息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

沈黙の塔

2013-08-31 10:04:05 | 著者名 ま行
森鴎外 著

なんとも不思議な夢をみる。
それは異世界であり、それでいて既視感がある。
心細さと懐かしさがともにある。
そんな夢の世界を思い出した。

高い塔があり、そこに大量のなにかが運び込まれている。
人に尋ねるとそれはParsi(パアシイ) 族の死骸であるという。
彼らは禁書を読んだ故に殺されたのだと。

言論や思考の統制と、それに対する一方的な敵意。
平穏をみだしたかどでとらわれるParsi族は、単に罪になるものを
探し求めたものからいいがかりをつけられているようにしか見えない。

沈億の塔はゾロアスター教徒が鳥葬に使う塔であるという。
神聖このうえないのに、不気味さと恐怖がぬぐえない場所。

本書は1910年「大逆事件」の際に書かれた。
さまざまな危惧と、権力への反感を込めている寓話である。
時代を考えれば、軍医であった著者が、自分の地位や立場を賭けて書いた
といっても過言ではない。

重みのある作品なのに、異空間を思わせる空気感。
じっくりと読み込むたびに、理解が深まっていくように思える。

幽 Vol.19

2013-08-30 10:50:28 | 書籍・雑誌
メディアファクトリー

日本初怪談専門誌である。やっぱりまだ読んでいる。
別に夏は幽霊とか、怪談とか肝試しとか、そういうベタなことは考えていない。
……のだが、はじめにこれを買って読んだのが、夏休みをとった時だったので、
どうもこの晩夏になるとよ見たくなる、というパブロフの犬状態になっている。

今回は「能楽入門」これはいい!
何かと小説のモチーフにも使われる物語の数々。あらすじくらいはわかっている
つもりでも、いまさら聞けない、何を読んで勉強すべきかわからない。
ついでにいえば、この関係の書籍は高い。わからないままにぽんぽん買うには厳しい。
そんな私にとってうってつけであった。

重要無形文化財の津村禮次郎氏から学ぶ能楽の精神、舞台となった地の今、
歴史や装束にまで至る興味深い特集の内容は濃い!
これはすごくありがたい特集だった。

もちろん、ほかの作品もなかなかに満足。
エアコンの効いた部屋でゴロゴロしながら「幽」を読む。
ついでにビール。
なんかすごい人間失格な絵づらであるが、私にとっては至福。

今未来になんの光もみいだせず、あがいているのだが、
つかの間憂さをわすれられるのだ。

彼岸花

2013-08-29 10:15:56 | 著者名 な行
長坂秀佳 著

シリーズついでに。

晩秋の京都を舞台に、有沙・融・菜つみの3人の女子大生がであった恐怖。
行く先々で出会う不気味な影。

3人がそれぞれの視点から交互に語るため、同じ場面が何度も繰り返される。
私はものごとを違う角度から見る、というのが好きなので、
これは面白かった。
ひとつの出来事がそれぞれ全く違う受け取られ方をしたり、驚きポイントが
微妙に違ったり。描き分けがうまい。

ゲームの原作であるが、よくわかる。
うまく見せ場を配して、飽きさせない。
ストーリーに変化があってエンターテインメント性が高いのだ。
しかしこれってゲーム的には失敗だったらしいのだが。

京都を舞台にしているだけに、美しい都の秋を堪能できる。
キーとなる不気味な存在が舞妓だったりして、町家の地味な色合いに映える
真っ赤な絹の色が目に浮かぶ。

ボリュームのわりに軽く読める作品。

寄生木

2013-08-28 10:58:20 | 著者名 な行
長坂秀佳 著

弟切草』『彼岸花』『寄生木』の三部作である。
『弟切草』について書いたまま忘れていた。
まあ、そんなものだ。

『弟切草』の登場人物・松平を名乗る男が、ホラー作家のもとに電話をかけてくる。
「その作品を書いてはいけない。“ヒトラーの賭”は始まっている」
その意味のわからないメッセージはベルギーへと続いていた。

このシリーズ異聞もく含めて正直似たりよったりで、どれがなんだんだか
わからなくなるものすらある。
そう言う意味では本書は異色なのだ。
舞台設定がヨーロッパにまで及び、歴史的な絵画をモチーフに使ったことで
広がりが生まれている。

中世フランドル絵画の傑作『神秘の子羊』がもつ秘密……ほらなんだか
高尚な感じがするでしょ。

しかし、期待し過ぎも厳禁だ。
やっぱりそこはシリーズだから。
割り切って読めばかなり楽しめるできであり、個人的にはかなり好き。

吸血蟲

2013-08-27 10:45:23 | 著者名 か行
北上秋彦 著

またまたホラーである。
ふと気がつくとホラーを手にしているのだ。
怖い映画なんか全然見られないし、お化け屋敷なんか前を通るのも嫌なのにね。
文字でしみじみ怖い分には一向構わない。

タイトル通りの吸血鬼ものであるが、いわゆるヨーロッパの伯爵みたいな
世界ではない。
山奥の閉鎖的な村を舞台にした土着的な匂いがする作品だ。
吸血、山奥となると『屍鬼』を思い出すのだが、それとも違う。
50年の眠りからさまされ、はじめはじわりと、やがて怒涛のように襲ってくる
“なにか”たち。
その爆発的なパワーにはただ圧倒され、凍りついてしまうしかない。

後半その正体がわかってくると、その恐怖は次第に薄れていく。
というよりパワーダウンである。
引っ張り込む力が失速していく感じでやや残念。
構成はどこかで見たなあという感じを否めないが、それでも前半には考えなかった
“なにか”の正体やルーツはとても面白かった。