息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

生き地獄天国

2013-07-07 10:27:53 | 著者名 あ行
雨宮処凛 著

居場所がない。自分の存在意義がない。
とことん追い込まれ、苦しみぬいた少女が、自分を受け入れてくれる場所を探し、
依存し、主張していく過程。
文章はときにつたなく、時に感情に流れていくのだが、それも魅力。
自分自身の経験を描いているだけにリアルそのものだ。

地方の中学高校生時代の描写は胸が苦しかった。
過干渉なのに、根本では無視されている感覚。
彼女の場合、それにいじめやアトピーが加わっていたのだから壮絶だったろう。
居場所がないのも当然だ。

そしてつかの間の仲間と、いい子のクラスメイトとは違うという感覚を求めて、
ビジュアル系バンドへと傾倒していく。
こんな感覚はとてもよくわかる。ライブハウスは異空間で、そこにいるときは
別の世界に閉じこもれるのだ。こういうタイプの子は、純粋に楽しみを求めて
来るほかの子たちとはライブの楽しみ方が根本的に違うと思う。

大人がまゆをひそめても、それですめばよかったが、彼女はリストカットも
するようになる。
美大受験、生まれて初めて心からやりたいと思った人形製作。
前向きななにかは必ず彼女を否定して、そこへの道がふさがれていき、
ますます居場所はせまくなっていくのだ。

やがてひょんなことから、彼女は右翼に入り活動し、北朝鮮訪問をし、と
まったく違った方向での活躍が始まってしまうわけだ。
彼女はもともとは力があったのだと思う。
右翼のアジテーションではっきりものを言えるようになったわけではなく、
やろうと思えばそのずっと前から人前でなんでも出来たのだと思う。
単にそれを解き放ったのが、右翼であり、バンドであっただけで。
それを圧していたのが、コンプレックスや周りの環境だったというだけで。

彼女は活動費をキャバクラで稼いでいた。これも地味にすごい。
コミュ障一直線な人がすぐにできるわけないんだから。
容姿に恵まれていたこともあるだろうが、目標をもったとき、なんとかしようと
することはできる人だったのだ。

行動力も実力もあるのに、なんでまたこんな方向にしかエネルギーが向かないのか、と
つっこみたいところは多々あれど、こんなふうにエネルギッシュな人は必要だ。
その対極にいたかと思われたのに、突っ走っている彼女が面白い。