宮尾登美子 著
絃がたった一本だけ、余分なものが一切ない究極の楽器が一絃琴だ。
原業平の兄・行平が須磨に流罪となったとき、海岸の流木と
冠の糸で作ったものがはじまりとされている。
あの坂本龍馬も弾いたと言われている。
この素朴な楽器を芸術の域まで高めたのが、門田宇平の門下である島田勝子と
その娘寿子、そして勝子の弟子・秋沢久寿栄である。
一部と二部は島田勝子をモデルとした苗が、三部からは秋沢久寿栄がモデルの
蘭子が主役となる。
芸事というのは、どんなものも心構えと努力が必要だ。
そしてそれをするだけの環境も不可欠だ。
何もかも捨てて芸に賭けるか、もしくは潤沢な費用をかける道楽として楽しむか。
蘭子のライバルとして雅美という少女が出てくる。彼女は貧しく生まれながらも、
賢く清らかで、素晴らしい才能に恵まれており、一絃琴をこよなく愛していた。
一時は蘭子と争うほどに技を高めるが、あるとき突然姿を消す。
貧しい家の娘が、結婚してから稽古事をする余裕のある家に嫁げるはずもなく、
娘時代の華やかな夢として、忘れるしかないのだ。
蘭子のように豊かな家に生まれ、家族からの理解を得、本人に才能もそれを磨く力もある、
というのは稀有な存在だ。
それでも、蘭子は苗の後継者となることはできず、失意の中一度は琴を捨てる。
その恨みを捨てられないままに一絃琴への想いを再燃させた蘭子。
華やかな良家の妻たちの社交の場で一絃琴は花開く。
地味な一絃琴が光り輝いている時代である。
これは蘭子なしではあり得なかったことであろう。
悪役になってしまっている蘭子であるが、のちに人間国宝となった人。
その情熱や努力が半端なものではなかったはずだ。
それなのに、この感情のしがらみから逃れなかったとすれば、本当に切ない。
ひとつのことを突き詰める厳しさと美しさと。
そして土佐を舞台にした季節の移り変わりと。
小さな琴の音色にのせて堪能できる物語だ。
絃がたった一本だけ、余分なものが一切ない究極の楽器が一絃琴だ。
原業平の兄・行平が須磨に流罪となったとき、海岸の流木と
冠の糸で作ったものがはじまりとされている。
あの坂本龍馬も弾いたと言われている。
この素朴な楽器を芸術の域まで高めたのが、門田宇平の門下である島田勝子と
その娘寿子、そして勝子の弟子・秋沢久寿栄である。
一部と二部は島田勝子をモデルとした苗が、三部からは秋沢久寿栄がモデルの
蘭子が主役となる。
芸事というのは、どんなものも心構えと努力が必要だ。
そしてそれをするだけの環境も不可欠だ。
何もかも捨てて芸に賭けるか、もしくは潤沢な費用をかける道楽として楽しむか。
蘭子のライバルとして雅美という少女が出てくる。彼女は貧しく生まれながらも、
賢く清らかで、素晴らしい才能に恵まれており、一絃琴をこよなく愛していた。
一時は蘭子と争うほどに技を高めるが、あるとき突然姿を消す。
貧しい家の娘が、結婚してから稽古事をする余裕のある家に嫁げるはずもなく、
娘時代の華やかな夢として、忘れるしかないのだ。
蘭子のように豊かな家に生まれ、家族からの理解を得、本人に才能もそれを磨く力もある、
というのは稀有な存在だ。
それでも、蘭子は苗の後継者となることはできず、失意の中一度は琴を捨てる。
その恨みを捨てられないままに一絃琴への想いを再燃させた蘭子。
華やかな良家の妻たちの社交の場で一絃琴は花開く。
地味な一絃琴が光り輝いている時代である。
これは蘭子なしではあり得なかったことであろう。
悪役になってしまっている蘭子であるが、のちに人間国宝となった人。
その情熱や努力が半端なものではなかったはずだ。
それなのに、この感情のしがらみから逃れなかったとすれば、本当に切ない。
ひとつのことを突き詰める厳しさと美しさと。
そして土佐を舞台にした季節の移り変わりと。
小さな琴の音色にのせて堪能できる物語だ。