息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

幻想病院

2013-03-31 10:21:34 | 著者名 や行
米山公啓 著

星新一のショートショートを思い出す、ウィットに富んだ大人の物語。
医療の問題点を鋭く切り取り、近未来を舞台に語られる話はさすがのひとこと。

ブラッキーでシュールで、クスリと笑える。
一つひとつの話は短くて、あっという間に読めるのだが、それが惜しいくらいに
それぞれの完成度が高い。

高齢社会、画期的な新薬、健康保険制度の破綻、遺伝子治療。
どのテーマも現実的で、既に問題になっているものも多い。
笑えない笑い話であるが、それがまったく人ごとではない。
きっと近い将来に起こってしまいそうで怖いのだ。

著者は現役の医師。
だからこそ書けるリアルさなのだ。
知識が裏付けているからこその近未来の姿といえる。

待ち時間が長くて安心する「待たない病院」なんて皮肉に満ちているが
ありそうで怖い。

ピノッキオ

2013-03-30 10:53:51 | 著者名 か行
カルロ・コッローディ 著

ディズニーの可愛らしいキャラクターのイメージが強い。
しかし、物語自体はさまざまな比喩や深い意味に満ちている。

初めて手にした本が結構渋めの挿絵だったせいか、可愛いだけの
ピノッキオはなんだかよくできた偽物のような気がしていた。
無邪気で微笑ましくて、おじいさんが大好きな愛らしい人形。
私がもつイメージはそこにひとさじの毒があったのだ。

いうことを聞かない子どもが陥る罠は、危険なのに甘く魅力的だ。
こちらが簡単だよ、楽しいよ、と言われればすぐになびく。
一瞬のためらいも、こうすればバレないよ、結果は変わらないよ、という
言葉の前には何の力ももたない。
帰ると叱られるからもう少し遊んでから、自分だけでもここならなんとかなる。
なんの根拠もない先伸ばしの考えが、さらに子どもをがんじがらめにしていく。

この悪い子こそ人間のもつ姿。
大人たちはピノッキオの困った様子に自分を重ね、ため息をつく。

多くの冒険と失敗を重ね、おじいさんをフカのお腹から救い出し、
しだいにピノッキオは努力することを身につける。
そんなある日、妖精の手によって念願かない人間の子どもとなる。

ピノッキオが体験する冒険は、一つひとつが鮮やかに心に残るものばかり。
さんざんな経験ののちおだやかな暮らしに落ち着くというのも、
なんだか人生を表している気がする。

幼い頃ワクワクしながら読んだ本を、大人になって深読みする楽しさ。
この作品はそれを堪能させてくれる。

クレオパトラ

2013-03-29 10:03:48 | 宮尾登美子
 


宮尾登美子 著

著者がエッセイなどでも時々触れていたクレオパトラ。
様々な女性の姿を描くうちに、スケールの大きい女王の姿に
興味を惹かれたのだろうか。

念願かなって誕生したこの作品は、これまでのクレオパトラ像を
覆すものだった。

周囲を的に囲まれ、常に暗殺の危険にさらされつつ戦い続ける運命。
愛する人に出会いながらも、その感情に溺れることは許されず、
常に国家のために生きる女性。
どこまでも公に生きたクレオパトラだが、著者は違う視点で見た。
彼女の人間臭さや生々しさを切り取り、心の揺れや苦しみを
リアルに描き出したのだ。

結果、伝説の女としての魅力はやや薄れたように思う。
遠い異国の神秘的な女王だったクレオパトラは、著者の筆にかかると
身近な存在になり、恋愛や嫉妬に苦しむ女になる。
これは好みの分かれるところだと思う。

そのぶん長さのわりには歴史的な部分が減っている気もするし。

しかし、著者の作品がとても好きな私としては読み応えがあった。
独自の切り口も、私自身の理解の助けとなった。

いきなり読むクレオパトラとしてはあまりおすすめできないが、
ひとつの新たな見方としては斬新で面白い。

ミザリー

2013-03-28 10:03:12 | 著者名 か行
スティーヴン・キング 著

映画化されたかの有名なサイコサスペンス作品。

熱心すぎるファンが裏切られたと感じたとき、
そこにはものすごい負のエネルギーが生じる。
可愛さ余って憎さ百倍そのものの物語だ。

著者自身もここまでとはいわないが、ファンからかなり怖い目に合わされたらしい。
人気商売って怖い。

ベストセラー作家ポール・シェルダンは「ミザリー」最新作の原稿をもって移動中、
吹雪の中で崖から転落する。
両足骨折という大怪我を負った彼を救ったのは、元看護師のアニーだった。
彼女は連載中の小説「ミザリー」の大ファンで、作者であるシェルダンの世話が
できることに感激していた。

しかし、彼女が「ミザリー」の結末を知ったとき、それは一変する。
納得しない彼女は狂気をむき出しにし、シェルダンを包丁で脅し、
さらには薬物中毒にさせて、思い通りの小説を書かせようとする。
もともと精神異常の彼女は、ミザリーへの思い入れも普通ではなかった。

一旦絶望から救われたと思わせておいて、徐々に相手の異常性があらわになり、
退路を絶たれていくさまは絶望的な恐怖。
もっと怖いのは「『ミザリー』のモデルは私だ!」と著者を訴えた女性がいたこと。
もはや眠れないレベル。

タイプライターの「N」のキーが壊れていて、そこだけ手書きする場面なんて
妙にリアルでなにか意味があるのか?と深読みしたくなる。

ちなみに映画も見た。
……すごく怖かった。

三国志

2013-03-27 10:03:35 | 書籍・雑誌
最近またまたゲームなどで名前を聞く「三国史」。
好きな人は好きだよねえ。
小学生でも理解出来るらしい入門本とか、漫画とかもあるから、
ハードルは低い……ハズ。

しか~し!

私にとってはもう相性が悪いなんてものじゃない。
何度挑戦しても負ける。
私にとって不倒のボスキャラみたいなものだ。

いや読んだんですよ。何度も何度も。もちろん入門用も漫画も含めて。
赤壁なんか結構面白い話だと思ったよ。
でもその世界に入れない。もう登場人物が混乱しまくり。
何かもう途中から罰ゲームみたいになってくる。

本嫌いな人の読書ってこんな感じなのかなあと思うことしきり。

何かを得る、とか理解する、とかいう前に、もう息も絶え絶えに前進するだけになる。
なので見た、しかしまったく覚えてないってことになる。

この作品はビジネスマンに人気らしい。
この戦略とか立ち回りとかが仕事に通じるものがあり、生き方の指針にもなるという。
これだな。私に欠けているのは。
壊滅的に仕事の世界で生きられないというのが、「三国史」に現れているに違いない。
ビジネスセンスも人間関係も苦手だからなあ。

ま、それでも20年以上仕事らしいことはしてきたから、人間いきていくことはできますよ。
多分出世はしないだろうけど。
春はいろいろ考えちゃうなあ。