息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

大晦日のローストビーフ

2010-12-31 11:24:29 | 著者名 あ行
秋山ちえ子 著

古い本だ。
戦後すぐからラジオや文筆の仕事をはじめ、働く女性の第一期生ともいうべき
生き方をしてきた著者。
世界中を飛び回り、多彩な体験をし、視野も広い。

それでも子育てに悩み、夫との関係に苦しむ。
「私だけの物語」では旅先で出会ったスペイン人女性にはじめて心のうちをあらわにし、
協議離婚への決意を固める話がある。

表題作は長男から毎年届けられるもの。
おそらくいまなら、ADHDとか多少の発達障害とか、いわゆる上手に人間関係を結び、
バランスよく能力を発揮することが苦手なタイプであったようだ。
料理の道を天職と思い5年目の大晦日、初めて届けてくれたローストビーフに感激したのも束の間、
一途さと空気の読めなさで周囲の人との軋轢を生み出してしまい、長男は荒れる。
そこに安保闘争への関心が加わり、著者は一世一代の決心で大反対をする。
やがて、嵐の季節が去り、ふたたび大晦日のローストビーフが復活するわけだが、
家庭内のもめごと、というにはドラマティックで、短い文なのに映画を見たような印象。

23それぞれの物語がこうなのだ。とても読み応えのある一冊だ。
そしてあらためて思い出す。これってバブルよりず~っと前の話。
イタリアンも、オリーブも、ニョクマムも、タラモも、知ってる人がほとんどいない時代のこと。
世界へ出ていくにもエネルギーが何倍も必要だったと思う。パワフルだなあ。

もちろんちょっと古い部分もあるし、私でさえよくわからないところもある。
でもこんな女性の先輩がいたことが誇らしく、大晦日には必ずちょっとだけでも読み返したくなる。

さよならの代わりに

2010-12-30 10:37:54 | 著者名 な行
貫井徳郎 著

『愚行録』ほどには好きではないなあ。

でも読みごたえありのミステリー。
劇団の女優が殺されて、団員である「僕」がその謎を解くというのが基本ストーリーだが、
殺人と同時にあらわれた不思議な少女がカギを握る。

タイムスリップが絡むことで、話は複雑に展開していくが、まあそこまで意外性はない。
でも著者は力がある人なので、ぐいぐい読ませてくれる。
なので、とりあえず何か読みたい、という気楽な読み方ならおすすめ。
ある程度しっかりしたストーリーで云々のこだわりがあるなら、ちょっと残念かも。

「時をかける少女」のアニメ版みたいな感じ、っていうのが一番近い気分です。

徳川慶喜家の子ども部屋

2010-12-29 09:05:24 | 著者名 さ行
榊原喜佐子 著

最後の将軍、徳川慶喜の孫であり、高松宮妃喜久子殿下の妹である著者。
戦前の華族がどのように暮らし、どう育てられたかを子どもの視点で語った一冊。
日記の抜粋があり、それについての文章が続くので、リアリティがありわかりやすい。
短冊や絵日記などの画像も多く、ほほえましい。

家柄や身分に守られて育った人、いわゆる育ちのよい人の美しさ、強さというものは
大人になればなるほど理解できるようになってきたが、この本で感じるのは教育力だ。
戦前の学習院が軸であるから、おっとりと教養を身に着けることがよしとされているが、
習字、音楽、語学、スポーツ、古典の知識などは、ごく普通に幼児期から学んでいる。
そのへんの英才教育なんか問題にならないレベルだ。
囲い込んで世間知らずになるっていうことは、反面その囲いの中だけでもこれほどの
教育ができるということなのだなあ。庶民にはとてもまねできない。

ところで、今日あえてのこのセレクトは、やはり「お正月」の章があるからだ。
一昨日、夜勤をしている会社のロビーに鏡餅が飾られた。
うらじろやほんだわら、小松に橙を見ていると、もう一回読み返したくなったわけです。

そんな私はまだ年賀状すら書いてないし、今日も夜勤だし。
その前にちょっと大掃除しようかなと思うんだけど、いま現実逃避中。
お姫さまたちは手ずからお掃除はしないけれど、季節の行事は大変でも手抜きせずにこなす。
そんな心情になってみたいものだよ。
とりあえずキッチンだけでも何とかしてきます。

ガーディアン

2010-12-28 10:42:59 | 石持浅海
石持浅海 著

どんなことからも自分を守ってくれる存在、ガーディアン。
っていうと、なんだかほのぼのストーリー…のはずがない、この著者で。

主人公、勅使河原冴にはずっと昔からガーディアンがついており、
彼女に危害が加えられそうになると、相手は骨折だの激突だの、
その悪意に応じた、いやさらにプラスアルファの被害を受ける。

そのガーディアンは亡くなった父親なわけだが。
何しろすでにこの世になく、理屈もへったくれも超越して娘への愛だけがある。
微調整不可能。手抜きなし。要するにはた迷惑。

なんとこの守りの法則は、孫娘までも対象とされてしまった。
って、結構大変です。

おとぎ話の世界なら、守られてるなんて素敵ってことでハッピーエンドのはずですが、
やっぱりそうはうまくいかないのね~。
安全と自由なら、普通の人は自由を取りたくなっちゃうよね~(え、違う?)
としみじみ思いました。

しゃばけ

2010-12-27 10:41:54 | 畠中恵
畠中恵 著

毎日根気よく病気を背負い込み、恒例行事のように死にかける、
虚弱このうえなしの長崎屋若旦那と、なぜだかそのまわりに集まるあやかしたちの話。

若旦那は実は大妖皮衣の孫。人間ながらあやかしを見、守られているのはそのためだ。
何しろ若旦那は弱いので、要するに安楽椅子探偵であり、あやかしたちは若旦那の
役に立とうとせっせと働くが、そこは人ならぬ身、ちょっとずれているのがおかしい。
特に若旦那を守るために使わされた二人のにいやときたら、大変な妖力の持ち主ながら、
若旦那のことしか頭にない。

こんなに甘やかされてもなかなかのいい子に育った若旦那に、
どうにもまずい菓子しか作れない幼馴染の菓子屋の息子だの、壁のような厚塗りをした
紅おしろい問屋の娘だの、憎めない欲深坊主などが絡み、さまざまな事件がおこる。

江戸の風俗の描写がたしかで、とても読みやすい。
また、柴田ゆうのイラストもかわいくて、この物語にはあっている。
しかし! ドラマはないほうがよかったな。

それでもずっとシリーズが続く限り読み続ける予定。
いまは9冊目。
ここまで続くとバリエーションも大変だろうなあ、でも楽しみ。