息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

誘神(いざないがみ)

2017-05-05 19:08:35 | 著者名 か行
川崎草志 著

山の中の小さな集落で、人目を忍ぶように暮らす少年・柊一。
彼は誰にも行くことができない「青い所」へ行き、死者をふさわしい場所に送る
「ツゲサン」と呼ばれるものの後継者であり、両親亡きいま、たったひとりでその役目を
守っていた。閉鎖的な集落のなかでも嫌われがちな存在である柊一のもとに
民生委員を名乗る安曇が訪ねてきた。
そしてアジアから始まった新型インフルエンザが猛威を振るい始め、感染を逃れたと
思われた父と、弟とともに、沙織は母の故郷である集落へと帰ってきた。

なんのつながりもなさそうないくつかの出来事が、つながりもつれあいながら
形をなしていく。
そこには経済発展のために犯されてしまったタブーや、これからの人類が歩む道への
仮説までもが語られるのであるが。
やはり「青い所」の神秘性は何にもまさっている。
普段見ている光景のようでいて、青く寂しい不思議な場所。
おだやかで何の恐怖も感じないのに、そこにいるものには記憶がなく、
うかつに踏み込めば二度とは帰れない。
自由に行き来できるものは「ツゲサン」だけ。彼らでさえ何日も寝込むほどの
ダメージは避けられない。

人が進化していくときに、どんな方向に進むのか。それには危険が伴いはしまいか。
昔ながらのしきたりが、知らず知らずに大きな危険から人々を守っていた。
もう少し知りたい、突き詰めていきたいと思わせる。
逆にいえば、物足りない。
これはシリーズ的な作品なので、それもいいのかもしれない。

昨夜のカレー、明日のパン

2017-01-25 15:54:31 | 著者名 か行


木皿 泉著

7年前に25歳で死んでしまった一樹の妻テツコは、今も一樹の父ギフとともに暮らしている。古い日本家屋で営まれるゆっくりとした暮らしの時間は、特に伝統的というわけでもなければ、特別なことが起こるわけでもない。二人は毎日働き、帰ってくる。食事は一緒のときもあり、別のときもある。テツコには恋人もいる。ごく普通の暮らしなのだが、すごくあたたかい。なんだかんだいいながら、根っこが真面目でやさしい人たち。少しずつ時のが流れのなかで、一樹の死を受け止めていく。すんなり読めて、しっくりなじむ。私の心にすうっと収まる一冊だった。
これってドラマ化されてたのね。配役的になかなか面白そうだ。好きな本が映像化されると微妙な気持ちになることが多いのだが、これはちょっと見てみたいかも。ライトな雰囲気だからかな。

ヴァージン・ブルー

2017-01-22 13:58:34 | 著者名 か行
桐生祐狩 著

次々と発見される女性の遺体には不審な点があった。性的暴行の痕跡があるのに、男性どころか、他者の存在を示唆するものすら一切残されていない。麦田巡査は謎の男しかわと、その行動範囲にちらつく女性たちを追い始めた。強い力をもつ呪具ともいうべき存在がすべてのもとにあるわけなのだが、そこに頼りすぎないストーリー展開は面白いと思った。逆に最後までその存在としかわとの関係、なぜそこにそれが現れたのかは語られず、もどかしさも感じた。ただなあ、私はカトリックのミッションスクール出身であるので、これはなかなか受け入れづらい。いくらなんでもマリア像ですよ、それをエロティックに使うとはなあ。

タルト・タタンの夢

2017-01-13 09:04:07 | 著者名 か行


近藤史恵 著

飯テロ・フレンチバージョン。
パ・マルって悪くない、ってことらしい。
商店街にある小さなビストロで出される料理は、家庭的で季節感いっぱい。
飴色のキャラメリゼ、リンゴの紅、金色の泡が立ち上るシャンパン、白くとろけるフロマージュ。
こんがりと焼き目がついた黒豚のハーブロースト、とろけるほど煮込まれたカスレ。

そんなおいしそうな店に起こる小さな事件が、ひとつずつ丁寧に解決されていく。
料理に絡んだ秘密は、ささやかな嘘や心のすれ違いをきっかけにしてふくらみ、本人たちにはどうにもできない。
ヴァン・ショー(ホットワイン)を出しながら、そのきっかけを探り、秘密を解きほぐす過程は、
心をあたためてくれる。

私が既婚者だからなのか、「オッソ・イラティをめぐる不和」は印象的。
もともとはとても仲の良い夫婦なのに、夫は妻のおしゃべりを軽視し、妻はそれに絶望する。
愛情がなせる行動とはいえ、ヴィネグレットソースの皿にフォアグラを載せられる……しかも注意したのに2回も!
好きなものなら、なおさら美味しく食べたいし、そっちが食べたいなら、はじめっから自分がオーダーするし!
いや、そりゃ切れるわ……。そして夫は何もわからず、ぽかん。っていうエピソードなんて秀逸。

悪人はいない。わがままものはいる。
でもみんな食べることが好きで、おいしいものがあると幸せ。
読後感もほのぼの。いつ読んでも楽しい。


懐かしい家

2015-03-02 13:47:38 | 著者名 か行
小池真理子 著

すんでのところで1か月あけてしまうところであった。
本は読んでいるのだが、なかなか更新できません。
別に何しているわけではないのだが、まあいろいろと気が重いことが続く。

幼いころ住んだ家、というのは大人になってからのそれとは違う。
自分自身の目線が変わっていくわけだし。
ごく普通のサイズでも、子供心にはとても大きくてとても高いと感じる。

そんな実家を離れて暮らした「わたし」は、両親亡き後また戻ってくる。
静かなひとりの暮らしのはずなのに、そこには不思議なぬくもりや
訪問者がいる。
生きているものと、命がないものと。
そのはざまにあるようなこの家。
ホラーの気配を漂わせながら、ファンタジックでやわらかな物語が集められている。

「わたし」は生きているものなのか?
ふと、そんなことが思い浮かんだ。