息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

ベアハウス

2012-02-29 10:28:31 | 井上雅彦
井上雅彦 著

かつて“魔王”と呼ばれた巨大な熊が再び現れた?
20年ぶりの悪魔の再来に周囲は混乱に陥る。
出会うものを殺戮し食い尽くす猛獣を止めることはできず
追われた人々は山の中の館に逃げ込むが、そこはさらなる恐怖の場所だった。

最初はグロテスクで被害状況もパワフルで、とんでもない猛獣が出てくる
パニック小説と思いきや、なんだか途中から違う方向に行く。

正直こういう風な作品はどう読んでいいかわからない。
著者の作品は好きだし、結構読んでいるのだが、これに関しては
あまりにも意外な方向へと進み、それに対してどう対応すべきか迷っている
うちに終了、という感じだった。

どんでん返しがあるのだが、びっくりというよりも拍子抜け。

これってもしかして読む人を選んでいるのか?
下敷きになった名作とか映画とか出来事とかをわかっていないと
まったく面白くないとか?
私ってば無知をさらけ出してる?

といろいろ考えてしまった作品だ。

蛇鏡

2012-02-28 12:49:45 | 坂東眞砂子
坂東眞砂子 著

婚約者を伴い帰郷した主人公・玲。
姉の綾が首つりをした蔵の中に、蛇の飾りのある鏡を見つけたことで、
さまざまなものが変わり始める。

閉塞感のある地方だからこそある秘密めいた雰囲気と、伝説をもとにした
不思議な物語。
古事記を下敷きにした物語は、日本人の心の奥底に仕舞い込まれた神を敬う
という感情を引きだすような気がする。

蛇は神様なのだ。
それでいて怖い。
怖いものを封じて神とする、というのは古来から行われていることであるが、
その封印が解けたとき、恐怖も解き放たれる。
そう、パンドラの箱が開いたときを連想させる。

結婚を前に揺れる気持ちが鏡の持つ魔力とリンクして、玲を“あちらの世界”へと
引きずり込もうとするというのもなんだかリアル。
結局人間の感情とは強くもあり弱くもあり、そして不安定な時はどちらにも
引きずられるものなのだろう。

結果的に蛇神は復活せず物語は終わる。
しかし、結末がどうこうという物語ではなく、そこまでの舞台設定や
背景を読むことのほうがずっと楽しいと思う。

終わらせ人

2012-02-27 10:52:46 | 著者名 ま行
松村比呂美 著

生まれたばかりの自分を置いて出奔した母の死。
何の感情もないままに母の残した洋館へと出向くことになった
フリーライター・祈子は、そこにあったパソコンで
「終わらせ人の館」というサイトを見る。

切羽詰まった依頼にはどうしても無視できないものがあり、
いつの間にか祈子は、母の仕事を受け継いでしまう。
母から娘へと引き継がれた不思議な能力は、暴力の張本人を
目覚めさせ、その理不尽さを自覚させる。
しかし、間もなく必ず命を落とすことになる。

その不思議な能力のルーツを知りたいと向かったのは熊本県。
地図にもない幻の村に迷い込み、その住人から話を聞く。
確かに家にあげてもらい、もてなされたはずなのに、
もうその村に行くことはできなかった。
同行したカメラマン・秀介は難病ですでに残りわずかな命。
祈子は彼との深いつながりを感じる。

DV、ひきこもり、児童虐待、そして高齢化で痴呆が進むペット。
現代の抱える問題が吹き出し、それを何とか解決へと導く。
やがて、秀介の命を引き継ぐように祈子の妊娠が判明する。

力と命を継承した祈子。
母の想いを理解し初めて許すことができた。
ひとりでも十分強い女性がこれからどう生きていくのか。
子どもがいる身から見ると、ものすごく子育てを甘く考えている
気がするのだが、それでもすべてを負う潔さはかっこいい。

謎解き、ホラーとしては少し物足りないが、女性のターニングポイントの
物語として読むといいかもしれない。

紫のアリス

2012-02-26 10:13:49 | 柴田よしき
柴田よしき 著

不倫している状況をクリアするために仕事を辞めた主人公・紗希。
夜の公園で見たものは、「不思議の国のアリス」に出てくる白うさぎと思しき
二足歩行の生物だった。
しかもその後次々と“アリス”の登場人物が目の前に現れる。

現実か幻覚か? 15年前の親友の死、曖昧な紗希の記憶。
自分の前に現れるのは敵なのか味方なのかすらわからない。
大切なことを忘れているような気がするのに、それが思い出せないもどかしさ。

モチーフになっている「不思議の国のアリス」はとても魅力的な物語だ。
リンクしながら謎が解明していくのはとても楽しいし、迷路の中にいるような、
それもバラの生垣で作られた迷路のようなガーリーな世界に溶け込める。
こういう世界観が好きな人にはおすすめだ。

しかし、肝心の謎がちょっと物足りないかなあ。
不思議の世界はとてもいい小道具なのだけれど、それに振り回されて
何が何だかわからないままに終わってしまう感じがした。
ちょっともったいないなあ。

モモちゃんとアカネちゃん

2012-02-25 10:36:03 | 著者名 ま行
松谷みよ子 著

児童文学だ。
しかしあなどってはいけない。

離婚をこれほどわかりやすくシンプルに説明した本はこれしかない。
しかも子どもに理解させるという課題をクリアして、だ。

単純な善悪や明暗でしか物事を理解できないような年頃の子どもに
大人の間で何が起こったのか、それは好き嫌いの問題ではなく
これから生きていくための決断であり、幸せの追及の形であることを
率直に語る。

毎日靴だけが帰ってくるパパ。
その姿は単なる裏切りや心変わりというものよりも、家族への愛はあるのに
帰るすべを知らないむなしさや哀しさを感じさせる。
パパに対したくさんのことをしてあげたいのに、それが靴ではどうしていいか
わからないママ。幼子をふたり抱えての不安や暗い気持ちがよくわかる。
日々苦しみが募ると死神がやってくる。
疲れやつれ果てるママを迎えに来るのだ。

それをさとったとき、ママは森のおばあさんを訪ねる決意をする。
二人の子を残して死ぬわけにはいかない。

おばあさんの言葉はわかりやすくシンプルだ。
「おまえは育つ木。お前の亭主は歩く木だ。いっしょにいると枯れてしまう」
そしてそこに示された歩く木の肩にはヤドリギが乗っている。

二人は離婚し、新しい暮らしを始める。
さまざまな場面で助けの手を伸べるくまさんは、よき友人の象徴だろうか。
この時期、新しい家でモモちゃんは入学を迎え、一気に成長する。

モモちゃんシリーズはちょっとこわい。
ほのぼのした子どもの暮らしを描いていながら、必ずふっと背筋が寒くなるような
描写がひとつふたつある。
子ども時代は陽光に包まれているようでいて、どこかに暗い影がある。
やさしくわかりやすい文章で描き出した独自の世界は、少しなつかしく切ない。