息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

上野池之端 鱗や繁盛記

2017-01-04 13:10:42 | 著者名 さ行
西條奈加 著

美味しそうだ、夜中なんかに読もうものなら、飯テロ以外のなんでもない。
金春屋ゴメス」で私をとりこにしたあの料理たちが、
洗練されて、上の池之端の座敷で選び抜かれた器に盛られて登場する。もうそれだけで読む価値あり。

江戸に奉公に出されたお末は、自分を迎える冷たい視線に戸惑う。そこで聞かされたのは、以前ここで働いていた
従姉妹の行方が知れなくなり、それが駆け落ちだったらしいという衝撃の話だった。
必死に働くお末は、鱗やが今のような連れ込みまがいの三流の宿ではなかったことを知る。
そして過去に秘密をもつ板前の腕を頼りに、かつての一流店「鱗や」の味をよみがえらせていく。

何度も言うが美味しそうだ。すまし仕立ての蛤鍋、桜鯛と桜の塩漬けが入った桜めし、季節の野菜を一緒に蒸しあげた鰻茶碗、
結びきすの吸い物、ずいきの緑が効いた鮎のすまし、スズキの昆布締め キュウリとネギのなます、青じそをまいた鶉肉の椀、
鰯と野菜を唐辛子と辛子酢味噌で和えた鰯の鉄砲和え、たたいた蛤を卵とすり合わせて蒸した時雨卵、そして鮟鱇の雑煮。
とんでもなく珍しいものは出てこない。
おそらく当時の庶民も知っていたであろう季節の食材を使っている、と思う。
しかし、厳しいプロの目で選び抜いたものを、洗練された仕事で仕上げることで、こんなにも違うものになるんだなあ、と
痛感させられる。
そして六編の物語一つ一つがそれぞれ、鱗やが抱える悲しい物語を紡ぎだしている。
これは鱗やの物語であると同時に、お末という一人の女性が成長していく物語でもある、
お客様に喜んでいただく、ということのうれしさに気付き、もっと喜ばせたいと思い、
それが接客を磨いていく。

サルビア給食室だより

2015-03-03 10:02:30 | 著者名 さ行
サルビア 著

学校生活の暦に合わせた、旬の食材がいっぱいのレシピ集。
ほんわかした雰囲気と、本当に

「酢たれ」とか「八方だし」とか、便利で簡単な基本の調味料を
使うのがポイント。
これによって、調理の手順が減り、味が決めやすい。
っていっても、まだこのレシピでは作ってないわけだが。

給食苦手な子供だった私としては、微妙な気持ちになるものもある。
体によくて安価で季節感あふれてって、実に正論なのだが、
全部が全部おいしいわけではなく、癖があるものもあるよね。

それでもあたたかい雰囲気は十分にたのしめるし、
懐かしさもそこかしこに漂う。

食って大切だ。
いろいろなことに追われて、毎日完璧にはできなくても、
(できたほうがいいけど)
もうたらの芽の季節だな、とか、新じゃがの揚げ煮楽しみ、とか、
そんな気持ちはずっと持っていたいなあと思う。

ロココ町

2015-02-06 21:15:06 | 著者名 さ行
島田雅彦 著

これは好みが分かれるなあ。
どっちかというと苦手な部類であった。
ただ、これが書かれたのが1990年であることを考えると、
時代を先読みする力には脱帽せざるをえない。

突然失踪したB君の行方を探すうちに、東京近郊の町
ロココ町に迷い込んだもと予備校教師のぼく。
そこは常識とは程遠いはちゃめちゃな町でありながら、
超遊園地都市として成長を続けていた。

ギルガメ師と呼ばれる人物がB君ではないかと思ったぼくは、
町を歩き回りながら、彼に出会おうと試み、いつのまにか
住み着いてしまう。

やがて、あまりにもみんなに進められる「遺伝子分析」を
受けることになり、情報都市の一部として組み込まれることになる。

まあ、人が情報というものになり、個ではなくなり……
それをひとまとめにした人工知能的なものが町を制御し、
そんなことなのかなあ。

しかしそんな大筋などものともせず、実に濃いエピソードが
次々に現れ、混乱させられる。
登場人物もやたらとキャラが強い。

面白くないとは言わないけれど、なんか疲れた。

カフェ・コッペリア

2015-01-30 14:32:44 | 著者名 さ行
菅浩江 著

舞台もテーマもまぎれもなくSFなのに、漂う空気はファンタジック。
いつも著者の不思議な世界観に取り込まれてしまう。
どんなに技術が進んでも、どんなに便利な道具が一般化しても、
人間に感情があるという事実は変わらないんだなあ。

たった10年前を振り返っても、考えられないほどに世の中は進んでいる。
小さなスマホ一台でネットもテレビも支払いも開錠もできるなんて、
あの頃誰が思っただろう。
しかもその端末は、単なる眼鏡や腕時計にしか見えないくらいに
形状も進化しているのだ。
でも逆に考えると、眼鏡や腕時計の形状って、すごく早い時期に
完成してたってことだなあ。クラシカルなようでいて実はもっとも
スタイリッシュっていう。

著者の物語はそんな感じがするのだ。
変わるものと変わらないもの。
人の心を揺るがすものとそうでないもの。

現実にはまだないものたちが紡ぎだす話は、手が届きそうでいて
届かない、もどかしい不思議を秘めている。

昭和モダンの器たち

2015-01-21 11:25:37 | 著者名 さ行
佐藤由紀子 著

私くらいの年齢だと、なんだか見たことあるなあと思うものが
たくさんある。
丁寧な説明があるのだが、実際使ったことがあるものでも
全然知らなかったりするので面白かった。

それにしてもよくきれいに残っていたなあ。
デッドストックはもちろんだけど、実際に使った形跡があるものは
なんだか感動してしまう。
何年も何十年も家族とともに過ごして、またそれを欲しいと思う
誰かのもとに行くって、なんて幸せな“もの”たちなんだろう。

甘酸っぱい気持ちになる半面で、自分の好き嫌いも突きつけられた。
そうなのよ、あのごたごたした花柄が嫌だったんだ~!
と思ったら、大ブームだったんだなあ。
それから最近復活ブームだが、ナポリタンってちょっと苦手。
味は嫌じゃないんだけど、麺がもちっとのびてる感じとか、
単独で食べるとおいしいピーマンが兵器として投入されてるとか。
まあ、好き嫌いの多い子どもだったわけだが。

コラムの著者人が佐藤由紀子、クニエダヤスエ、泉麻人、赤堀正俊、
到津伸子と超豪華でこれも魅力的。