息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

心療内科を訪ねて

2012-04-30 10:30:04 | 著者名 な行
夏樹静子 著

著者は3年間もの長い間腰痛に悩み、ありとあらゆる手を尽くした。
この過程は『腰痛放浪記 椅子がこわい』という作品になっている。
最終的に腰痛を治すに至ったのは、腰痛を心身症であると
認め、心療内科での治療を受け入れたからであった。

自身のこの経験をきっかけに、さまざまな心療内科での症例を取材し、
治療への過程をリポートしている。
病名は本当に多種多彩だ。顎関節症、高血圧、摂食障害、脱毛、
中には厚生労働省指定の難病である潰瘍性大腸炎さえある。

自分自身の心が生み出す病気、病は気からと軽々しく言うけれど、
自らの命を脅かすようなこんな病になってしまうこともあるのだ。
気の持ちようだの気にし過ぎだの、軽々しい言葉では片づけられない
これらの病であるが、心療内科で少しずつ医師と会話し心を開いて、
さらに断食などの適宜な治療を組み合わせることで改善を見る。
心からの警告ともとれる心身症。
その重さとともに、自分を振り返り見つめなおすことの大切さを
思い知らされる。

まずは身体的な要因がないかきちんとした医療機関を受診すること。
原因がわからなければためらわずに心療内科に相談すること。
現代を生き抜く知恵として、これは重要なことなのかもしれない。

100万回生きたねこ

2012-04-29 10:46:54 | 著者名 さ行
佐野洋子 作

子ども向けの絵本ながら、大人にも高い評価を受けている作品。

死と誕生を繰り返すねこが愛するものに出会い、本当の死をむかえるまでの物語。

ねこのあるじとなるのは戦好きの王、船乗り、サーカスの手品つかい、どろぼう、
ひとりぼっちのお婆さん、小さな女の子とさまざまだ。
それぞれがそれぞれのかたちでねこを愛し、死んだときには泣いて悲しむが、
当のねこは平気である。
ねこは飼い主のことなど少しも好きではなかったから。

だれのものでもないのらねことして生まれ変わったねこは、たくさんのメスねこから
アプローチを受ける。
どんなプレゼントも愛情もねこは受け付けない。
ねこが好きなのは自分だけだったから。

自分にまったく関心を示さない白ねこに、ねこは惹かれていく。
どんな自慢話もちゅうがえりにも「そう」としか答えない白ねこ。

ついにねこは「そばに いても いいかい。」とたずね、
ずっと一緒にいることになる。

たくさんの子ねこが生まれ、育ち、ねこは白ねこと子ねこのことが
自分よりも好きになる。

やがて白ねこが最期を迎える。
絵本なのに、童話なのに、心にしんと響く死の場面。

死なのに心からよかったねと祝福してしまう。
長い長い100万回の生死の物語が静かに幕を下ろす。

生まれること、死ぬこと。
絶対に避けられないことをみつめ、じっくりと考える機会になる絵本だ。

スナーク狩り

2012-04-28 10:57:21 | 著者名 ま行
宮部みゆき 著

ず~っと気になっていたのに、なぜだか読む機会を逸していた作品。

そもそも“スナーク”って? と思っていたら、ルイス・キャロルの作品に出てくる
架空の生物なのね。その正体は謎。いやあ教養がなくてお恥ずかしい。

で、本書はどうかと言うと……スゴイ。
スピード感あふれる展開、無駄ひとつない伏線、繊細な心理描写。
どれをとっても不足はない。

銃がキーとなる心の闇と葛藤。
登場人物それぞれが持つ苦しみと悲しみ、復讐したいという気持ちが、
あるポイントで交差したとき、事件は始まる。
これはある意味人間の弱さを表していると思う。
どんなに自制心が強くても、とことん追い詰められたとき、
そこに武器があれば使ってしまうのだろう。

そこに銃がなかったら、きっと思いつきもしなかったことや
あきらめていたはずのことが、すぐそこに手に入るものとして
見えてしまう。

卑劣な少年たちの犯罪によって妻と娘を殺された男は、犯人の心情や事件の真相に
ついて、ずっと考えながら暮らしてきた。
彼が働く店に、趣味で銃をもつお嬢様・慶子が来たことから、頭の中だけに
収まっていた願望が、形をもつ。

夜の道をひた走る描写は、登場人物たちの心の動きをよく表している。
ラストは哀しいながらも、納得のできる結末だ。

どすこい(仮)

2012-04-27 10:48:01 | 著者名 か行
京極夏彦 著

京極堂シリーズで著者を知った私。
これを読んだときはえ~っと衝撃であった。
そもそも(仮)って……。

いい意味でグダグダ。崩壊している。
名作というか、よく知られた話のパロディなのであるが、
すべてにおいて力士が出てくる。だからどすこい。

元ネタは、「四十七人の刺客」「パラサイトイブ」「すべてがFになる」
「リング らせん」「屍鬼」「理由」……ですよ。
いったい全体どうして力士につながるんだかって感じ。
いや無理やりつながるんだけど。

ストーリーは先に読めるし、複雑で伏線いっぱいの京極ワールドを期待したら
がっかり間違いなし。
そんな風に読む本でないことは断言する。

でも元ネタをこれだけ料理できるってやっぱり才能ないとできないと思う。
なんていうか違う意味で京極夏彦すごいと思ってしまう。

木洩れ日に泳ぐ魚

2012-04-26 10:11:26 | 恩田陸
恩田陸 著

恩田陸の演劇ぽい作品のひとつ。
アパートの一室。別れを決意した男女二人だけが登場する
ほんの一晩の物語。

最後の夜を酒を酌み交わしつつ過ごす二人。
自然に話題は回想へとつながり、“ある出来事”について
話し始める。
それぞれが違う視点から話すうちに、そこに違う現実が
浮かび上がってくる。

どことなく心にひっかかること。
考え始めると離れられなくなり、さまざまな角度から
考えれば考えるほどに、大きな問題に思えてくる。
そんな感じの展開だ。

すでに別れが決まっているだけに、冷静さがある二人。
かけひきと探りあいとが繰り返され、仮定に仮定が重ねられる。
話の盛り上がりとクライマックスはまさに演劇的だ。

ただミステリではないと思う。
期待して読んだり、きれいなスッキリした結末を求めていると
ちょっとがっかりするかも。