息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

夢違

2014-07-03 10:32:55 | 恩田陸
恩田陸 著

久々の恩田ワールド。
ずっと気になっていながら、ドラマ化映画化とかされてしまったものだから、
どうにも手が伸びなかった作品だ。
しかも原作とは大幅に違うっぽかったし。

しかし早く読めばよかった……。
すごく好みど真ん中!

予知夢を見ることができる古藤結衣子は、かつて大事故によって
死んだとされていた。
しかし、夢判断を職業とし、かつて結衣子の婚約者の弟であった
野田浩章は、その姿を目にしてしまう。
時を同じくして、説明のできない失踪事件が相次ぐ。

夢というものが価値をもち、それを読み取るシステムが確立され、
分析する夢判断が存在する社会。
そこにはまだ偏見があり、誤解があり、過度の期待がある。
そして有能な予知能力が必ずしも歓迎されないのは、いずこでも
そして今も昔も変わらない。

結衣子はそれらに追い込まれて姿を消したのではないか。
ではつぎつぎと怒る謎の事件は全く無関係なのか。
失踪した人々の中には、かなりの確率でかつて夢札を引いた……
夢のデータをとり分析を行った者がいることがわかり、
ますます事件は迷走していく。

八咫烏や和水仙、視界を奪う濃い霧。
そこに使われるモチーフは不思議と少しの怖さを秘めている。

最後の場面、法隆寺で結衣子と裕章は微笑みを交わす。
それは現実の世界のものなのか、時空を超えたものなのかは
はっきりしない。
それでもふたりのつながりの強さは伝わってくる。

新耳袋コレクション

2014-03-02 10:48:05 | 恩田陸
恩田陸 編

「新耳袋」は木原浩勝と中山市朗による、百物語を模した作品。
第十夜まで刊行されている。
その99話から著者が厳選してまとめられたのが本書である。

チョイスの仕方が好みに合えば、とてつもなく面白い。
そしてそういう意味ではど真ん中だった。

もともとの話が短く簡潔で、淡々と語られている感じなのだが、
ここで集められているものは不思議、哀しみ、懐かしさなどの
エッセンスがあって、怖いだけではなくしみじみ読める。
物語のちょっとしたエッジみたいなものが心に刺さっていたり。
ぞっとするものはあまりないのだが、心に残るものは多い。

表紙のやわらかなイラスト(フタミフユミ)もその印象に
ぴったりと合っている。

短編のこわい話はあまり何度も読み返そうとは思わないものだが、
なんとなくこれは読み返しそうな気がする。
てもとに置いておこう、と思った。


小説以外

2013-12-01 10:15:24 | 恩田陸
恩田陸 著

著者の不思議な世界観がとても好きだ。
身近にありそうでない特有の雰囲気。
それらをかたちづくったのがたくさんの本たちだ。
私もかなり本が好きな子どもであったし、今も絶えず読む方だが、
足元にも及ばない。すさまじい量もさることながら読みこなす知力が違う。

はしばしに出てくるすごく勉強の出来る子だったんだろうなあ、という
雰囲気。いかにも進学校らしい高校時代の思い出。
努力は普通のことで、自分の立ち位置がしっかりしている。
でもまったくイヤミは感じないんだよなあ。
私のような田舎の劣等生にとってこれは驚異的なことだ。

デビューから14年間のエッセイがまとめられた本書は、初々しい恩田陸から
ベテランの恩田陸までもりだくさん。
そうかあ、こんなふうに考える人なのだなあ、とか、
こんなものが好きだからこんな話ができたのかなあ、とか、
勝手に分析しながら楽しんだ。

個人的にうれしかったのは「細雪」を書いた「四人姉妹は小説そのものである」。
私にとってこんなに読んだ本はないくらい、繰り返し読み返す一冊だ。
日本の小説からひとつだけ選んだ、といういう恩田陸の言葉に
ものすごく納得する。

でも、やっぱり恩田陸は小説だなあ。それもファンタジーが好き。

私の家では何も起こらない

2013-05-03 10:53:42 | 恩田陸
恩田陸 著

丘の上に建っている古い小さな家。
なぜか時の流れが止まったかに思えるこの家には、幽霊屋敷という噂が絶えない。

この家をめぐる連作ホラー短編集。
主人公が変わり、時が巡り、謎が増えていく。
穏やかな佇まいと見せて、最後はゾクリ。そして次の編へとつながっていく。

遠い日の思い出、招かれざる客。
台所で行われた姉妹殺人。
さらわれてマリネにされた子どもたち。

風に揺れる木々の枝が、甘いアップルパイの香りが、
そして窓辺に映る人影が、そこにあるかのような現実感。
見てはいけないものが見えてしまい、知ってはいけないことを知ってしまう。
それを包み込んで隠し持つ小さな家。

どの話も完成度が高く、もっともっと読みたくなるものばかり。
恐怖がこれほど冷静に、そしてぬくもりさえもって現れるとは。

まさに好みにぴったりの上質なホラーだった。

猫と針

2013-04-28 10:38:49 | 恩田陸
恩田陸 著

演劇集団「キャラメルボックス」のために書かれた作品。
キャラメルボックスは結構好きなので、これにも興味をもった。

しかし、やはり私は脚本ってあまり得意ではない。
たぶんこの作品は演じる人まで想定して作られているだけに、
視覚的効果も計算済みで、そこまで文字から読み取れない素人が
楽しむのにはハードルが高いのだ。

一面、こういうのが大好きで、脚本も見慣れていて、
さらにキャラメルボックスが好きだったりする人にはたまらないかも。

高校時代の友人が亡くなり、葬式の帰りに集まった元映画研究会のメンバー。
男女5人が織り成すプチ同窓会は、どうにも雰囲気が暗い。
そのうちにかつての不可解な事件へとおよぶ。
あの事件はなんだったのか。
そして今夜の宴は誰かが仕組んだものではないのかという疑惑が浮かぶ。

このような形での発表ではなくても、演劇っぽい作品は多かった著者。
しかし、ここで思い出す、そういえば著者の作品でいちばん苦手だったのが
このタイプなのだよなあ。

というわけで、作品がどうこうというよりも、入り込めなかったという感想。
これは個人の趣味なのでやや残念です。