息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

鎌倉、歩きたくなる小路

2012-05-31 10:50:44 | 著者名 さ行
崎南海子 著

詩人である著者が、写真家の中村冬夫氏とともにつくった
知る人ぞ知る鎌倉案内。

とはいっても、ちょっと情報が古いというのもあり、これを見て
あちこち行くのに役立った、というわけではなかった。
ただ切り取られた道端の風景や、一本入った小さな道にこんなものがある
という喜びを堪能できる。

私は鎌倉が好きで、こんなに出不精なのに時々出かける。
意味もなく北鎌倉のあたりからだらだら歩き、お屋敷に見とれたり、
庭に目を奪われたり、お寺でぼーっとしたり、時には小さな美術館で
時を忘れたりする。
江ノ電に乗ってみたり、ハイキングコースを歩くこともある。

その時感じる風や光がとても上手に凝縮されている気がする。

地図やお店紹介とは違う意味で、“ガイド”なのだ。

鎌倉を楽しむにはまだまだ歴史も学びたいし、花や植物の知識も欲しい。
先日久々に鎌倉に出かけて、ますます欲が出てきた私。
あじさいにはちょっと早かったけれど、いつ行ってもやはり素敵なところだ。

切れた鎖

2012-05-30 10:49:07 | 著者名 た行
田中慎弥 著

ゆるやかな絶望とあきらめと。
物語の底辺に流れるのはある意味達観である。
この世にそんなにいいことがあるはずない、という確信。
そしてそれなのに、代々と続く命への憐み。

表題作ではさびれつつある地方の、さらにこわれつつある旧家と
その裏に寄り添うようにある新興宗教の教会という
なんとも心が寒くなるような舞台が用意されている。

次世代を担うべき幼い少女はいるけれど、この子が家を
再興するとはだれも考えていない。
食べるのには全く困らない程度に裕福ながら、能動的に何かを
することには欠けている女たち。

地方の繁栄を期待された埋立地に放置された古いバス。
そこだけが不夜城のように輝くファミリーレストラン。

心地よいとはいいがたいが、独特の物語は面白い。
だが、センテンスの長い文章と、特有の読点の打ち方には
違和感が大きくまいってしまった。

独自のポリシーがあるのだと思うが、ここで引っかかってしまうと
物語の世界に入り込めない。
たぶんこの著者の作品はあまり読めないかも。

ヨーロッパホラー&ファンタジーガイド

2012-05-29 10:29:42 | 著者名 あ行
荒俣宏 著

ヨーロッパの歴史に裏付けられた神秘と不思議。
それを博識そのものの著者が、初心者にもわかりやすく解説する。
ほんとうにスゴイ人だなあと思う。
こんなにいろいろなことを知っていて、それでいてユーモアがあり
にこにこしたおだやかなおじさん、みたいな風貌。
タレントさんともスムーズにやりとりするやわらかさもある。
そんなアラマタだからできた本ともいえる。

表紙の美しい少女は、イタリアのパレルモにあるカプチン・フランシスコ修道会に
安置されているロザリア。わずか2歳で命を落とし、ここで眠る。
おなじみのルーマニア・トランシルヴァニアの吸血鬼伝説や、
幽霊が多いロンドンなどももちろん登場する。

「ガイド」とうたっているとおり、旅行の案内の要素もふんだん。
すべての場所に自らおもむき、その体験をもとに紹介しているので、
わかりやすいし、想像がふくらむ。
行ってみたいなあと素直に思わせるのだ。

ちなみに個人的には、ごく普通の郵便配達夫がこつこつ手作りした摩訶不思議な
建物「シュヴァルの理想郷」はぜひ見てみたい! それからイタリアに点在する
グロテスクな庭園の数々も!

このものぐさな私が行くことがあるのかは不明であるが、その際には
荒俣氏の著書を熟読して臨むことにしよう。

ツレはパパ2年生

2012-05-28 10:43:28 | 著者名 は行
細川貂々 著


ツレはパパ1年生』の続きである。
とにかく眠れない、体力勝負の新生児期を乗り越える前作から、こんどは8か月になって
動き回り、重くなり、違う意味で体力勝負が始まる時期が描かれる。

たぶん面白くしようとしてのことだと思うが、ちょっと微妙なエピソードも目立つ。
たとえば、ちーと君とともに結婚式に御呼ばれすることになったツレが、悩んだ末
普段通りのTシャツで参列したり、チャペルでおむつ替えするくだり。
これは育児経験があってもなくても引くと思う。

まあ気になることはいろいろあるけれど、子どもの成長は実に楽しい。
この間まで寝たきりだったのに、とっとこ歩き出すんだからね。
おじいちゃんおばあちゃんの前ではりきっていいかっこをしてみたり、
逆に固まってしまうというのもありがちだ。

そしていつも一緒にいる、ちーと君の場合ツレさんには、
とてつもなく自分の時間がない日々を送りつつも、何があろうと自分さえいれば
ぴたっと泣き止みおとなしくなる喜びもついてくる。

この自分がイチバンってうれしいんだよね。
そんな幸せの日々は、実は可愛いと思う余裕もない日々であったりするのだが、
それがよみがえってきた。

海底二万里

2012-05-27 10:09:38 | 著者名 あ行
ジュール・ ヴェルヌ 著

『海底二万海里』『海底二万リュー』『海底二万リーグ』『海底二万マイル』などなど
それでいいのかっていうくらい日本語訳はいろいろ。

ディズニーシーにあるアトラクションは「海底二万マイル」だが、
これはちょっと設定が変わって小型潜水艇に乗るものだ。
乗ったことはあるはずだが、寒かったことしか覚えていない。

航海中の船舶が何者かに襲われ、船体に穴をあけられるという事故が多発した。
イッカクではないかと疑った海洋生物学者アロナックス博士の一行は調査の旅へ
でたものの、その怪物の攻撃で海に投げ出される。
そこを潜水艦ノーチラス号に救われ、ともに旅にでる。

サンゴ礁、難破船など海の中の光景は、子供の頃にあこがれた人魚姫の絵本のようだ。
アトランティス遺跡にいたっては、ゲーム「バンジョーとカズーイ」(知ってる人いるのか?)
の水中のシーンを見たとき、既視感を抱いたほど。
楽しい旅に夢中になりつつも、ノーチラス号の船長・ネモに不信感がつのる。
ある日国籍不明の戦艦から攻撃を受けたことで、アロナックス博士の一行は脱出を決意する。

このチャンスをうかがう感じのドキドキ感がいい。
やがて巨大な渦に巻き込まれた隙を突き、彼らはノーチラス号から生還する。

驚くのはこれが書かれた当時、まだ潜水艦はなかったということだ。
想像だけでこれだけの具体的な物語を紡いだというのは信じがたい。

人間が生身のままでいけない場所というのは何とも心惹かれる。
なまけものにとって冒険小説は大変な魅力。
居ながらにして大冒険。
それに私はUMAも大好物。
そう、本書はかなりそのあたりのおいしいもの詰め合わせ的な一冊だったのだ。