息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

おとうと

2013-07-09 10:33:08 | 著者名 か行
幸田文 著

一見何の不自由もなく見える家庭。
それなのに愛情もつながりも極端に薄い関係。
そこで育つ子どもの哀しさとやりきれなさ。

誰が見ても問題があったり、親が不在だったりすれば、
まわりも納得がいくし、救いの手も差し伸べられる。
しかし、両親が揃い経済的にも困らないはずの家の中で、
手も目もかけてもらえないというのは救いがない。

この姉弟はそんな冷たい家の中でかばいあい、育っていく。
姉は様々な役割を押し付けられながらも、芯の強さで乗り越えてきた。
しかし弟にそれができないこともまた彼女にはわかっていた。

何度も頼んでも叶えられない傘の修理。
成長しても子どものときのままの着物。
そんな哀しい事実に気づくたびに、姉はできる限り手を尽くす。
それでも弟は次第に心を閉じ、悪い仲間を作っていく。

やがて幸せや安定をつかめないまま当時の死病・結核にかかってしまう。
病院に入り、治療をするが、つきそうのも世話をするのも姉のみという事実。
医師はあなたは保護者ではない、というがどうにもできない。
どこまでも孤独な弟のために、なにもかもを捧げる日々。

真実はどうだったのだろう。
父は治療費のためにも必死で働いていたのではないのか。母に対してもどかしさを
感じても、当時の考えでは男親に細かい子どもの世話はできなかったのかもしれない。
母はなぜこんなにも家庭に無関心だったのか。夫との関係の冷たさに疲れ果てて
いたのかもしれない。

それでも、たったふたりの姉弟がこんなにもさびしかったのは、やはり
その家庭が原因としかいいようがない。
きょうだいの上の子はなんとなく何もかもできるように錯覚されがちだ。
しかし、この姉弟もたったの3つ違い。なにもかもを理解し飲み込むには
あまりにも幼く若い。

なんとも寂しくはかない物語だ。