姫野カオルコ 著
表紙はポール・デルヴォー。大好きな画家なのでなんだかうれしい。
しかし、読み始めはなかなかに辛いものがあった。
複数の子どもがいるとき、親はそれぞれに役割を決めてしまうらしい。
極端な例として、搾取するための子、甘やかすための子。
「この子はダメなのよね」と言いつつ後者に金をつぎ込み、
尻拭いをし続ける。その費用は必死で働く前者から出る。
親が倒れたときも当然のように後者に押し付けられる。
私は聞き分けのよい長女であり、服装に無頓着で物欲がなく、
下の子の面倒をよく見、家事をよく手伝うことになっていた。
妹はおしゃれで服にうるさいので仕方なく買ってもらえることに
なっており、子どもが好きで扱いもうまい。そのかわり、私より
優等生ではないことになっていた。
弟は待ち焦がれた男児として多くが許され、その分過大な期待を
背負わされた。
以上の設定は、合っているものもあるが、押し付けられたものも多い。
主人公・泉はそれをもっと明確な形で押し付けられ、両親から
はっきりとした形の愛を受けることなく育っている。
後に生まれた妹・深芳が病弱でかわいらしかったことから、
影をすべて引き受けることとなるのだ。
理不尽でさびしい。そんな子ども時代の泉はけなげで哀しい。
しかし、周囲にわずかながら理解者を得たことが彼女を成長させる。
シンデレラの魔法使いはまたたくうちに魔法をかけてくれたけれど、
泉は小さな理解とたくさんの教えをていねいに積み重ねて、それを
自分の財産とした。
彼女は華やかな舞踏会には行かなかった。一見地味すぎる旅館の
裏方に徹した。しかし、目線を変えると、寂れてきた温泉宿を
自らのアイデアで立て直し、そのポリシーを押し通して繁盛させる
という、素晴らしい成功をおさめている。
皮肉だなあと思うのは泉と深芳の美に関する評価だ。
地元では常にお姫様扱いであった美芳だが、駆け落ちして一時住んだ
横浜では“おかいさん”(おかゆ)と呼ばれた。ガールのスタンダード。
それ以上でもそれ以下でもない、と切って捨てられる。
そして彼らは泉こそを美しい人だと評価するのだ。
小さな社会と開けた社会では、こういう価値観は全く違う。
ただ、泉がこんなかたちで評価されたことに胸がすく思いがした。
彼女の一生は決して不幸ではない。手のひらに落ちた幸せを
しっかりぎゅっとつかんでいる。
誰もがそうとは思わないくらいささやかなものまでも、きちんと
幸せと意識しているから、ほかの人の幸せの何倍も多い。
彼女は文字通り突然消えた。
たくさんの置き土産を残して。
自分のマイナス思考が情けなくなるけれど、私は泉のようには
とても生きられそうにない。ましてや人のためになることなんて
何一つできそうにない。
それでも、この一冊でとても勇気づけられた。
読んでよかった。出会えてよかった。
表紙はポール・デルヴォー。大好きな画家なのでなんだかうれしい。
しかし、読み始めはなかなかに辛いものがあった。
複数の子どもがいるとき、親はそれぞれに役割を決めてしまうらしい。
極端な例として、搾取するための子、甘やかすための子。
「この子はダメなのよね」と言いつつ後者に金をつぎ込み、
尻拭いをし続ける。その費用は必死で働く前者から出る。
親が倒れたときも当然のように後者に押し付けられる。
私は聞き分けのよい長女であり、服装に無頓着で物欲がなく、
下の子の面倒をよく見、家事をよく手伝うことになっていた。
妹はおしゃれで服にうるさいので仕方なく買ってもらえることに
なっており、子どもが好きで扱いもうまい。そのかわり、私より
優等生ではないことになっていた。
弟は待ち焦がれた男児として多くが許され、その分過大な期待を
背負わされた。
以上の設定は、合っているものもあるが、押し付けられたものも多い。
主人公・泉はそれをもっと明確な形で押し付けられ、両親から
はっきりとした形の愛を受けることなく育っている。
後に生まれた妹・深芳が病弱でかわいらしかったことから、
影をすべて引き受けることとなるのだ。
理不尽でさびしい。そんな子ども時代の泉はけなげで哀しい。
しかし、周囲にわずかながら理解者を得たことが彼女を成長させる。
シンデレラの魔法使いはまたたくうちに魔法をかけてくれたけれど、
泉は小さな理解とたくさんの教えをていねいに積み重ねて、それを
自分の財産とした。
彼女は華やかな舞踏会には行かなかった。一見地味すぎる旅館の
裏方に徹した。しかし、目線を変えると、寂れてきた温泉宿を
自らのアイデアで立て直し、そのポリシーを押し通して繁盛させる
という、素晴らしい成功をおさめている。
皮肉だなあと思うのは泉と深芳の美に関する評価だ。
地元では常にお姫様扱いであった美芳だが、駆け落ちして一時住んだ
横浜では“おかいさん”(おかゆ)と呼ばれた。ガールのスタンダード。
それ以上でもそれ以下でもない、と切って捨てられる。
そして彼らは泉こそを美しい人だと評価するのだ。
小さな社会と開けた社会では、こういう価値観は全く違う。
ただ、泉がこんなかたちで評価されたことに胸がすく思いがした。
彼女の一生は決して不幸ではない。手のひらに落ちた幸せを
しっかりぎゅっとつかんでいる。
誰もがそうとは思わないくらいささやかなものまでも、きちんと
幸せと意識しているから、ほかの人の幸せの何倍も多い。
彼女は文字通り突然消えた。
たくさんの置き土産を残して。
自分のマイナス思考が情けなくなるけれど、私は泉のようには
とても生きられそうにない。ましてや人のためになることなんて
何一つできそうにない。
それでも、この一冊でとても勇気づけられた。
読んでよかった。出会えてよかった。