

もっとも印象深いのは“斧・琴・菊”にちなんだ見立て殺人や、戦争でけがを負った佐清のマスクで
あろうか。
ショッキングな映像が続き、物語はスピーディに進んでいく。

いつも夏休みになると、こういう怖い映画のコマーシャルが流れていた。
心の準備がないときに見ると相当ショッキング。
特に一人で起きている夜中は嫌だったなあ。

その怖さに打ち勝つために、原作を読んで解決を知るというのが、その頃の行動パターンだった。
映画はあとでTV放映されたときに見たものが多い。
どっちにしても怖がりの私、劇場では無理だった気がする。
どんなに怖くても文章ならわりと落ち着いて読めるんだけど、不思議なものだ。

ぽっぺん先生の日曜日

2013-07-28 10:53:33 | 著者名 は行
舟崎克彦 著・画

夏休みだなあ。
このあたりはすごく子どもが多いので、大変にぎやかである。
我が子ですら大人になり、あんな暮らしも遠くなってしまったが、
いろいろと思い出すのがこの季節。

小学生の頃は図書館で本を借りて読むのが楽しみで、
バスに乗って週一回は通っていた。
そして一番のお気にいりといえば「岩波少年文庫」。
ファンタジーを初めて手にとったのはきっとここだ。

借りるっていうのはいいことなんだよなあ、と最近改めて思う。
というのも、新しい図書館ができてアクセスがよくなり、
ときどき行くようになったから。
買う、と借りるでは、選ぶ基準が変わるし、いつもと違う種類にも
挑戦しやすい。
ブックオフなどの古書店にもずいぶんお世話になっているのだが、
やはり偏りを感じることは多いし、目的がある場合探しづらい。
ネット書店も素晴らしいが、いかんせん立ち読みができない。
ここに図書館という選択肢が加わることで読書生活が豊かになった。

ぽっぺん先生シリーズも、買おうとしたら親に止められていたかもしれない。
絵がかわいくて子どもっぽいものは嫌がられることが多かったから。
しかし、借りるのは本当に気ままで気軽だし、そして出会えてよかったのだ。

ぽっぺん先生は冴えない大学助教授。日曜日はベートーベンを聞きながらだらだら過ごす。
片付けものの途中で見つけた、子どものころのなぞなぞ絵本に入り込んだことから
冒険が始まる。
物語に入り込むっていうのが、当時の私にはツボ。本当にのめり込んで読んだ。
そして一緒になぞなぞを解いていった。

プールの塩素の匂いとか、むっとする草いきれとか、蝉時雨とか。
そんなものとともに、あの夏の時間がふっと蘇る一冊だ。

太陽の東月の西

2013-07-27 10:30:53 | 著者名 あ行
アスビョルンセン 著

ノルウェイの民話をもとにした物語。
登場するのがシロクマっていうのがすごい。
トロルも出てくるし、東風、西風、南風、北風も重要な役割をもつ。

「太陽の東月の西」というのは「この世にはないどこか」にあるお城の名である。
言葉が違っても、素敵な表現って共通なのだろうか。
美しいタイトルに心を惹かれたわけだが、きっとここにある“太陽”は
私が感じる以上にあたたかく大切なものであり、“月”は長い闇を照らす
代え難いものなのだろうな。

ストーリー自体は美女と野獣を思わせ、愛や知恵によって幸せをつかむという
教訓めいたものも含んだ、まあ端的に言うとありがちなお話だ。
しかし、行間には北欧らしい透明感がある。
そして、戦うのはお姫様であるっていうのもいい。

カイ・ニールセンの挿絵が本当に美しいのだけれど、残念ながらこれは絶版。
大人の鑑賞に耐える素晴らしいものなのに無念だ。