息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

くらら 怪物船團

2013-08-23 10:44:46 | 井上雅彦
井上雅彦 著

主人公・瞬介は、青柳教授の「偉業民俗学」の講座であだ名が“くらら”という那美と知り合う。
しかし俊介は教授とくららの関係を疑っていた。
そんなとき、クルーザーの事故が起こり、その名簿に“アオヤギクララ”の目を見つけた瞬介は、
矢も盾もたまらず房総の港町へと向かった。

海とともに生き、独自の文化を守ってきた港町はいま、大きな変化を遂げようとしていた。
異形の神がまつられている深淵神社、海から“まれびと”がやってくるという言い伝え。
そしてなんとも奇怪なサーカス団。
これはクルーザー事故に関係しているのか。
そして港の利権や裏取引など、黒い社会の気配もする。

とにかく要素盛りだくさんで、ホラーでありながら刑事ドラマだの呪いだの
都市伝説だの殺人だのスプラッタだの幽霊だのが、これでもかこれでもかと出てくる。
文章的にはあっさりと読めてしまうのだが、くどいと感じる人もいるかもしれない。

個人的には好きな要素が多いだけに、もう少し料理して欲しかったかな。


異形コレクション 酒の夜語り

2012-06-06 10:32:35 | 井上雅彦
井上雅彦 監修

これもちょっと前になるが「異形コレクション」シリーズ。
酒をテーマに23の物語が語られる。

全体的にゆったりとした刺激が少ない雰囲気だ。
大人の酒の楽しみ方、というべきか。
そしてなんとなく先が見えている感がある。
結果が分かっているのに落ちていくというか。
知っていながら罠にはまるというか。
酒の魔力に通じるのかもしれない。

もちろんさすがのシリーズだけあって、どれもこれも力の
こもった作品ばかりで、手抜きだという意味とは違う。

草上仁「秘伝」に含まれる皮肉と腐敗。
まるで世界のありようを凝縮したような、そして近未来の世界を
予言しているかのような作品だ。

南条竹則「八号窖」 。これは異文化の地ならではの妖しさと
人間の欲望を描き出している。

この二つが心に残った。

でもしみじみ思ったのは、私ってお酒が好きなんじゃないかも。
そういえばウイスキーもブランデーも苦手だし。
日本酒も飲めないし。
酒のみの境地を語ることはきっと一生ないであろう。
ビールは好きだけどね。

異形コレクション ひとにぎりの異形

2012-05-12 10:12:29 | 井上雅彦
井上雅彦 監修

2007年なので少し前になるが、異形コレクションが10周年を記念した巻。
お題は“ショートショート”。あの星新一氏の没後10年企画でもある。
実にその数81編+おまけ(マンガとかね)。
贅沢だ。

これだけ作品があるとバラエティも豊富。
ぞくっとくるもの、クスッとわらえるもの、そして読後しばらくして
じわじわくるもの。
まさに競作という感じで、実力と実力がぶつかり合い、磨きあう。
短い文章の中でしっかりと世界観を表現し、オチをつける技って
ほんとうにスゴイなあと思う。
自分の好きな作家がどういうものを出しているのか、ちょっと違う顔を
発見するという意味でも読み応えあり。

その一方で、やはり星新一って天才だと思った。
こんなに力がある作家たちがこんなにたくさんの作品を出してきても
あの面白さにはかなわないのだ。
高校生の頃、一時期はまってかなり読んだ星新一。
作品の数が多くても質が落ちないし、スパイスが効いているし、
どんどん読めて楽しかったなあ。

原点に帰る、という思わぬ方向性になってしまった。

異形コレクション 怪物團

2012-04-20 10:31:18 | 井上雅彦
井上雅彦 監修

いつものアンソロジー。
怪物團とはフリークスや見世物小屋など、裏に隠された影の世界を描きだす
いかにも異形コレクションの名にふさわしいイメージのタイトルだ。
とても期待して読んでみた。

さすがにこれレベルは高い。
どの作品をとっても平均以上というか、ひとつのテーマを提示された作家が
独自の料理をほどこして返してくる。
さすが!と思ったり、こう来たか? と感心したり。

好きだったのは上田早夕里の『夢みる葦笛』。
魚舟・獣舟』につながる進化の過程を見るようで面白い。
まさに異形へと進む人類の姿は、恐ろしさと哀しさに満ちている。
この人の世界観は独自に成長し続け、広がり続けているのだろうな。

岩井志麻子の『暗い魔窟と明るい魔境』では、かつての香港・九龍をモデルにしたと
思しき魔窟が登場する。紛れ込んだら二度と帰れない暗黒の世界と一見普通に見えて
怪物である人。いまはもうない巨大な暗黒の塊が殺された怪物のようにも思える。

全体的に好きというジャンルとはやや違ったものの、、
それでもはずれはない感じだった。

異形コレクション讀本

2012-04-12 10:44:34 | 井上雅彦
井上雅彦 監修

見つけたら必ず買うことにしている『異形コレクション』シリーズ。
本書は誕生10周年を記念してつくられた、ディープな別冊だ。

そう、ディープなのだ。
これまで紹介されたことのない秘蔵作品や、各分野の著名人からなる
異形コレクション検証、さらには監修者のプロファイリングまで。
もうこれでもかというほどのディープさである。

しかし、それがどうも苦手だった。残念ながら。
私は怖い話もホラーも伝奇小説も大好きなのだが、グロとか残酷な描写の
積み上げで作られた作品はあまり好きになれない。
物語のなかでそれが必然で、あくまでも一部として使われているのなら
まったく問題ないのだが、それが目的のようなそれで注目を集めようと
しているような作品には魅かれないのだ。
そしてそれを高く評価する人のおすすめっていうのもあまり読みたくない。
そして本書はそういうのが多かったのだ。

描写は衝撃的ながら、これは好きだと思ったのは鈴木知友の
『デュラハンの騎士がメデューサの姫君を救い出す』。
これは一般公募で次点だった作品らしい。一般?スゴイ。
日本の普通の高校を舞台にとんでもない話が展開している。

なんだかんだ言っても、これほどにマニアックなシリーズが10年も続き、
別冊も出て、一般公募からは次々と作家が生まれ……っていう事実に
驚愕です。
これって一大事業だよなあ。