息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

沈みゆく大国 アメリカ

2015-01-03 10:07:40 | 著者名 た行
堤未果 著

アメリカもついに「国民皆保険」制度を取り入れた……単純に
そう思っていた「オバマケア」。
本書を手にし、それがとんでもない誤解であることに気づいた。

貧しい人たちをもカバーするはずのオバマケアは、実は診療の機会を減らし、
加入していた医療保険の掛け金を急増させ、たった一度の病気やけがが
破産につながるほどの負担を強いる、恐怖の制度となりつつある。

こんな制度を生み出してしまったのは、製薬会社と保険会社、そして
ほんのわずかな富裕層たちががっちりと結束したからだ。
利益を得ているものはそれを手放さず、結果としてもっとも弱いものが
そのぶん被害を受けることになる。
生死にかかわる医療分野でそれが行われたことで、医師たちの立場すら
危うくなり、適切な治療やケアが困難になっている。

これに比べると、ほぼ全員が健康保険に加入し、保険証があれば
たいていの医療機関で診察治療が受けられる日本は天国である。
しかし、それはあくまでも現在は、ということなのだ。
今まさに動いている政治の方向性は、あきらかにアメリカが歩んできた
ほうを向いている。

オバマケアに期待し、その実現のための運動に尽力した人たち自身が
まともな医療を受けることができない状況に追い込まれている。
身内が病と闘い、健康保険のありがたみを感じている今、
それは明日のわが身かもしれない、と思うとぞっとする。

たまさか人形堂物語

2014-12-09 16:26:41 | 著者名 た行
津原泰水 著

祖母が経営していた小さな人形店。
もはやこんな商売が成り立つ時代ではないと思いながらも、
そこを継ぐことになった主人公・澪。
なぜか押しかけてきて働き始めた有能な2人の従業員に助けられ、
修理を請け負うことでどうにか経営を維持している。

そこにやってくる人形は実にさまざま。
歴史的価値があるもの、子どもの宝物、どうしようもないほど壊れたもの。
そしてそこにはそれぞれのドラマがある。

人形の問題を解決しながら謎解きをしていく物語だが、
もうちょっと人形の世界を垣間見たかったなあ。
奥が深そう、と匂わせながらも、そこまでたどり着かないもどかしさがある。

雛人形にかかわる仕事をしたことがあるが、ちょっと見ただけでも
はかり知れないくらいの奥深さを感じられる世界だった。
この世にあるたくさんの人形たちの中にそんな世界が秘められて、
それが人の手にわたったときに、さらに新たな物語が紡がれていく。
贅沢かもしれないが、そんなところまでこの物語の中で読んでみたかった。

妖都

2014-11-28 15:07:02 | 著者名 た行
津原泰水 著

とりあえず、読後感は「え~っ! これってアリ?」
何も始まらず、何も終わらない。
いや始まったかもしれないけど、何が始まったかはよくわからない。

人間ではなく死体でもない「死者」が東京を闊歩し始める。
そのきっかけは両性具有のシンガー・チェシャが自殺したことだった。
彼が遺した歌「妖都」はヒットチャートを上昇し、人々は「死者」に
襲われて不可解な死を遂げていく。

登場人物の中には出てきただけで、よく役割がわからない人もいるし、
いろいろな材料をぽんぽん渡されて、
放置された感じ。

すべてをすっきり終わらせず、謎は謎のままというのもいいけれど、
本書に関してはちょっとやりすぎ感が否めない。

ひとりかくれんぼ~真夜中の鬼ごっこ~

2014-11-15 10:26:37 | 著者名 た行
TAKAKO 著

ネットで拡散された降霊あそび「ひとりかくれんぼ」。
まさかと思いながら、高校生たちは午前3時にそれをスタートした。

やがて、行方不明者や異様な行動をとるものが現れ始める。
次はだれの番なのか。
恐怖は次第に増していく。

ありがちな都市伝説を小説仕立てにしたものなのだが、もともとが
ケータイ小説だけあって、リズムが違う。
面白くないこともないし、テーマ自体嫌いではないのだが、
どうも乗れないのだ。

じゃあ文句なしに怖くて、眠れないくらいなのかというと、
それも違うなあ。

きっとこのネタは2ちゃんねるで盛り上がった時点がピークだったのだな。
あとはwikiにまとめられ、解説され、やがて小説やドラマになって
フェードアウト……みたいな。

文章や構成はそんなに悪いと思わないのだが、世代の違いもあるかも。

修道女フィデルマの叡智

2014-10-10 16:28:46 | 著者名 た行
ピーター・トレメイン 著

聡明な修道女であり法廷弁護士であり裁判官でもある王女フィデルマ。
美貌の彼女が、古代アイルランドを舞台に不思議な謎を次々と解き明かす短編集。

アイルランドでは男女は平等に教育の機会があり、フィデルマのように高い地位に
つくことも可能だったという。
現代でもアイルランドは独特の文化をもっているが、当時はさらにそれが顕著で、
その様子を読むだけでも興味深い。

これが現代の物語なら、こんな完璧なヒロインなんか鼻について読めない!と
思ってしまいそうだが、神秘的な時代や王室を背景にするとそれはない。

フィデルマはキリスト教の修道女だ。それは今に通じるものでもあるが、
もともとアイルランドには独自の宗教観があった。
そしてローマには壮麗な都にふさわしい文化があり、宗教の中心地としての
誇りもある。
そんな温度差や、見解の違いなどもとても面白かった。

少々堅苦しい印象はあるが、謎解きはリズミカルで意外に読みやすい。
重厚な古代の空気の中で、軽やかなフットワークで事件を分析するフィデルマは
実に魅力的だ。

シリーズ化されているし、長編もあるようなので、もう少し読んでみたい。