息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

残穢

2015-01-24 10:23:46 | 小野不由美
小野不由美 著

その部屋は不審な音がした。
重い布が畳を引きずるような、そして不可思議な気配。
調べてみても何もない。
事故も事件も、そして近所の人も。
それなのになぜか住人はいつかず、次々と変わっていく。

そんなありがちな“町の怪談”みたいなものを
徹底的に掘り下げて調べてみたら何が出てくるのか。

ごく普通のマンションが建つ前、そこには何があったのか。
誰が暮らし、どんな町が形成されていたのか。
調べても調べても手掛かりはあまりに少なく、バブルを挟んで
土地は細分化されて、もとの持ち主はわかりにくい。
それを可能な限りのつてを求めてさかのぼり、突き詰める。

どんどんどんどん進んでいるのに、何もわからない過程が
とても怖かった。こういう怖い出来事って、何らかの理由付けが
されると安心できる。それが理由だったんじゃないかとこじつけられる。
だって、それなら自分は関係ないと思えるから。

そして小さなささやかな“つながり”が少しずつ見えてくる。
関係ないかと思えるようなそのつながりは、実は大きな意味をもち、
そしてさらに広がっていく。
……つながりたくないです。

怖いという意味では著者の作品でもナンバーワンかもしれない。
夜中に読んでちょっと後悔した。

黒祠の島

2012-01-15 10:47:48 | 小野不由美
小野不由美 著

屍鬼』があまりにおもしろかったので、もっと読みたいと思って探した作品。
しかし、残念ながらちょっと物足りなかった。

作家・葛木志保が失踪した。パートナーの式部剛は彼女の過去を探り、
“夜叉島”にわたる。ここは独自の神道を守る黒祠の島だった。
黒祠とは、明治政府の政策により統一された神道からはずれ、
弾圧されながらも受け継がれた宗教をいう。

孤島の中起こる連続殺人。因習にとらわれた島民の冷たい視線。
何とか解決へと導き、志保の失踪の謎を解こうとする主人公。

迷信と油断していると現実のものであったり、何気ない場面に秘密が
隠されていたり、小野不由美の力量がいかんなく発揮されている。

しかし、どうも登場人物がごちゃつきすぎていたり、謎や秘密の
内容があっさりしすぎていたりと、のめりこむにはあと一歩。
まあ、屍鬼があまりの大作なので、要求ばかりが高くなっているのかも。
あちらは5巻なのにこれは1巻におさめられているのだし。

決しておもしろくないわけではない。

魔性の子

2011-10-01 10:34:39 | 小野不由美
小野不由美 著

一日一更新をスタートして、まる一年が過ぎました。
読んでくださっている方、どうもありがとうございます。


「十二国記」のサイドストーリー。というよりも、壮大な物語の
ベースとなった作品といえるだろう。
一度「月の影 影の海」で触れたことがあるのだが、やはり
好きな作品なのでもう一度とりあげた。

舞台はごく普通の日本の高校。
そこで、違和感と生きにくさを感じる主人公・高里は、彼に対し何かを
すると報復されるという噂があり、敬遠されている。
そこに教育実習で来た広瀬は、どこか同じものを感じとり、彼をかばい
理解しようとする。
少しずつつながる二人の心。
正体のわからない異形のもの、不思議な出来事。
ここは自分の居場所ではないという強い想い。

しかし、結果的に二人の寂しさは全く異質のものだった。

行くべきところへといく一人。
そして、取り残される一人。

切ないラストには胸をつかれる。

自分は特別な存在だ、誰もがどこかに抱いている心理を鋭く突き、
そうでない寂しさが痛いほど残る物語だ。

屍鬼

2011-02-12 08:33:24 | 小野不由美


小野不由美 著

外と切り離された地形の小さな集落。
もう静かに滅びていくのかと予感させるようなこの地に、不思議な洋館が建つ。
そこから始まる恐怖の物語は、善と悪、敵と味方を曖昧にしていく。
排他的な人々は当然最初のうち、新入りの家族に否定的だ。
それをうまく取り込み、少しずつ入り込み、やがてはすべてが奪われていく。

不思議な死の連続、よみがえり、そして真実が暴かれると、そこは“狩り”の場へと
変わっていく。

文庫で5巻という長い長い物語なのに、まったく飽きさせない。
1巻、2巻までは、村里のほのぼのした感じや人々のつながりの温かみなどがある。
それを下敷きにしたうえで、次々と事実が暴かれ、戦い、争いなど激しい場面へと
変わっていくのだ。
実にドラマティックで、読みごたえ抜群。

生と死、人と鬼、重いテーマでありながら、エンターテインメントとしても完成
している作品だ。

月の影 影の海

2010-12-26 10:58:02 | 小野不由美
小野不由美 著

アニメでも有名な十二国記シリーズ、最初の巻。

何しろ壮大な世界観だ。トールキンを彷彿とさせる。
国とそこに住む民族の暮らし、言葉、そして不思議な植物。
ありとあらゆるものが見事に設定され、それなのに折々に
古代中国の雰囲気が香るせいか、違和感がまったくない。

ケイキという男に連れられ、海客となって功国にたどり着いた高校生陽子。
訳が分からないままに、知らない国をさまようことになる。

日々の違和感は、いるべき場所ではなかったから。
本来いるべきところに帰され、そこでの役割が始まる。

実はあまりの壮大さにこのシリーズを全部読めていない。
読むならちゃんと続けて読みたいと思ううち、忘れかけていた。
そろそろ読んでみようかな。

このシリーズの外伝『魔性の子』はこの『月の影影の海』の前編にあたる。
これがせつない。
やはり違和感を抱えながらであう二人が、実はまったく違う運命をもっていた。
理解しあえたようで、そうでなかった。その悲しさが息苦しいほどだ。