息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

銀河鉄道の夜

2011-06-30 13:14:10 | 著者名 ま行
宮沢賢治 著

今年の梅雨明けは早そうだ。
七夕を前にあちこちに星をモチーフにした飾りが見られるようになった。
だから今日は言わずと知れた名作。

何年前だったか、著者の生涯を追った書籍にライターとして参加したことがある。
調べれば調べるほどに、不器用ながら誠実に理想を追う姿や、
農業をひとつの産業として成り立たせたいという想いを感じた。
その時、なぜ彼の作品の舞台が、日本のようでありながらそうでない
架空の世界であるのかが分かった気がした。

この作品は銀河を走る美しい鉄道の旅に、友情や別れという切ない想いをこめた
一夜の夢のような物語だ。
実際の星座や星の名前をちりばめ、不思議な人々との出会いも交えながら、
列車は進んでいく。
現実の世界では決して恵まれているといえない主人公の少年が、その一晩
すべてから解き放たれて旅をする様子は、束の間のやすらぎを感じさせる。

童話なので、子どものときに出会う人が多いと思うが、これは深い。
いくつになっても、どの時点でも新たな発見がある。
人生において何回読み返しても損はない。


最近、KAGAYAスタジオがプラネタリウム番組を制作しており、各地で順次
公開されているようだ。
予告編
http://www.youtube.com/watch?v=0Wo9S6hZO8Q
美しいイメージが忠実に再現されているようで、必ず見たいと思っている。
かつて映像の仕事をしていた知人が、熱烈にすすめてくれた。

鹿男あをによし

2011-06-29 12:52:55 | 著者名 ま行
万城目学 著

テレビドラマとかマンガとかにもなっているらしい。
……いつものように、それは知らない。

奇想天外、バカにしてんのかってくらいナンセンスながら、
きちんとしたストーリー性と人物描写で、しっかり読ませてくれた。
高尚なものを求める人には向かないかもしれないが、
それ以外の誰でもきっと楽しめる。

まず大学院にいづらくなる主人公のエピソードからしてうなずける。
ありそうなのだ。そしてそこで「神経衰弱」とあだ名されたことが
のちのちにも影響してくる。

さらに教師として赴任した奈良女子学院の第一日の描写が秀逸。
遅刻の理由が「マイシカに乗ってきて駐禁をとられた」である。
まじめな顔で言われたら、奈良だけにうっかり信じそうだ。

何やら納得いかないままにスタートする教師生活。
「大和杯」なる姉妹校対抗スポーツ競技会を前に、主人公は
ほんとうに鹿男になってしまう。

普通だったら怒るわ、こんなエピソード。
そこに一緒に巻き込まれるのがおそらく万城目ワールドの底力のなせるワザ。
どんどん巻き込まれて、あっさり気持ちが入って、最後はどんでん返し。
リズミカルでとても楽しかった。

……あれか、やっぱりえり好みせずここは「プリンセス・トヨトミ」にも
いくべきか?

菊亭八百善の人びと

2011-06-28 10:13:48 | 宮尾登美子
宮尾登美子 著

ちゃきちゃきの江戸っ子娘がお見合いでサラリーマンに嫁いだ……はずが。
嫁ぎ先は空襲で店を畳んだ老舗の料理屋。その店を再開すると舅が宣言する。

主人公・汀子の歯切れのよさ、思い切りのよさは心地よいほど。
本当に江戸っ子ってこんな風なのだろうな、と思う。
そして、それだけに物事をはっきりと言い、周囲の人もそう返す。
つまり、宮尾登美子の他の作品の特徴である悪人なし、という雰囲気と
ちょっと異なる感じがするのだ。

悪人ではないが小さないさかいや、行き違いが日常茶飯事。
私は争いごとがとても面倒で、なるべくなら避けて通りたいタイプ。
だからちょっと読んでいて疲れた。
しかし、禍根を残さず家業を盛り立てていくならば、これくらいでないと
ダメなのかも。

苦労山積みながらも、「あたしはこの味が好き」ときっぱり言い切り、
京料理を評価しつつも、江戸の味の在り方を確認する汀子の姿には、
心を打つものがあった。
和食ってひとくくりに考えがちなのだが、京都と東京では全く違うし、
それぞれのおいしさがある。
九州で育った私にとって、あいまいだったそれをしっかり意識させてもらえた。
土地のものはおいしいし、味わい方もそれぞれ。
よい素材をよい料理で味わう幸せって誰にも否定できないほど大きいものだ。

そして、女性にとっての仕事というもののひとつの形を見せてもらえた、と
いうのも大きな喜びだった。
そう、嫁いでのちに生涯の仕事に出会う人も多いのだ。
そういう意味で言うと、女性のほうが人生楽しいのかもね。

ガラクタ捨てれば未来がひらける 風水浄化術入門

2011-06-27 10:56:31 | 著者名 か行
カレン・キングストン 著

「ガラクタ捨てれば自分が見える 風水整理術入門」の姉妹編。
というか、もともとはこちらの本があり、その一部として前作があったということのようだ。

捨てる、整理、片づけがメインの「自分が見える」に比べ、
精神世界やエネルギーの活性化など
ちょっと好みが分かれる内容となっている。

散らかった部屋では落ち着いて暮らせないのは事実だし、
見て見ないふりをする不要物の山は
どこか精神的な重荷となっている。
きれいに片付いた部屋は空気が澄んでいるように感じるのは誰しもだろう。
そこを涼やかな音とよい香りで清める、
それがスペース・クリアリングの基本だと思えば、
さほど違和感はないのではないだろうか。

前作でも紹介されている家の定位盤は、本作ではさらに細分化されている。
これをうのみにして縛られる必要はないと思うけれど、何かに行き詰ったり、
つらくなったときに、ささやかな気分の打開策として、
問題のある場所をきれいにしてみるのは悪くない。

そして何事も先送りにしがちな性格──私みたいないい加減なタイプには、
この本はいろいろな片づけごとをするにあたり、
ちょっと背中を押してくれる存在であったりするのだ。

空の中

2011-06-26 10:44:46 | 著者名 あ行
有川浩 著

「塩の街」「海の底」とともに自衛隊三部作と呼ばれる。

日本初の超音速旅客ジェット機が突然炎上する。
そんなショッキングなシーンから始まる物語だ。
その事故で死亡した自衛隊三佐の息子が、海辺で不思議な物体と出会う。
「フェイク」と名付けたその生き物らしきものと心を通わせる少年。
やがて、携帯電話を通じて意思の疎通ができることがわかり、
世界的な機密へと巻き込まれていく。

ありそうなのだ。
時空を超えた生物。
しかしそれに出会った瞬間、利用しようと思い立つ人々。

そこに翻弄され、または逆に翻弄しつくそうとする少年少女たちの姿は
一生懸命でちょっと切ない。
大切な人を失った悲しみを整理するために、何かが必要だった、と
いうことは同じなのに。走って行く方向は逆になる。

ピュアな情熱に対する気恥ずかしさとうらやましさ。
そしてそのパワフルな感情が、物語を結末へと導いていく。

ライトノベルならではの癖はあるが、そう気にはならない。
自衛隊マニアにはちょっと物足りないかもしれないが、それなりに
しっかり研究して書かれていることはよくわかる。

というわけで、ちょっと前の作品ばかりですが、有川浩はまってます。

3か月くらい前に近所の書店でサイン会があったんだよね~。
なぜ行かなかったのだ? 自分?
いや普段の自分からして絶対行かないわけだが、こうなると
とても惜しい気がするのである。