息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

妖都

2014-11-28 15:07:02 | 著者名 た行
津原泰水 著

とりあえず、読後感は「え~っ! これってアリ?」
何も始まらず、何も終わらない。
いや始まったかもしれないけど、何が始まったかはよくわからない。

人間ではなく死体でもない「死者」が東京を闊歩し始める。
そのきっかけは両性具有のシンガー・チェシャが自殺したことだった。
彼が遺した歌「妖都」はヒットチャートを上昇し、人々は「死者」に
襲われて不可解な死を遂げていく。

登場人物の中には出てきただけで、よく役割がわからない人もいるし、
いろいろな材料をぽんぽん渡されて、
放置された感じ。

すべてをすっきり終わらせず、謎は謎のままというのもいいけれど、
本書に関してはちょっとやりすぎ感が否めない。

犬はどこだ

2014-11-27 14:57:15 | 著者名 や行
米澤穂信 著

東京での仕事を病気で断念した紺屋は、故郷の町で犬さがし専門の調査事務所
「紺屋S&R」を開設した。
幸先よく初日から依頼者が現れたが、なぜかそれは人探しだった。
間をおかず、次に現れた顧客からは古文書の解読を依頼される。
押しかけ従業員のハンペーに古文書の件を託し、人探しに走り回る紺屋。
しかし、これは単純なものではないことがわかってくる。

小さな町だけに、ささやかなことも関係してくるのがリアル。
そして誰が何をしているか、すぐにバレバレになってしまうのも。

いいかげんなコンビに見えるのだが、なかなかに仕事の能力は高い。
また、ブレーンであるネット仲間も優秀だ。

失踪していた女性は、ストーカーから逃れるためであったことがわかり、
そこに古文書に描かれた情報が絡んでいたことが判明したとき、
紺屋は新たな事件を発生させないために走る。


しかし、時は遅かった。
初めての依頼は終了し、そして紺屋は刃物を携帯するようになった。

何とも後味の悪い、そしてせつない結末だ。

象牙色の眠り

2014-11-26 14:37:38 | 柴田よしき
柴田よしき 著

京都の高級住宅街でつぎつぎと起こる殺人事件。
人もうらやむ豪邸で、退廃的な暮らしをする家族たちを、
家政婦の視線から見つめ、語る。

主人公は夫の経済的失敗のために家政婦として働く瑞恵。
夫の浮気を知り、絶望感を抱いている。

そんな中で起こる殺人事件。疑惑をかけられる瑞恵。
まあこのあたりから、犯人はなんとなくわかり始める。

読み進めていく過程で、瑞恵の思い込みの激しさや
話の整合性のなさに結構うんざりした。
いや、それがストーリーには重要な要素なんだけどね。

ラストは何とも後味の悪い感じ。
絡んでいるのが少年だけに、未来を案じてしまう。
その一方で、金があるってすごいことだなあとも思う。

面白くないわけではないのだが、なんとなく心が重くなった。

そして扉が閉ざされた

2014-11-25 14:25:48 | 著者名 あ行
岡嶋二人 著

著者を見ればわかるけれど、ちょっと古い。
だから多少違和感はあるかもしれない。

自殺した女性・咲子の母親に呼び出された男女4人。
出されたジュースを飲んだあと、気が付くとそこは密室の中だった。
咲子の死に疑惑を抱き、4人を疑っての行動らしい。
そこはどうやら咲子の家の別荘に作られた核シェルターの中で、
音も光も漏れず、人里離れている。
中には水とカロリーメイトが用意されていた。

4人はお互いに自分は殺していないと言い合う。
そして咲子が死んだときの様子を語り合う。
たくみに隠されていた事実が判明したり、エキセントリックな咲子への
感情が吐露されたり。
そして脱出への挑戦も進む。

最後の希望であった出口の外側が、コンクリートを流し込んで密封されている
事実に気づき、外部からの電力供給が止まったとき、お互いの話の中から
これまでわからなかった新事実があらわにされた。

本格推理という呼び名にふさわしい読み応えがある。

しかし、カロリーメイトとアルファロメオという単語が数限りなく出てくるのに
びっくり。

レクイエム

2014-11-17 11:03:34 | 著者名 さ行
篠田節子 著

異世界への扉はいたるところにある。
それが平凡で地味な暮らしであればあるほどに、落差は大きい。
どれも甲乙つけがたい深みのある5編がおさめられている。

物語の完成度もさることながら、登場人物たちの暮らしぶりの描写の
細やかさに驚く。
ノンキャリアとキャリアの公務員の書かれ方などすごい。
そして、当然の権利とはいえ、産休育休をフル活用して、
ほぼ職場にいない職員の存在も。
これって実際に10年勤続ながら、実際現場にいたのは1年にも満たないという例を
知っているだけにしみじみした。
制度があるのも権利が守られるのもいいのだが、支える人もフォローしてっていう。
いや本題とは関係ないのだけど。

表題作は太平洋戦争時の悲惨な体験を描いたものだが、実際にガダルカナルなどでは
戦いどころか、ただ餓死があるのみだったという。
一人の兵が戦うためには、その背後に2人のスタッフが控えるべきだと聞いたことがある。
確か米軍の話であったと思う。それは補給であったり医療であったりするわけだが、
太平洋戦争時の日本はそれらをすべて根性で解決しようとしていたようだ。
国からすら見捨てられた極限状態の経験は、生きた者も死んだ者も支配する。
何とも切なく後味が悪く、それでいて読んでよかったと思わせる話だ。

なんていうのか、さらりと感想を述べるなんてできそうにない。
こんなにひとつひとつが印象的な作品ばかりの短編集も珍しい。